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たたらが心配していることも会って、直ぐ様電話してみたが、やはり誰も出ない。
留守番電話にもなっていないから、どうにもできない。
……困ったな。たたらじゃないけど心配になってきた。
香子ちゃんが言っていた葛川さんのブログでも読んでみることにした。
検索したらすぐにヒットした。
記事を書いている期間は一年足らず。
香子ちゃんが言っていた通り、ここ一年に更新された気配はない。
内容は、自然災害によって混乱している現地へ行ってのボランティア活動報告だ。
最初の方は結構あちこちに出向いているが、後半は一ヶ所にとどまっている。
……ここ、覚えているな。
確かニュースで特集組んでたやつだ。
この番組、確かテレビで見たぞ。
そこは一昨年 結構大規模な自然災害があった場所だ。
しかも、結構山奥にある村で、年よりばかりが住んでいるところだ。
彼女のブログでは、この町の様子を写真入りで詳しく書かれていた。
その多くは、ボランティアを募るもので、若者が少ないこの村ではいまだ復旧が進まず、多くの家庭が仮説のプレハブで不自由な生活しているようだ。
彼女自ら大工仕事をしている画像もある。
見た感じ、役に立てそうな体格ではないが、黄色いヘルメットをかぶって笑顔で木材を運んでいる。
俺の期待を裏切らないくらいの美人ではあるが、香子ちゃんとは少し違う。
幼稚園の時の記憶は、アルバムを見た限りまあまあ正解だったが、年を取ってからの誤差があったようだ。
記事には、毎回いろんな人からのコメントが書かれている。
その殆どが彼女を激励するもので、中には"雑誌の記事を読みました! 夏休みを利用してお手伝いに行きます。"といったものも含まれている。
……本当にフリーライター頑張っていたんだな。
ただ、ここ一年以内に書かれたコメントは少し下品なものが混ざっている。
"薫子ちゃん、可愛いね! 今度は水着の写真載せてよ"とか"萌える! 俺と付き合ってくれ。そしたら手伝ってやるよ"とか。
いるんだよなぁ、こういうゴミカス野郎!
こんなコメント削除すればいいのに……。
そんなことを思いながら彼女のブログの記事とコメントを全部読んだ。
更新こそ途絶えてはいるが、最後まで魂のこもった内容だった。
コメントの一つに気になるものがあった。
"ようやく消えたか"
こいつ、何言ってんの?
HNが"サハリ川"? 何処だ?それ。サハリン州にでもあるのかな。
熱心な信者みたいなやつもいる。
この"芥川"ってやつ、ほぼ全部の記事にコメント入れてるな。
皆勤賞でも狙っていたのかな。
もう少し詳しい話をたたらに聞いてみるかな。
ふと時計を見ると既に夕方になっていた。
うわっ! こんな時間!
と立ち上がろうとすると、何時間も座りっぱなしだったせいで両足が痺れている。
思い切り部屋の中で転んで腰を打ってしまった。
頭の隅っこにあった、サハリ川も転んだ……。
「……! ちょっと俺、名探偵かもしれない」
一人の部屋で、思わず声を出してしまった。
「執筆の方はどうですか?」
香子ちゃんが現れた。
やっべぇ! 今日、ずっと葛川さんの情報収集していて、全く手を付けていないわ!
「申し訳ない、今日は全く……」
ひっくり返ったまま答える俺。
「そうですか、では私も少しペースを落とせます」
あれ、これで良かったのか?
「それで、葛川さんの情報収集はどうでしたか?」
「あ、それちょっと気になることがあるんだよな」
「気になること?」
「うん、ちょっとそれ見てくれない?」
パソコンを指差した。
腰の痛みと、足の痺れでまだ動けない。
「この芥川さんって人、嘘つきですね」
「嘘つき?」
「コメントに全く"魂"が入っていません……」
そう言いながら読み進めていく内に、例の"サハリ川"のコメントに。
「このコメント、もの凄く嫌悪感を覚えます」
香子ちゃんは汚いものでも見るような目でノートパソコンのディスプレイを睨みつけた。
「うん、俺もこのコメントが気になったんだよな」
「誰でしょうね、こんな酷いことを書くのは。私、許せません」
「それ、多分芥川さんだと思うよ」
「そうなんですか?」
「恐らく間違いない」
「どうして分かったんですか?」
「実は凄く簡単。毎日だてに原稿用紙に向かっているわけじゃないってことさ」
「『サハリ川』……縦書きだと……」
「あっ! 芥川ですね!」
「サハリ川さんのコメントの意図は分からないけど、芥川さんと同一人物であることは間違いないと思う」
「千丈川さん、凄いです! 次は推理小説も書けるかもです!」
いや、それはちょっと……。
「でもどうして芥川さんがあんなコメントを……。最初の頃の応援コメントは本当に心がこもっているのに」
「うん、確かにそうなんだよ。これ見て益々心配になってきて、もう一度たたらに連絡しようかと思っていたところだったんだよ」
「執筆は放置して?」
「そうそう、今はそれどころじゃないっていうか……ってうぎゃぁあ! 嘘です! ついうっかり本音みたいな感じで出た紛れもない嘘です!」
香子ちゃんは既にジト目。俺の動き一つで涙目になるかという非常にデリケートな状態。
どうする? 俺。
「ちょっとお仕置きです!」
「悪かった! 本当に悪かった! だから、痺れた足の上でのの字を書かないで! しかも力強目にとか。ああ、くすぐったいけど、動くと腰がぁ! 足がぁ! 助けてくれぇ~!」
「あ、良いですね。漫画でよくある『助けてくれ~!』という終わり方、一度してみたかったんですよね、じゃ最後にもうひと押し」
「ああああ! 本当にヤバイ! 許してよ~!」
「誰か、本当に助けてくれぇ~!」




