たたらの心配
"葛川 薫子"
その名前はネット検索では結構ヒットした。
彼女のブログが中心だが、フリーライターとしての評価も高いようだ。
ところが一方で、掲示板等では辛辣な書き込みもある。
残念ながら一年以上前の掲示板であるため、内容は読めないが、言いたい放題のスレッドがチラホラ。
それ以上のことはわからなかったが、どうしても気になる。
ちょっと相談してみるか……。
とりあえず、その日は、寝ることにした。
次の日、俺は最上川に電話した。
「どうしたの? 君から電話なんて珍しい」
「あのさ、お前、"たたら"って覚えている?」
そう言った途端、ヤツは爆笑した。
「覚えているよ! 君の天敵だろ? あの子、何か君にだけはいつも絡んできて、面白い子だったなぁ」
……まあ、中学の時は、結構有名だったからな。俺がたたらに絡まれるの。
「で、たたらがどうしたの?」
「うん、連絡先とかわかんないかなって」
「連絡するの?」
「ちょっと聞きたいことがあってさ」
俺にとっては今更彼女に関わりたくないが、この胸騒ぎを沈める有力な手がかりだし。
「あ、あった。じゃ、言うね」
そう言って、最上川は連絡先を教えてくれた。
「でも、どうしよ。僕がまず連絡とって、今の話を伝えようか?」
何かとうるさいたたらのことだ。その方が賢明かも。
「じゃあ、頼めるかい?」
「了解! また後で電話するよ」
電話を切って五分もしないうちに、最上川から再度連絡が入った。
「あ、事情話しといたから。さっきの番号にかけていいって」
「サンキュ。恩に着るよ」
とりあえず第一関門突破。
では……。
電話をかけてみる。
「もしも……」
「あ、千丈川!? 調度良かった! あんたに話したいことがあったのよ。 あんた、薫子のこと覚えている?」
いきなり強烈だな。
「実は俺もその件で電話したんだけど」
「この間の日曜だったかな。ホタルを見に行った時にそっくりな人に会ったのよ。薫子に」
……それ、香子ちゃんだな。
「ところがその人は他人の空似だったのね。本当によく似てたんだけど、雰囲気とか」
「それで? 葛川さんは今?」
「それがわからないから、あんたなんかの電話に出てあげているんじゃない! 最上川は中学からだから、薫子のこと知らないだろうし」
どこまで上から目線ですか? コラ
「実は、幼稚園の時から、カコとはずっと文通してたのよ」
「ええ!? 今なんて言った!?」
「ぶ・ん・つ・う 聞こえなかった?」
「いや、その前」
「カコ?」
「そう、それ! 彼女の名前、"薫子"だよね?」
「何だ、あんた覚えていないの? あの子、幼稚園の時は"カコちゃん"だったじゃない。"カオルコ"が言いにくいからとかで。それが今、うっかり出ただけよ」
思い出した! 当時は自分のこと「カコちゃん」って言ってたし、周りもそう呼んでいた!
香子ちゃんの名前を決めた時、咄嗟の出来事だったから思い出せなかったけど、確かにそう言っていた!
「あの子、持病があってさ、その治療に専念するために引っ越したんだけど、ずっと手紙のやり取りは続いていたのよ。 薫子が大学行き始めてからは殆どメールだったけど。ところが、一年前くらいからパッタリ連絡が来なくなって……」
「電話とかは?」
「勿論したわよ。何度も。メールも。でも、全然繋がらないのよ。メールの返信も来ないし」
「それは心配だな」
「そうなのよ。だからこの間、そっくりな人に会った時は、思わず声をかけたんだけど……結局人違いで」
何やら予想以上に大変な事になってきたな。
「分かった。俺もわかる範囲で調べてみるよ。また何か分かったら連絡くれよ」
「この番号でいいのね?」
「うん、よろしく」
「ちょっと待って!」
「何?」
「あんた、カコのこと見つけても、話しかけちゃダメだからね」
……相変わらずだな。何でそこまで目の敵さ。
「それじゃあな」
「ちょっと待ってよ! 返事は?」
俺は無視して電話を切った。
……お袋、何か知っているかな? メールしてみよ。




