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完全ノープラン宣言  作者: 想多メロン
それぞれの日常
28/51

アルバイト

「千丈川さん」

「何でしょう」


「私、アルバイトをしようと思っています」

「そうですか。でもまたどうしてですか?」


「先日ご一緒させて頂いた本屋さんで、アルバイト募集の広告が掲示されていたのです。それを読んでいたら、店長さんからお声をかけて頂いて」

だろうな、誰だって『こんな美人が海の店にいたら……』って飛びつくだろうな。


「私、一度お断りしたのですが、手伝いで十分だから、って」


そう言えば、爺さんが道楽でやっているような本屋だったな。

個人商店だから、親戚が手伝うノリなんだろうな。


本堂川書店ほんどうがわしょてんだっけ。

人雇うほど忙しそうに見えないけど、爺さんも歳だし、辛くなってきたのかな。


「そんなわけで、平日限定で時々お手伝いに行きます」

「友達が沢山できると良いですね。楽しんできて下さい」


まあ、特に問題はないだろう。

と言うか、香子ちゃんこっちの世界での生活が、人っぽくなってきたな。

このまま人になればいいのにな。


数日後、俺は仕事帰りに本屋に寄ってみた。

いつもはほとんど客がおらず、落ち着いて本を選べるのでお気に入りの店だ。

ところが、

「何だ? すごい人数だな」


それほど広くない店内に、客が溢れている。

香子ちゃんはニコニコしながら、レジに座っている。

今どき、レジで店員が座っている本屋なんて、この店ならではだ。


「こんばんは」

「あ、千丈川さん、来て頂けたのですね」

嬉しそうに彼女は微笑む。


「すごい人だね。初日から?」

「いえ、初日は殆ど誰もお越しになりませんでした。レジに来られたのはお一人かお二人で」


「兎に角邪魔したら悪いから、俺は先に帰るよ。 じゃ、また後で」

「はい」


とりあえず店から出た。

……多分あれ、香子ちゃん目当ての客ばかりなんだろうな。


家で夕食を作っていると、香子ちゃんが帰ってきた。

「お疲れ様、疲れたでしょ」

「いえ、作業なので疲れません。魂は必要ありませんから」


よくわからないが、例の空間でヒロインを演じる時には激しくエネルギーを消費するが、日常生活においてはそれほどエネルギーが要らないらしい。

詳しく考えても結論が出るわけがないから、彼女の説明は基本鵜呑みにしている。


「食事できたよ」

今日は、豚しゃぶにした。彼女が疲れて帰ってきた場合に備えたが必要なかったみたいだ。

「あ、ありがとうございます」

香子ちゃんは、部屋着に変わっていた。

着替えている様子を見たことがないから、自然に変わるのだろう。

その辺も考えるのをやめた。


「「頂きます!」」


「どうしてあんなに沢山のお客さんが来るようになったの?」

「あれはですね。初日にあんまり誰も来られないので、店の本を順番にスキャンしていたのです」


「ふ~ん、暇も暇で大変そうだな」

「あ、勿論店長さんの許可を取って…と言うか、店長さんが『暇ならその辺の本でも読んでいたらいいよ』と」


「本当に道楽だな、あの爺さん」

「するとですね…、私個人の意見なのですが、店の前の方にある本の殆どが"魂"を感じないのです」


「それで?」

「とりあえず、あちこちの本をスキャンして、私が"魂"を感じるものを店の前に、感じないものを奥に配置したのです」


「すると、入り口ばかりに人が集まってしまって、それを通りがかりの方が『なんだ? なんだ?』と」

……それであの盛況ぶりなのか。すごいな香子ちゃん。


「次いった日は、お客さんが一箇所に集中しないように、分散して配置するつもりです」(てへぺろ)


「ングッ!!」

今の"てへぺろ"は効いた、クリティカルかつインフィニティな破壊力だった。……死ぬかと思った。


まあ、本に関しては、彼女の才能だよな。

うまく発揮できる仕事先で良かったな。


「ところがですね。やはり"売れ筋"の商品もあるようでして。場所に関しては、ある程度ルールがあるようなので、それも勉強しなくてはいけません」

そう言って、小さくガッツポーズを取る香子ちゃん。何しても美しい。



数日後、香子ちゃんの様子が少し変わってきた。

ある日……

「おかえり。 夕飯できているよ」

「ほほう、これは準備の良いことだな、この香り、レイアウト、そして彩り、全て見事であるな」


「……香子ちゃん?」

「ああ、すみません。今日はグルメ漫画ばかり二〇冊ばかりスキャンしたので…」


またある日……

「香子ちゃん、気がついたら調味料が切れていたから、今から買いに行ってくるね」

「了解です! 私は後方より援護します! 今から突撃ですね!」


「……香子ちゃん?」

「ああ、すみません。今日は特殊部隊ものを一〇冊ほど…」


俺は、次の日、菓子折りを持って店に行き、事情を話して暫く香子ちゃんにお暇を貰った。

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