ランチ
今日は、外に出て昼飯を食べることにした。
少し気分転換だ。
午後からも死んだ目をしていたら、天井川からも愛想を尽かされそうだし。
会社から出たら、そこには最上川がいた。
「待ってたよ、千丈川」
「おお! 何かあったのか? 昨日の今日でまた失恋か?」
「ある意味そうかもね」
「嘘つけ、昨日からまだ一六時間ってところだぞ」
「あ、君のそういう計算早いとこ、好きだな」
最上川は普通。良かった気にしている様子はない。
「昨日は悪かったな、最上川」
「いや、こちらこそ。触れちゃいけない話題だった?」
「そういう訳でもないんだけどね」
「さ、飯行こうぜ! 僕良い店知っているんだ。ごちそうするよ」
こういう気分の時に、天井川といい、最上川といい本当にいい奴らに囲まれているなぁって実感。
最上川は、昨日のことについて触れようとはしなかった。
連れて行った店は、今まで行ったことのないアジア料理のお店で、非常に美味しかった。
今日のお礼に天井川を連れてきてやろうかな。
今日はご馳走するという最上川の誘いだったが、いつも通り割り勘になった。
昔っから、いつも割り勘だ。
こういう気楽さが、最上川との付き合いが長い理由かもしれない。
出掛けにレジで籠に入った飴を勧められ、一つ取った。
結構スパイスが効いた料理だったので、店を出て直ぐに口に放り込んだ。
間もなく俺の会社の前まで戻ってきて、別れる直前、最上川が、
「本当に大切なものを見ている目だったよ。長いつきあいだけど、あんな千丈川の目を見たのは初めてだった。僕が嫉妬したくらいだ」
それだけ言って、手のひらをヒラヒラさせながらヤツは行ってしまった。
ポケットに入っていた飴の袋。
裏に一言占いが書いている。
「自分の気持ちに正直になって! あたって砕けろ! の気持ちで」
心の中でモヤモヤしていたものが、一気に吹き飛んでいくのを感じた。
午後からはすっかり立ち直った。
覚悟も決めた。
今日、彼女に伝えよう。
いつもの自分を取り戻したことは、天井川も気づいたのであろう。
俺のデスクの前を通過しながら、
「午後のお薬です」
と言って、漂白剤をおいていきやがった。殺す気か?