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完全ノープラン宣言  作者: 想多メロン
執筆にあたって
14/51

葛川さんの話

「葛川さんに質問をして良いですか?」


一日一緒に出かけたおかげで、ぎこちなかった二人の距離は少し修正出来た感じがする。

「夕食のメニューであれば、即答できますが」


「いや、それは大丈夫。把握しているから。でも、今日は別のメニューにしますね」


「チッ!」


うわっ! びっくりした。今、葛川さん、舌打ちしなかったか? 

最近葛川さんのキャラがちょっと変わってきているような……。


「では何をお答えすれば良いのでしょうか」

横できちんと座って聞き返す。


「うまく言えないんだけど、どんな感じなのかなぁって」

「本当にうまく言えていませんね。さすがにお答えのしようがありません」


「万年筆の中ってどんなところ?」

「どんなところでもないです。この部屋にあった『動物図鑑』から類似項目を抽出して例えるならば、"冬眠"に近い状態だと思います」

「冬眠?」


「意識がないわけではありませんが、覚醒しているわけでもありません。私には"寝る"という感覚はわかりませんが、行動の全てを一旦停止して、待機しているような状態をイメージして頂ければ良いかと」


実感がわかないから、イメージのしようもないけど、まあ、そういうことなんだろうな。


「一年間、何も食べていないの?」

「基本、食べないですね。ただ、意識はありますから、多少は空腹になります。私は目の前にナッツがありましたから、それを時々頂いていましたが」

まあ、誰も気が付かないわな、万年筆がナッツ食っているって現実も信じられないだろうし。


「その時には出てくるの?」

「いえ、栄養分だけを吸い取る感じです。ナッツのポットの中に、一つ二つ極端に萎んだものが混じっているのを見たことは?」

「ああ、確かにあるね」

「あれが私の食したナッツです」


俺の人生で、萎んだナッツなんて何度も見たことがあるが、あれは、全て葛川さんのような存在によってその養分を吸い取られたってことなんだろうか。

「葛川さんと同じような存在は沢山いるの?」

「私は知りません。でもどうしてそう思ったのですか?」


「萎んだナッツってよく目にするように思ったから」

「それは、元々変形しているか、充分に育っていないだけだと思いますよ」

何だ? めちゃ普通の答え。

この件に関しては、もういいや。


「どのくらいのことを知っているの?」

「あまりの具体性のなさに、少々動揺しておりますが、それは知識、教養という部分での話でしょうか?」

「どこから聞けば良いのか分からないから、とりあえずその答えを聞かせてもらえるかな」

「こちらで言うところの"義務教育"及び"一般教養"のレベルの知識は全て習得しています。後、ここ一年の新聞記事の内容も、マスターにのご好意でスキャン完了しています」


「ああ、そう言えば、いつもカウンターのあの辺にその日の新聞置いていたな……」


「後は自分からは質問できませんが、店に来たお客さんの会話は殆ど聞こえている状態なので、この一年分は全て記憶していますが」

「それは今すぐ、俺の分だけでも消去しましょうか」


「でも、"オムライス"がどんなものは知らなかったんだよね?」

「ええ、三田古品商こっとうひんやでも、飲茶家飯盗やむちゃっかはんとうでも見たことはありませんでしたから。ひょっとして私のスキャンミスでしたか? 義務教育で習うものだったとか……」


「いや、心配しないで。習わないから」

っていうか、あの骨董品屋、そんな名前だったんだ。


「後は、この部屋の書物と、三田古品商にも書籍が少し。それから昨日連れて行って頂いた漫画喫茶の情報で全てです。ああ、貴方に設定してもらった件もありますね。パソコンの件とか」


なるほど。しっかりしているように見えて、時々突拍子もないことを知らなかったりするのはそのせいか。


「ノートで設定すると、それを勉強するの?」

「いえ、それは何故か知っている状態になります」


「で、今の状態はどう?」

「どう? と言われましても、私は貴方に執筆して頂くことが目的ですから、その物語が無事に完了するまでお手伝いさせて頂くだけですが」


「現状の方針は、日記として、"恋愛もの"で行くのであれば、俺と葛川さんが恋愛するんだよな?」

「そうなりますね」

「そうすると、君の目標に対しての責任感って言うか、義務感って言うか、そういうものだけでは進めなく時期が来ると思うんだけどな」


ふむ、一瞬葛川さんは考えて……。

「問題ありませんよ。私の執筆完了への責任感と義務感は恐らく誰にも負けませんから。どんなことでも乗り越えられる自信があります」

うぉ! ガッチリ言い切られた。


「では、今後そういう関係になっても……OKってこと?」

多分、一生で一番勇気出したかもしれない。

「そういう関係……ですか? それってどういう関係ですか? 説明して頂ければ分かると思いますが」


急に恥ずかしくなってきた。

保健体育の教科書はスキャンしてないのかよ!? 一応義務教育なんだけど。

「いや、その……。今は無理に思い出す必要はない……かな」

「しかし、情報不足は後々の影響が……」


後々の影響については、多少あるかも……って何考えているんだ! 俺。

葛川さんは俺の執筆のお手伝いをしてくれているだけなのに! 

それに"説明"とか無理! 二六歳が二四歳にする話じゃない! 


百獣の王様の洗剤でも、花の王様の洗剤でも、落とせそうにないくらいの脂汗をかいて、この話題は終了した。


「でも、最近、戻ると少し寂しいのです」

珍しく自分の気持ちを話す葛川さん。


「寂しい? どうして?」

「こちらにいるときは、いつも千丈川さんとご一緒させて頂けますが、あちらは基本一人。これまでの一年はそういうものだと思っていましたから何も感じなかったのですが、ここ数日の出来事で……。ずっと二人でいれば寂しくないと思うのですが……」


俺は、生まれて初めて胸が"キュン"となるのが聞こえた。

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