お出かけ②~展望台~
何とか葛川さんをごまかして、街に出た。
本人は、何もかもが珍しいようで、しきりにキョロキョロしている。
端正な顔立ちは、どんな表情をしていても様になる。
すれ違う男性は勿論、カップルですら二人で振り返ってこちらを見ている。
葛川さんと一緒に歩いている俺は、特に手柄を立ててこうなったわけでもなく、何ならこれから彼女の監視のもと無理やり手柄を挙げさせられる立場にあることを誰も知る由もない。
ただ、待ち行く人々は、容赦なく"何故? "のオーラを叩きつけてくるし、一人で歩く男性からはそのオーラの中に"嫉妬"という名の大きめの石が入っている。
頭蓋骨が完全に陥没するくらい石をぶつけられながらも、やはりこの美女と一緒にいる時間は楽しい。
「次はどこへ行くのですか?」
「葛川さんの視力はどのくらいですか?」
「測ったことがありませんのでわかりませんが、そのビルの屋上にいる鳥くらいは見えています」
葛川さんの視線の方向に目を向けた。
確かに背の高いビルがある……、ってすげぇな! おい! 5.0位見えているんじゃないかしら。
「あのビルには最上階に展望台がありますよ。上がってみましょうか。俺は一度行ったことがありますが、見晴らしが良いですよ」
「ええ、、是非!」
最上階までは、高速エレベーターで一気に上る。
途中、耳が二度ほど痛くなるので、相当の高さなのだろう。
そこから屋上展望台へは階段を登らなくてはいけない。
「足元気をつけて下さい」
「キャッ!」
鉄の階段ということで、女性の靴とは相性が悪い。
それほどヒールの高い靴ではないが、葛川さんはよろめいた。
「危ない!」
と葛川さんの体をナイスキャッチ。何だ? 羽みたいに軽い。
「申し訳ありません、大丈夫です」
葛川さんに言われて慌てて手を離す。
「早く登りましょう!」
結構楽しみにしてくれているようだ、よかった。
気がついたら、葛川さんに手を引かれていた。これもよかった。
「凄いですね、綺麗です」
少し風が強い。髪をかき上げながらそう言った。
髪が風になびいている葛川さんの横顔。
何かの芸術作品の様に美しい。
「風が強いですね。中に入りましょうか」
「ええ、充分感動もしましたし」
間もなくビルの中に入った。
最上階には、お土産屋さんや飲食店が入っている。
そろそろお昼でお腹もすいてきた。
「何か食べますか?」
一瞬葛川さんの目が光った。
ヤバイ! またオムライスか?
「何でも良いですよ。千丈川さんの食べたいもので」
意外だ。てっきりオムライスかと思ったのだが。
「では、洋食屋に入りましょう。葛川さんはオムライスでも良いですよ。但し"おまじない"は勘弁してもらえませんか?」
クスっと笑って葛川さんは言った。
「当たり前じゃないですか。公共の場であんなことできませんよ。変な人だと思われてしまいます。しかも、レストランだと、最初からケチャップかかった状態で出てきませんか? 変なことを言いますね。千丈川さんって」
おいおいおい! ちょっと待て! 今、俺が恥かいている?
「でも、きまりって……」
「そうですよ。ケチャップでメッセージを入れるのも、おまじないをするのも大切な儀式です。"二人だけで食べる時"限定ルールです」
ケロッと言ってのけた葛川さんだったが、俺はなんとなく恥ずかしくなってきた。
話題を変えよう。
で、何の話題に変えれば良いんだ?
「では店に入りましょう」
差し替える話題が見つからないまま、黙々と食事を続けたのであった。
え? 葛川さんが注文したものですか?
俺と一緒のハンバーグ定食でした。
なんか彼女のことがよくわからないです。正直。
その後、彼女の提案で公園に行ったり、食材を買いにスーパーに行ったり。
傍から見ていると、仲の良い若夫婦かカップルに見えただろうな。
ちょっと目を離した隙に、葛川さんがナンパされたり、公園で食べたソフトクリームで軽いハプニングもあったが、執筆のネタになりそうな場所をあれこれまわった。
そして最後には、彼女ご所望の"夕暮れの街角"を見てから帰宅した。