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女子高生の一日  作者: 蓋
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4月16日(火) 自分の番号を恨む日・美化委員会の集まり 日直:大下聡・後藤健太

4月16日(火) 自分の番号を恨む日・美化委員会の集まり 日直:大下聡・後藤健太


 今日は欠席しようかと思ったが、事情をまるで知らないお母さんに布団からひっぺがされ、家から叩き出された。

 学校についてため息をひとつこぼす。そんな私に、真希ちゃんが振り返って笑う。

 何故なら、今日は16日だからだ。誰かの命日とかではなく、単純に私の出席番号が16番なのが悪いのだ。昨日は真希ちゃんが当たりまくっていたが(若干その余波を後ろの席の私も食らった)、氷のように冷たいと評判のどS教師が受け持つ数Ⅰの授業はなかったため、真希ちゃんはラッキーな方だ。

 運が悪いことにその授業、今日はあるのだ。しかも1時間目。


 私は昨日必死の形相で終わらせた宿題を何度も見た。必死すぎたせいか、昨夜セロハンテープを借りに部屋にやってきた弟が「高校生ってこんなんになるのか……」と呟き、その後リビングで「俺は高校生なんかになりたくねー!!モラトリアムだバカやろー!」と叫んでいた。その後、煩すぎてお母さんに叩かれた模様。


 そして、案の定あてられた。黒板の前でチョークを持つ手が震える。隣りで教師のメガネが光る。

この教師、間違えると「ああ、君には難しすぎましたか。こんな問題もとけないとなると、ちょっと……ねぇ」と絶対零度の温度で呟くのである。

 文字にすると簡単だが、実際に隣りで吐かれてみろ。マジで縮み上がる。しかも正解しても何も言われない。悲しい気持ちになる。

 震える手で因数分解の式を書くと、すぐさま横からにゅ、と手が伸びてきて、赤いチョークで丸を書かれた。おーよかった。席に帰る途中、真希ちゃんがよかったね、とにこやかな顔をしていた。無事帰還。殿は横で豪快に爆睡しており、その後しっかりとあてられていた。南無。


 昼休みになると、美化委員会の集まりということで真希ちゃんと連れ立って委員会の部屋が集まっている東棟に向かった。渡り廊下を渡っていると、真希ちゃんが言った。

「っていうかさーオリエンテーションの班分けウケたね」

「いやいやいや、全然ウケないでしょ」

「いやーまー殿もいるし大丈夫でしょ。柴田ちゃんもカモフラージュになりそうだし。ついでに今回は不可抗力だし、ファンも何も言えないって……あ」

 急になにかに気づいたかのような真希ちゃん。

「え、なになに!?」

「真田ちゃん……三上さんには殺されちゃうかも」

「……あ」

 そうだ。同じクラスかつ殿と同じ委員会の三上さんは殿のことが好きなんだった。

 朝倉南になるために野球部の見学に行った真希ちゃんは、その日サッカー部の見学にいる三上さんを見たらしい。目がハートマークになっていたと語った。

 その事実に蒼褪めていると、4階にある美化委員室についた。

 中は意外に広く、会議室みたいに長机が3個ずつ、奥までずらーっと並んでいた。さすが私立。美化委員は1クラス4名、A~G組まであるので7×4で1学年28人。それが3学年で総勢84人。机1つに3人座れるとしても、絶対10列まで人がいるはずであった。しかし、埋まっているのは精々5列目くらいまで。しかも、ほぼネクタイやリボンのカラーが緑だから大体が1年生である。2年生の赤色や3年生である青色のそれは滅茶苦茶少ない。

「あーサボりオッケーか。ゆるくてよかったー」

 真希ちゃんが座りながら喜んでいた。たしかに喜ぶべきところなのだろう。しかし、私には喜べない事情がある。

「今度からさぼろっか」

 まだ委員長が入ってこないのであたりは賑やかだった。真希ちゃんの言葉に私は呻く。

「なに、どうした」

「いやーそれがさ、私真面目系クズなんだよね」

 私の突然の告白に真希ちゃんは鳩がまめ鉄砲食らったような顔をした。

「え、マジか。っていうか、真面目系クズってなに?」

「なんかこういうのサボれない人種のこと。かといって人が困ってても率先して助けないし、課題も当たるところしかやんないし、こういうの真面目系クズじゃない?」

「ウケる。そうかも。ていうか、なにその単語。ヤバいウケる」

 真希ちゃんはそう言って笑い始めた。

 どうやら真面目系クズとの言葉が微妙に彼女の笑いのツボを押してしまったらしい。真希ちゃんがひーひー言っていると、委員長らしき人物が入ってきた。

 委員長は茶髪の優しそうな人だった。委員長の3年の横山ですと言うと、早速手元に大量にもっていた資料を配り始めた。

 見てみると、どうやら掃除担当の場所である。

 各場所が書かれており、その横に何名と数字が書かれ、名前の記入欄がある。その後の説明を聞く限り、どの場所にどの人を割り振るかは美化委員の裁量に任せられているらしい。

 ちなみに美化委員の掃除場所は2枚目の紙に既にきっちりと名前付きで割り振られていた。私たちD組美化委員は4人そろって第二体育館だ。C組の美化も一緒だった。

 1学期限りとだけあってそんなに任されることもなく、また次の定例会で追って連絡します、という横山先輩の言葉でお開きとなった。とりあえず一旦教室に帰って真希ちゃんと残りの美化委員と相談だね、と言っていると声が掛った。

「佐藤さんと真田さん?」

 顔を上げると、めちゃくちゃ女の子っぽい人と目つきの悪い男の子が立っていた。

 同じクラスで同じ美化委員の上田くんと斉藤くんである。

 上田くんは、身長はそんなになく線が細い男子で、柔和な顔つきをしている。話したのは今回が初めてだ。

 一方、斉藤くんは目つきが悪くて背も高いため威圧感がある。教壇の真ん前の席なので、よくタナセンに雑用を言いつけられている。斉藤くんとも話すのは初めてだ。

「よかった、今日来てたんだね。これ、もし時間があったら決めちゃう?」

 そう言って上田くんが手にしていたのは、先ほど配られたプリント。たしかに時間があれば4人が集まる今さっさとやっちゃう方が効率的だ。

「オッケー」

 真希ちゃんも私も今日は用事がない。頷くと、2人は前の椅子に腰かけた。

「あ、でも僕クラスメイト全員分の名前覚えてないや」

「あ」

 2人が机を挟んだ向かい側に腰をおろす。上田くんが持っていた筆記用具からペンを出しながら、思い出したように言った。確かに覚えていない。気まずい沈黙が流れたが、そんな中、斉藤くんがガザゴソと自分の胸ポケットからなにかを取り出した。折りたたまれたそれを開いていく。

 3人で覗き込むと、どうやら入学式の日に配られた席順の紙のようだ。

「おおー」

「助かるー」

「慶介これまだ持ってたの?」

 上田くんの言葉に斉藤くんが頷く。この2人、中々仲がいいみたいである。真希ちゃんも不思議に思ったらしく、聞いていた。

「2人とも仲イイね」

「うん。僕たち同じ中学だから」

「へー何中? あ、もしかして県外?」

「1中だよ。佐藤さんと真田さんは?」

「あたしは4中」

「私5中」

 そう言うと、上田くんは「そうなんだ。仲いいからてっきり同じ中学かと思ったよ」と言って笑った。しかし、壁にかかった時計を見て「いそがなきゃ」とキリっとした顔で言った。つられて時計を見ると、5時間目が始まるまであと10分もない。

「オッケー。じゃ、サクサク決めてくか」

「そうだね。基本出席番号順でいっか」

 確認しながら記入欄を埋めていく上田くんは、途中で何かに気づいたようにペンを止め、困惑した顔で真希ちゃんと私を見た。

「ん?」

 真希ちゃんと一緒に手元を見ると、殿村、という文字で止まっている。その先は言わずもがな、ダビデ様である。

「あー中川かー」

「もしかして2人とも中川くんと同じ場所掃除したかった?」

 気まずそうに上田くんが言ったが、2人そろって首を横に振った。

「「まさか」」

「あ……そう」

 呆気にとられたように上田くんはそう言うと、視線をプリントに落としてそのまま唸った。

「うーん、どうしよっか。これ揉め事の種にならないかな」

 出席番号順に行くと、ダビデ様が掃除をする場所は東棟3階にある多目的室。6人の配置予定だが、その内2人が女子である。西田莉子、土肥加奈子と書いてある。土肥さんは私の斜め前の席に座っている背が高い女子だ。西田さんはあれだ、ダビデ様と同じ委員会の人だ。女子アナ風。

「まー大丈夫っしょ」

「たしかに。むしろこないだ加藤女史が言ってたみたいに機械的に決めた方がいいと思う。その方が説明しやすいし」

 眉を寄せている上田くんに真希ちゃんと2人で能天気にそう言うと、それもそっか、と納得したのかそのまま続きを書き始めた。こうして見ると上田くんは睫毛が長い。というかペンを握ってる手もか細い。

「でも2人とも珍しいね、中川くんに興味ないなんて」

「やつは部活クラッシャーだか「わわ、いや、他の女子も怖いし」

 案外根に持っている真希ちゃんの言葉にかぶせ、本音を言う。すると、上田くんも神妙に頷いていた。

「それはそうかも。ね、慶介」

 斉藤くんはその問いかけに無言でうなずいた。

「それにしても無口だね、斉藤」

「昔からなんだ」

 真希ちゃんが感心したようにそう言うと、上田くんが答えた。

「小学校も一緒なの?」

 手元が忙しい上田くんに代わって斉藤くんに尋ねると、斉藤くんは腕組みしたまま頷いた。なんだか武士みたいである。

「できた」

 上田くんがそう言うと同時に、予鈴がなった。

「あ、ヤバい。これ写すよね?」

 ぴらりとその手にあるのは記入しおえたプリント。

「もち。でも時間ないね」

「うん。あ、写メでも良ければ、メアド教えてくれれば画像ごと一斉送信するよ」

 ふわりと笑う上田くんに感動する。

「助かる!」

「上田くんデジタル人間!」

 デジタル人間って、と困った笑みのまま首を傾げ、ポケットから携帯を取り出した上田くんに、立ち上がった斉藤くんが声をかける。

有希ゆうき、もうすぐ授業だ」

「あ、そうだね。じゃあメアド交換は後でにしよかった」

 斉藤くんはなかなか渋い声をしていた。


 その後、急いで教室に戻り、5時間目のタナセンの現文でもしっかりと当てられた。





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