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女子高生の一日  作者: 蓋
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4月10日(水) 委員決め 日直:麻生将司・加藤愛

4月10日(水) 委員決め 日直:麻生将司・加藤愛


 今日の授業は大変ヒヤヒヤした。

 何故なら、左隣りの木下くんが10番でバンバン授業中指名されていたからだ。

 大抵の教師は次の20番に飛ぶか、あるいは後ろの席の人をあてるのだが、時折変化球で隣の席が当てられたりする。

 ということで、今日は真面目に授業を聞いてるふりをしておいた。

肝心の木下は木下で何回も間違えるので、その度に数をカウントして逆恨みしておいた。今度なにかの機会でこの恨みはらすまじ。


 ホームルームでは、委員会を決めることとなった。

 まずはクラスを取り仕切る学級委員が男女あわせて2名。

 それから文化祭でクラスの出し物決めたりする文化委員が2名。

 体育祭のときに張り切る体育委員が2名。

 それから健康診断のときに他人の体重を知ることができてしまう保健委員が男女各2名づつの4名。

 持ち物検査や登校時間チェックといった生徒から嫌われる役目を担う風紀委員が男女あわせて2名。

 以上は通年だが、次の2つは任期1学期だけだ。

 図書委員が男女あわせて2名と美化委員が4名。


 立候補および他薦が可能ということで、まずは学級委員から決めようということになった。

 その瞬間、ぴしりと勢いよく手を挙げたのは加藤女史だ。細いおさげが眩しい。

 クラス中異論なし、ということで学級委員の女子はすぐさま加藤さんで決まった。

 残るは男子学級委員だが、誰も加藤さんのように挙手しない。

 5分くらい膠着状態が続いたとき、タナセンが面倒くさそうに頭を掻いて、自分の斜め前に座っていた太田くんを指名した。

 まさかのドラフト。最前列故の悲劇である。

「うっそなんで俺なの!」

帰りたそうにそわそわしていた太田くんは思わぬ選抜に大いに抵抗したが、クラスからの生暖かい視線についに屈したのか、最終的には渋々頷いた。

 ということで、2人がタナセンに代わって教壇に立つ。タナセンは黒板横に置いてあるパイプいすにどかりと座った。


「えーじゃあ各自加藤さんに言いに来てくださーい」

 一々立候補をとっていたら日が暮れるということで、加藤女史が素早く黒板に委員会の名前を書き、その前で太田くんが教壇に手をついてダルそうに言う。

 誰も動かなかった。太田くんの溜息が落ちる。

事の成り行きを見守っていると、前を向いていた真希ちゃんが振り返った。クラスのみんなも周囲の人と相談しあっている。

「委員会入る?」

「うーん、これって入んなきゃダメだっけ」

「いや、強制じゃないけど……ひーふーみー……全部で18人でしょ。んで、美化と図書が1学期だけだからプラス12で、重複なしとして一年の間に委員会に入らなきゃなんないのは基本30人。1人が3学期まるまる美化っていう重複も可能だけど、塾いってるヤツも多そうだし、そもそもそんな篤志家いないっしょ。んで、前に委員会をやったヤツは次決めるとき考慮してもらえる可能性が高いから、意に沿わない重複は中々ない」

「考慮?」

「1学期でやったから2学期はいいよってこと」

「ああ……ということは、このクラス37人だから」

「委員会の呪縛からフリーになるのは重複なしとして確実枠は7人か。37分の7の争い」

「うわーえー案外枠狭いね」

「通年が37分の12と考えると、委員会に入らない確率の方が低いね。あたし1年も委員やるからイヤだから、アンパイで1学期かぎりの美化に立候補しようかな。図書とかキャラじゃないし」

「真希ちゃんは美化委員かー私もやろうかな」

「うんうん、一緒にやったら楽しいって。風紀とか死んでもやりたくないわー」

「なんだよ、佐藤。いいじゃん、風紀」

 話に入ってきたのは殿だ。

 嫌そうに眉間に皺を寄せた真希ちゃんが、私の隣の席から身を乗り出してきた殿に目をやった。

「なに、あんた風紀やんの。ちゃんと取り締まれんの?」

「おーやるやる。俺のことはこれから塚高の金さんと呼べ。つかさ、佐藤お前忘れてんのか?」

 真希ちゃんの嫌味に胸を張って答えた殿だったが、ニヤニヤした顔でぐっとこちらに身を乗り出した。それに露骨に眉根をよせたのは真希ちゃん。

「あだ名だっさー……で、なにを忘れてるって?」

「去年、俺とお前と優一で同じクラスだったろーが。このホームルーム長引くぜ」

「あ」

 意地の悪そうな笑顔で告げた殿の言葉に真希ちゃんの視線が私の斜め後ろに向かう。

 私もつられて振り向くと、斜め後ろにいるダビデ様はその右隣の二井さんと話しているところだった。ダビデ様の右隣に座っている二井さんがすごい勢いで質問攻めにしているが、それににこやかに対応して笑みを崩さないダビデ様もすごい。

 前へ向き直ると、真希ちゃんが絶望を顔で表現していた。

「……あたし今日バイトの面接なのに」

 たしかに、真希ちゃんは今日ファミレスでバイトの面接があると言っており、朝からウキウキしていたのは記憶に新しい。

「うわー終わったな。ご愁傷さま」

 真希ちゃんが呻くと、殿が全く心にも思ってなさそうにニヤニヤしてそう告げた。なかなかのSっぷり。

「今日長引くの?」

 私の質問に2人同じタイミングで頷いた。

「中川が立候補すればね」

「委員をめぐる女子同士の争いだな」

 ああ、と私は納得して頷いた。

 耳をそばだてると二井さんが「図書!?」と黄色い声をあげた。どうやらダビデ様が図書委員に入るといったのだろう。同様にして盗み聞きしていた2人のうち、真希ちゃんがため息を吐いた。

「あああああ……」

「ま、諦めろ。じゃ、俺加藤さんに言ってくるわー。佐藤はえげつない計算の結果美化委員として、真田さんも美化?」

「うん、ありがとう」

 どうやら風紀に決めたらしい殿が席を立った。

 私が感謝を述べて頷くと、殿は「りょーかい」と言ってそのまま黒板に向かって加藤女史に告げた。女史は頷くと、すぐさま達筆で美化の下に佐藤、真田、と書き、風紀の下に殿村、と書いた。

 みんな決めかねているのかあまり黒板は埋まっていない。

 その時、光の速さで加藤女史に駆け寄った女子がいた。

セミロングで長身の細身の女の子だ。あまり顔は見えない。その子が何か告げると女史は頷いて黒板に書き足した。殿村の横に三上、と。

 一連の動きを見ると、どうやら三上さんは殿に気があるっぽい。

「おーさすが殿。早速好きになられててウケる」

「ていうか、三上さん行動早っ」

 肝心の殿は教壇から帰ってくる途中に同じ中学出身らしき男子につかまって話し込んでいる。こんな無法地帯でいいんか、とタナセンを見ると居眠りをしていた。だめだこりゃ。


「あ、お動きになる模様」

 またしても部活紹介のパンフレットを捲り始めた真希ちゃんが私の斜め後ろに目をやって呟いた。クラス(特に女子)がどよめくのがわかった。

 そのどよめきに顔をあげた殿が、黒板の方に歩いてくるダビデ様に気付いて声をかけた。

「優一、決めたのか?」

「うん。図書委員がいいかな、と思って」

 クラスに沈黙が落ちる。その次の瞬間、すごかった。

 瞬く間に加藤女史に複数の女子が駆け寄ってきたのである。恋する乙女すげぇ。

 結局、その後居眠りしてるタナセンをしり目に揉めに揉めて、最終的に公平にジャンケンということになった。

しかし、ジャンケンに負けた子が泣いてしまったりなんだかするうちにどんどん時間は過ぎていき、今度は真希ちゃんがバイトの面接にいけないと打ちひしがれはじめた。

 そんな真希ちゃんに、席に戻ってきた殿が仮病という案を提案した。

「殿、ナイスアイデア!」

 早速それを採用した真希ちゃんは、居眠りしていたタナセンをたたき起こした。

 許可を貰って光の速さで教室を飛び出していった真希ちゃんは、さながら陸上選手のようで、全く病人には見えなかった。

 たたき起こされた当のタナセンも、唖然としてその後ろ姿を見送っていた。


 結局、揉めに揉めまくった図書委員の残り1枠が西田さんに決まった。

 すわどんな豪傑かと西田さんの方を見たら、なんとまぁ、少し緩いパーマがかかった黒髪ボブの大人しそうな少女だった。顔は、なんか女子アナにいそうなかんじの可愛い系だった。

図書委員以外の委員もこの調子で揉めるかと思われたが、どうやら怒涛の中川委員会事件にクラス中全員辟易していたらしい。その後はまるで今までのことが嘘だったかのようにするする手が挙がり、思ったよりも早いお開きとなった。





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