縁側のねこ
日本史の暗記に疲れて伸びをすると、窓から見える月がとても綺麗でした。
試験勉強なんてしている場合じゃないと、郁さんはお月見を決断します。
急須とポットとお茶請けをお盆に載せると、縁側に出ながら呼びかけました。
「ねこやねこねこ、好い月だよ。お月見をしよう」
にゃあ、といいお返事をして、奥から三毛猫が現れました。
名前をねこといいます。
ねこ自身が気にしないと言っているので、郁さんのネーミングセンスについては触れずにおきましょう。
お行儀悪く足で戸を開けて、郁さんは縁側に出ます。ねこはその後をちょこちょことついていきます。
縁側に腰を下ろすと、ねこも隣でごろりと転がりました。
吹く風も寒からず、見上げれば雲もなし。夜更けの静寂としんとした空気に包まれて、本当にいい月です。
ちゃんとポットが沸騰しているのを確かめてから、お茶の準備を始めました。
友人にはよく「あんたいくつさ!」と仰け反られてしまう郁さんの好みは熱くて渋めのお茶です。茶葉を入れた急須に直接お湯を注ぎます。郁さん的に、待ちは30秒くらいがベストです。
その間にお茶請けの大福を半分にちぎりました。
「ねこねこ、半分わけてあげよう」
「にゃあ」
「でもやっぱり太るから、半分のもう半分ね」
「……にゃあ」
置かれた大福の餡をちびちび舐めるねこの背を撫でてから、郁さんは淹れたお茶をのんびり啜ります。ねこの尻尾が左右に揺れます。
しばらく並んでお月見をして、郁さんは隣のねこに目を戻しました。
甘味を食べ終えたねこはごろりと仰向けの、油断しきった体勢で、郁さんにお腹を撫でられています。
「そういえばねこがうちに来たのも、こんな月のいい晩だったねぇ」
「ん、そうだったねぇ」
ねこは心地よさげに喉を鳴らして、尻尾をまた、ぱたりぱたりと振りました。