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―の終わり

「あの人間たちを食い止めたのですね!?ティアン様!!」

「ああ・・・軽いもんさ・・・」

 コツコツとクリスタルのような床を歩いて大きな白いソファに向かう魔物、ティアンに、手下がそう言った。もちろんそいつも魔物だ。

「にしてもまた浮かばない顔をしていますね?」

 そうなのだ。いつもいつも、ティアンは大業成して帰ってくるのに、一度も笑ったことがない。今回だって、あちらの人間界から来た人間たち四人を消したのに。

「・・・浮かぶか。浮かんで、なるものか」

「・・・は?」

 答えのような、答えでないような返答を、ティアンはした。意味不明な言葉は続く。

「良い、眼をしていた・・・あの夢見る眼、消して良かったものなのか・・・」

 ここまで聞けば、誰にだって分かる。手下は笑った。

「いいに決まってますよ!!だってあいつらは・・・俺たちの魔界を壊したんだ!!」

「ムカシのハナシだろう・・・」

 もう誰も知らない事実だろうに・・・ティアンは思っていた。

 実は魔界をこんなにも汚して行ったのは、“人間”だった。

 自分たちはいつか魔物に襲われるのではないかと危惧した人間たちは、魔族との友好にと送った人造人間に、愚かにも、この魔界を破壊せしめる殺人兵器の細菌を入れたのだった。

 それは数日後、思惑通りに展開し、魔界と言う名の平面世界の物理法則から生態系まで歪ませ、次元崩壊を始めた。

 それでも魔界は辛うじて生き延びた。暗雲が垂れ込めても、赤い光が地を腐らして、草木が枯れて行こうとも。魔物たちが大半死に絶え、腐った地をはいずろうとも。

 もとから、魔界はこんなにも恐ろしい世界ではなかったし、もっと美しかった。魔物の姿もこんなに醜くもない・・・。

 そして私たちは、今度人間界を潰そうと考えたのだ。いや、最初は和平を考えていたようなのだが・・・魔界が破綻した少し後、魔物が人間界の森で細々と暮らし始めたのだ。魔界ではやっていけないと思う魔物たちがそういった行動をとっていた。しかし人間がそれを嫌って、狩らせたことが、そもそも和平交渉がこじれた原因。

 私たちだって、生きている。やられれば、やりかえしたいが、それでも卑劣を極めた人間とて殺したくなかったのだ。

 人間はそこらへんを分かっていない。だから、これ以上同胞を殺させてはいけない。やられるまえに、やらなければ。

 だがしかし、それでも。私は思う。まだ、なんとかなるのではないか。

 最初から一つずつ直していけば・・・まだ、何とか・・・。

 今日手にかけたあの少年、あの少女、そして続く二人。

 彼らは多くの同胞を奪ったけれど、考えは私たちのそれと同じだった。ただ、術を知らなかったし、過去を知らなかった。それに彼らは何か思い“宿命”のようなものを、一人ひとりが、特にあの少年が持っていた。辛かったろうに・・・それさえも、先代の人間たちが、仕組んだのだろうが・・・。

 とにかく思うことは、あの純真な眼を持った子たちが、もし全てを知っていたなら・・・どうなっていたか・・・?

 分からない。だが“もし”もない。もう、もし、なんてものは。

「あの?」

 手下がずっと黙りこくって何かを考えるティアンに話しかけた。

「ん?何だ?」

「いえ。何を考えてらっしゃるのかなと」

「つまらんことだ。気にするな」

「はあ」

 と、その時であった。

「ティ、ティアン様ー!!て、敵が一人でここまで攻めてきて・・・!!」

 叫び声と、ブシィッ、と身が切り裂かれ血が噴出す音が、ドア奥から響いた。

「な、ナニィ!!?馬鹿な・・・ティアン様、ここは我々にお任せを!!」

 手下は、言い残し、この小さな地下基地にいる全員を呼ぶベルを鳴らしに走った。だがティアンはそれを止めた。

「やめいっ!!これ以上は私がさせんっ!主らでは勝てまい!!」

 手下は走りを止め、ティアンに困惑した顔をやった。

「し、しかしっ・・・!!」

「案ずるな。軽いだろう・・・」

 実際どうだか、ティアンにも分からなかった。

 少なくとも、あの人間らは千体全ての魔物を斬った。ティアンが向かった頃にはすでにそうなっていた。だがおかしい、ティアンはその少年らを確かに殺したはずだった。惜しいとは言え、情けも許しもかけることは成らないと思ったのだ。

 まさか、あの少年が生きていたのか・・・!

 不思議なことに、ティアンは喜びを感じていた。

 やがて、ズガンッ、と扉が一閃され、吹き飛ぶ。その奥には、人間が、一人。

「私は・・・お前を・・・お前だけは許さない」

 機械的に、しかし感情のこもった声で叫んだその人間は・・・いや、アンドロイドの少女は、まっすぐティアンを睨み付けていた。手には、弓ではなく、少年が持っていた重々しい剣。すでに体はボロボロで、体中キズだらけだった。

「あの少年ではなかったか・・・」

 予想は外れたが、それでもティアンはとても嬉しかった。何故だかは分からない。妙に、嬉しかったのだ。

 見計らって、手下が槍を少女に向かって突きつけ走った。

「このぉッ!」

 気が完全にティアンに注がれていた少女は、不意をつかれ、その槍の直撃を許してしまう。

 ズブッ!!

 槍が大きく少女の腹を刺した。

 ビシャァァッ!

 血が床に異常なほど散らばり、なおもポタリポタリと血が滴る。それでも少女はティアンから眼を離さない。

 だがそれも限界だった。もうすこしだったのに。

「ひぐっ・・・」

 死ぬ前のひと声。ひいては、機能停止前の叫び・・・。

「かたき・・・うてなか・・・た」

 悔しそうに言って、彼女は槍にうな垂れた。・・・。

 が。

 コツッコツッコツッ・・・。

 床を蹴って、優しく歩いてくる足音・・・。敵意は感じられない。

「よく、生きていたな・・・」

 ポンッと頭をどこかにあてられ、続けて暖かいものが、血だらけの背中を、体を、抱擁した。

 初めて感じるキモチ。これは、安心というのだろうか。何故?死ぬ前だというのに、そんなものを感じてしまうのだろうか。

 ゆっくり顔をあげる。

 “それ”は、みんなを殺した“ハズ”の魔物。どうして、こんなに暖かいのか、どうしてこんなことをするのか、少女は意味が分からなくなった。

「どうして・・・?」

 そう聞く意外みあたらなかった。それにどうせ、私は死ぬ。

「・・・嬉しいんだ。生きていたから・・・」

「え・・・」

 少女はとても優しい笑みを捉えた。何故。笑っているの?

「・・・世界に平和を。争いのない世界に。まだ出来るはずなんだ。手伝ってくれるか?」

「・・・・・・」

 そんなこと、言われたって。

 彼女の創られた頭脳が、理解しがたい計算をやってのけ、答えを導く。

 ・・・あれ?

 ・・・・・・。

「・・・わからない・・・わたしは・・・どうすれば・・・?」

 これも、初めてだった。分からないことなんて、なかったのに。

「明日、考えればいいさ」

「そんな・・・」

 そんな、馬鹿なことでいいのか。時間を無駄にするだけじゃないか。

 だが、その言葉には、逆らえそうもなかった。

「私・・・は・・・平和が・・・いい」

「そう・・・ああ、そうだ、そう言えば、キミの名前は?」

「・・・私の名前は・・・ミサ」

 あとがき失礼します、オニです。

 これでようやく一作連載終了となります^^

 って二話構成だから当たり前だろー!と言う声が聞こえたり聞こえなかったり致しますが、とにかくこれにて、〜勇者〜は終了となりますw


 いかがでしたでしょうか?作者個人としては、なかなかぐりぐり書けて、書き応え十分だったのですが、読者様には、伝えたいことが伝わったでしょうか?

 いやいや、ここにそのメッセージは書けません;読者様個人個人で、作者の意図を探って欲しいと思いますwそれではまたどこかで〜

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