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リザレクション

作者: エンゲブラ
掲載日:2026/03/19

―― ダメだ、ダメだ、ダメだ!

こんなの聞いてないよ!

どうして、たかが町外れの教会の墓地に、

こんな悪魔が出てくるのよ!

聞いてないよ!

絶対に貴族階級の上級悪魔とかじゃない、コイツ!



それは、あっという間の出来事であった。

最初に勇者アレクの頭が、一筋の光線によって撃ち抜かれ、続けざまに、魔術師のカイトと闘士バルクの胸に、大きな穴が空いた。


廃墟となった教会横の共同墓地に出没する、死霊たちを祓う。

アンデットとなり、近隣住民たちを悩ませるゾンビたちの排除。


パーティーの男連中が、ゾンビたちを行動不能にしたら、最後は聖女であるセフィリアが昇天させる。それほど難しくはない、よくある、いつもの討伐依頼のはずであった。


アレク、カイト、バルク。

そして、セフィリアの勇者パーティー。

うち男三名が、一瞬にして殺された。

上級悪魔の降臨によって。



「おい、どうした女。

お前には聖なる気が宿っているようだが、

さっさとお仲間を生き返らさなくとも良いのか?

それとも<死者蘇生リザレクション>程度の魔法も

まだ修得しておらぬのか?」


中空で身体を浮遊させたまま、セフィリアを見下ろす悪魔。

悪魔は、まるで余興の見世物でも見ているかのように、冷たい笑みを浮かべ、セフィリアに問うた。


「お、覚えては……いるけど」


今さら誰を生き返らせたところで、結果は同じ。

自分たちパーティーが、束になっても敵わないであろう悪魔を前にして、蘇生にいったい何の意味があるのか?


本来なら、すぐにでも逃げ出したい場面であったが、万が一、逃げ切れたところで、今度は自分がお尋ね者になってしまう。その事実に、セフィリアは打ちひしがれていた。


ひとりを選ぶなら、魔術師のカイトを呼び戻し、奇跡のワンチャンスを狙いたい。だが、勇者アレクは、アルセリア王国の第三王子でもあった。優先順位としては、どうしても<お飾りの勇者>でしかないアレクとなることも、セフィリアを暗い気持ちにさせた。


「し、死を司る天使アズラエルよ……

この死者、勇者アレクの魂を

この地上より連れ去るのをお待ちください。

我が生命の半分を代償とし、

この者に、今しばしの生の猶予を。

肉体の時を巻き戻し、千切れた精神と肉体との繋がりを

今一度、ここに結ばん……<死者蘇生リザレクション>!!」


上級悪魔の登場により、厚い瘴気の雲に覆われていた上空から、ひと筋の暖かい光が、アレクの遺体へと一直線に降り注ぐ。ほどなく、アレクの肉体に、再び生命の息吹が戻り、アレクは目を覚ました。


「我が名は、悪魔伯爵ハルファスである。

先ほどは済まなかったな。当代の勇者アレクよ。

小手調べのつもりで放った魔光線が、

そのままお前を絶命させてしまい、

名乗り損ねてしまったわ。はははははっ」


ハルファスの冷笑とは裏腹に、まるで虫けらでも見るような目で、ハルファスを見つめ返す、アレク。


「……ああ、ハルファスであったか。久しいな。

よくぞ、アレクを殺してくれた」


アレクの予想外のセリフに、刹那、思考が固まるハルファスとセフィリア。


「お主……いったい何を申しておるのだ?

……久しい?

いや、何だ……どういうことだ、その魂の色は!

なっ 、まさか!!」


何かに気づき、驚愕するハルファス。

その様子を眺め、少し笑んだ後、アレクは天を指差した。


「では、そろそろ、この茶番もお開きとしようか、

古き悪魔ハルファスよ ―― <ホーリー・クロス>!」


天に掲げた指を一直線に振り下ろし、断罪の魔法を発動させるアレク。


「なっ、待て! 勇者アウレ、ぐああぁぁぁーっ!!」


強烈な十字の閃光が、ハルファスを覆い、

あっという間に、焼け焦げ、灰となるハルファス。


詠唱すら破棄された、勇者固有の魔法によって、ハルファスは、あっけなく消滅。空を覆っていた瘴気の雲も、瞬く間に霧散し、辺りは暖かい日差しを取り戻した。


(え、いったい何なの……これ? 夢?

アレクは、名ばかりの勇者のはずでしょ?

<始まりの勇者>の子孫ではあるけど、

アレクは一族にだけ現れる

<勇者の権能>も持たなかったはずでしょ?

一回死んだことで、覚醒?

だとしても、今のこのアレクの雰囲気って……)


セフィリアの困惑を他所に、さらにアレクは続けた。


「まだカイトとバルクの魂も、ちゃんと地上に残っているようだな。

とりあえず、先に蘇らせておくとしようか。

―― <死者蘇生リザレクション>!」


死を司る天使アズラエルとの契約の宣誓もなく、復活の魔法を行使するアレク。その異様なる光景に、セフィリアは声を失い続けた。


「おお……甦れたのか、これは?」


光に包まれた後、うつ伏せで倒れていたバルクが、ゆっくりと立ち上がる。


「おお、神よ!

おお、勇者アウレリウスよ!

再びの降臨のお喜びと

私めごときへの蘇生の儀の行使、

感謝をお伝え申し上げます!」


カイトも立ち上がり、不穏な言葉を口走った。



セフィリアが、リザレクションで復活させたのは、アレクの魂ではなく、初代勇者アウレリウスの魂であった。アレクが持っていた王家の宝剣アウレリウス。そこには初代の御霊が、そのまま封じ込められていたというのであった。


セフィリアの生命の半分を捧げ、行使された<死者蘇生リザレクション>の儀。これをアレクの魂は、拒絶した。―― 「自分が生き返ったところで、この状況下では何の解決にはならない」と。


だが、自らが霊魂の存在となったことにより、宝剣に宿る、先祖の御霊の存在にも気づき、彼は懇願した。


「どうか私めの代わりに、あの悪魔をお滅ぼしください。

私ごときの粗末な肉体ではありますが、

ご先祖様であらせられる、

貴方にお捧げ申し上げます」


同じく、霊魂の存在となっていたカイトとバルクは、その光景を目の当たりにし、これに同調し、魂で涙を流した。



「それにしても、アウレリウス様。

なぜ、アレクはアウレリウス様の子孫であるにも関わらず、

一族が受け継ぐ、勇者の固有魔法を、

これまでいっさい扱えなかったのでしょうか?」


カイトが、目を輝かせながら、アレクだった者に問うた。

魔術師としての率直な好奇心からであったが、少々、不躾すぎるようにも感じ、セフィリアとバルクは恐縮した。


「ああ、その件については……だな。

現在のアルセリア王家は、

すでに私の血とは断絶してしまっているようでな……

おそらくではあるが、

どこかの代で、我が子孫とはまた別の血によって、

我が系譜が塗り替えられてしまったようだな。

はははははっ」


アウレリウスの想定外の言葉に、皆が絶句した。


これまで聖剣が発動しなかった理由も、実際には勇者の血脈には連ならない、アレクであったからだという事実に、皆が嘆息した。


「さて、君たちに問いたいのだが、

君たちは今後も、この私と共に

魔王討伐の旅を続ける気つもりはあるか?

着いてくるというのであれば、私が君たちを鍛え直そう。

今のままでは、正直言って、足手まといとなるやもしれぬからな。

ゆえに今ここでパーティーを抜けるのであれば、―― 」


「もちろん、ついて行かせていただきとう存じます。アウレリウス様!

貴方様から直々に、ご指導をお受けすることが出来るのであれば、

これほどの喜びはございませぬ!」


闘士バルクが、顔を紅潮させながら、アウレリウスの前にひざまづいた。


「私めも、もちろん!

アウレリウス様から直々に、

この世の理をお教えいただけるのであれば、

これほどの栄誉もございません!」


カイトも、不可視のシッポをぶんぶんと振りながら、アウレリウスの前でひざまずく。


「わ、私は……」


「おっ、そうだ。セフィリアよ。

君には、先ほどの<死者蘇生リザレクション>の

代償とした、生命の半分を返しておこう。

君が契約したアズラエルとは、

私も知らぬ仲でなかったゆえ、

奪い返しておいたよ」


(奪い……返した?)


理解不能なセリフに、セフィリアがフリーズする中、

アウレリウスは、セフィリアの胸を指差し、何やら念を込め始めた。


「この手の処置には、さすがに慣れていなくてな。

少々時間がかかるが我慢せよ」


胸に何かが萌芽する感覚を覚えながら、セフィリアもようやく、今後の旅への同行を決意した。復活したアウレリウスは、あまりにも頼りとなる「これぞ勇者!」という男であった。



―― ここからが<真の勇者パーティー>の偉業の始まりとなるが、それはまた別の機会に。


Fin.



ひとり、報われない者がいるとすれば、アレクである。

英雄的先祖に自らの肉体を捧げたつもりが、自分は赤の他人であったことが判明。

まだ霊魂として地上に滞留していたアレクの衝撃は、おそらく計り知れないものであっただろう。

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― 新着の感想 ―
面白かったです! 少ない文字数にいろんな要素をぎゅっと詰め込まれたお話で読み応えがありました。 アレクにももし次があったら良い人生になるといいですね!
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