リザレクション
―― ダメだ、ダメだ、ダメだ!
こんなの聞いてないよ!
どうして、たかが町外れの教会の墓地に、
こんな悪魔が出てくるのよ!
聞いてないよ!
絶対に貴族階級の上級悪魔とかじゃない、コイツ!
◆
それは、あっという間の出来事であった。
最初に勇者アレクの頭が、一筋の光線によって撃ち抜かれ、続けざまに、魔術師のカイトと闘士バルクの胸に、大きな穴が空いた。
廃墟となった教会横の共同墓地に出没する、死霊たちを祓う。
アンデットとなり、近隣住民たちを悩ませるゾンビたちの排除。
パーティーの男連中が、ゾンビたちを行動不能にしたら、最後は聖女であるセフィリアが昇天させる。それほど難しくはない、よくある、いつもの討伐依頼のはずであった。
アレク、カイト、バルク。
そして、セフィリアの勇者パーティー。
うち男三名が、一瞬にして殺された。
上級悪魔の降臨によって。
◇
「おい、どうした女。
お前には聖なる気が宿っているようだが、
さっさとお仲間を生き返らさなくとも良いのか?
それとも<死者蘇生>程度の魔法も
まだ修得しておらぬのか?」
中空で身体を浮遊させたまま、セフィリアを見下ろす悪魔。
悪魔は、まるで余興の見世物でも見ているかのように、冷たい笑みを浮かべ、セフィリアに問うた。
「お、覚えては……いるけど」
今さら誰を生き返らせたところで、結果は同じ。
自分たちパーティーが、束になっても敵わないであろう悪魔を前にして、蘇生にいったい何の意味があるのか?
本来なら、すぐにでも逃げ出したい場面であったが、万が一、逃げ切れたところで、今度は自分がお尋ね者になってしまう。その事実に、セフィリアは打ちひしがれていた。
ひとりを選ぶなら、魔術師のカイトを呼び戻し、奇跡のワンチャンスを狙いたい。だが、勇者アレクは、アルセリア王国の第三王子でもあった。優先順位としては、どうしても<お飾りの勇者>でしかないアレクとなることも、セフィリアを暗い気持ちにさせた。
「し、死を司る天使アズラエルよ……
この死者、勇者アレクの魂を
この地上より連れ去るのをお待ちください。
我が生命の半分を代償とし、
この者に、今しばしの生の猶予を。
肉体の時を巻き戻し、千切れた精神と肉体との繋がりを
今一度、ここに結ばん……<死者蘇生>!!」
上級悪魔の登場により、厚い瘴気の雲に覆われていた上空から、ひと筋の暖かい光が、アレクの遺体へと一直線に降り注ぐ。ほどなく、アレクの肉体に、再び生命の息吹が戻り、アレクは目を覚ました。
「我が名は、悪魔伯爵ハルファスである。
先ほどは済まなかったな。当代の勇者アレクよ。
小手調べのつもりで放った魔光線が、
そのままお前を絶命させてしまい、
名乗り損ねてしまったわ。はははははっ」
ハルファスの冷笑とは裏腹に、まるで虫けらでも見るような目で、ハルファスを見つめ返す、アレク。
「……ああ、ハルファスであったか。久しいな。
よくぞ、アレクを殺してくれた」
アレクの予想外のセリフに、刹那、思考が固まるハルファスとセフィリア。
「お主……いったい何を申しておるのだ?
……久しい?
いや、何だ……どういうことだ、その魂の色は!
なっ 、まさか!!」
何かに気づき、驚愕するハルファス。
その様子を眺め、少し笑んだ後、アレクは天を指差した。
「では、そろそろ、この茶番もお開きとしようか、
古き悪魔ハルファスよ ―― <ホーリー・クロス>!」
天に掲げた指を一直線に振り下ろし、断罪の魔法を発動させるアレク。
「なっ、待て! 勇者アウレ、ぐああぁぁぁーっ!!」
強烈な十字の閃光が、ハルファスを覆い、
あっという間に、焼け焦げ、灰となるハルファス。
詠唱すら破棄された、勇者固有の魔法によって、ハルファスは、あっけなく消滅。空を覆っていた瘴気の雲も、瞬く間に霧散し、辺りは暖かい日差しを取り戻した。
(え、いったい何なの……これ? 夢?
アレクは、名ばかりの勇者のはずでしょ?
<始まりの勇者>の子孫ではあるけど、
アレクは一族にだけ現れる
<勇者の権能>も持たなかったはずでしょ?
一回死んだことで、覚醒?
だとしても、今のこのアレクの雰囲気って……)
セフィリアの困惑を他所に、さらにアレクは続けた。
「まだカイトとバルクの魂も、ちゃんと地上に残っているようだな。
とりあえず、先に蘇らせておくとしようか。
―― <死者蘇生>!」
死を司る天使アズラエルとの契約の宣誓もなく、復活の魔法を行使するアレク。その異様なる光景に、セフィリアは声を失い続けた。
「おお……甦れたのか、これは?」
光に包まれた後、うつ伏せで倒れていたバルクが、ゆっくりと立ち上がる。
「おお、神よ!
おお、勇者アウレリウスよ!
再びの降臨のお喜びと
私めごときへの蘇生の儀の行使、
感謝をお伝え申し上げます!」
カイトも立ち上がり、不穏な言葉を口走った。
◆
セフィリアが、リザレクションで復活させたのは、アレクの魂ではなく、初代勇者アウレリウスの魂であった。アレクが持っていた王家の宝剣アウレリウス。そこには初代の御霊が、そのまま封じ込められていたというのであった。
セフィリアの生命の半分を捧げ、行使された<死者蘇生>の儀。これをアレクの魂は、拒絶した。―― 「自分が生き返ったところで、この状況下では何の解決にはならない」と。
だが、自らが霊魂の存在となったことにより、宝剣に宿る、先祖の御霊の存在にも気づき、彼は懇願した。
「どうか私めの代わりに、あの悪魔をお滅ぼしください。
私ごときの粗末な肉体ではありますが、
ご先祖様であらせられる、
貴方にお捧げ申し上げます」
同じく、霊魂の存在となっていたカイトとバルクは、その光景を目の当たりにし、これに同調し、魂で涙を流した。
◇
「それにしても、アウレリウス様。
なぜ、アレクはアウレリウス様の子孫であるにも関わらず、
一族が受け継ぐ、勇者の固有魔法を、
これまでいっさい扱えなかったのでしょうか?」
カイトが、目を輝かせながら、アレクだった者に問うた。
魔術師としての率直な好奇心からであったが、少々、不躾すぎるようにも感じ、セフィリアとバルクは恐縮した。
「ああ、その件については……だな。
現在のアルセリア王家は、
すでに私の血とは断絶してしまっているようでな……
おそらくではあるが、
どこかの代で、我が子孫とはまた別の血によって、
我が系譜が塗り替えられてしまったようだな。
はははははっ」
アウレリウスの想定外の言葉に、皆が絶句した。
これまで聖剣が発動しなかった理由も、実際には勇者の血脈には連ならない、アレクであったからだという事実に、皆が嘆息した。
「さて、君たちに問いたいのだが、
君たちは今後も、この私と共に
魔王討伐の旅を続ける気つもりはあるか?
着いてくるというのであれば、私が君たちを鍛え直そう。
今のままでは、正直言って、足手まといとなるやもしれぬからな。
ゆえに今ここでパーティーを抜けるのであれば、―― 」
「もちろん、ついて行かせていただきとう存じます。アウレリウス様!
貴方様から直々に、ご指導をお受けすることが出来るのであれば、
これほどの喜びはございませぬ!」
闘士バルクが、顔を紅潮させながら、アウレリウスの前にひざまづいた。
「私めも、もちろん!
アウレリウス様から直々に、
この世の理をお教えいただけるのであれば、
これほどの栄誉もございません!」
カイトも、不可視のシッポをぶんぶんと振りながら、アウレリウスの前でひざまずく。
「わ、私は……」
「おっ、そうだ。セフィリアよ。
君には、先ほどの<死者蘇生>の
代償とした、生命の半分を返しておこう。
君が契約したアズラエルとは、
私も知らぬ仲でなかったゆえ、
奪い返しておいたよ」
(奪い……返した?)
理解不能なセリフに、セフィリアがフリーズする中、
アウレリウスは、セフィリアの胸を指差し、何やら念を込め始めた。
「この手の処置には、さすがに慣れていなくてな。
少々時間がかかるが我慢せよ」
胸に何かが萌芽する感覚を覚えながら、セフィリアもようやく、今後の旅への同行を決意した。復活したアウレリウスは、あまりにも頼りとなる「これぞ勇者!」という男であった。
―― ここからが<真の勇者パーティー>の偉業の始まりとなるが、それはまた別の機会に。
Fin.
ひとり、報われない者がいるとすれば、アレクである。
英雄的先祖に自らの肉体を捧げたつもりが、自分は赤の他人であったことが判明。
まだ霊魂として地上に滞留していたアレクの衝撃は、おそらく計り知れないものであっただろう。




