夜明け前の追跡
夜の学園は、昼間とはまったく別の顔を見せていた。月明かりが校庭の桜を淡く照らし、影が長く伸びる。奏と紗夜、そして霧島は、昨日手に入れた手帳と録音デバイスを元に、ついに犯人の手がかりを追っていた。
「……影の動きは、この廊下を抜けた先だな」
奏は低くつぶやき、静かに足を進める。
「うん、慎重にね!」
紗夜も緊張しつつ、影を追う。
霧島は二人の少し後ろを歩きながら、冷静に周囲を観察する。
「焦るな。犯人は心理的な罠を仕掛けてくる可能性がある」
その瞬間、遠くの廊下で足音が聞こえた。規則正しく、しかし消え入るような微かな足音。奏はそっと壁に身を寄せ、紗夜に合図する。
「……あの影だ」
廊下の先、扉の陰に誰かが立っている。だが、霧島の目は冷静だ。
「静かに近づく。犯人はこちらの反応を見ている」
奏と紗夜は息を潜め、一歩ずつ前進する。影は振り返ることなく、ゆっくりと歩き続ける。廊下の端で、影は突然姿を消した。
「……消えた?」紗夜が小さな声でつぶやく。
奏は冷静に周囲を確認する。
「巧妙だ。どこかに隠れて、こちらの動きを観察している」
霧島が扉を開き、中に入る。そこは屋上に続く階段だった。
「追うなら、ここだ」
三人は階段を上がり、屋上に出た。月明かりに照らされ、校庭の桜が静かに揺れている。そこには、誰もいない――と思われた。
しかし、風に乗ってかすかな声が聞こえた。
「ふふふ……ここまで来るとは、なかなかやるわね」
紗夜が周囲を見回す。
「またあの声……!」
奏は眉をひそめ、屋上の隅に目を凝らす。
「……影だ。犯人はこの屋上にいる。だが、焦るな。仕掛けがあるかもしれない」
霧島も警戒を緩めない。
「心理戦だ。こちらの動きを見極め、相手の出方を待つ」
その時、屋上の柵の影から、影が一瞬姿を現した。素早く、確実に動くその人物――間違いなく、事件の首謀者だ。
「よし、追跡開始!」
紗夜が叫び、奏も霧島も一斉に動く。
夜明け前の静かな校舎に、足音と風のざわめきが交錯する。光と影の狭間で、犯人と奏たちの心理戦は最高潮に達しようとしていた――。




