霧の中のライバル
翌日、学園は春の光に包まれていた。しかし奏の胸中は晴れやかではない。昨晩の図書室での影の存在、謎の暗号、そして地下で見つけた鍵――すべてがまだ解けぬまま頭を巡っていた。
「……ふむ、どうやら私たちだけでは限界があるな」
奏がつぶやいたそのとき、廊下の向こうからスーツ姿の青年が歩いてきた。黒髪短髪、整った顔立ちに眼鏡。歩き方は落ち着いていて、一歩一歩に重みがある。
「……黒崎奏くんか」
青年は冷静に視線を送る。
「……あなたは?」
奏は身構える。
「霧島迅。社会人探偵だ。君のことは噂で聞いている」
霧島は微かに微笑むが、その目は鋭く、洞察力の高さが一目でわかる。
「噂……ですか」
奏は落ち着いて応じる。
「学園内の失踪事件に興味がある、と」
「その通りだ。だが、私は君の推理力を試したくもある」
霧島は紙片を手に取り、軽く指でたたく。
紗夜が小さく息を呑む。
「なんか……大人の探偵さんって感じでカッコいい……でも怖い!」
奏は眉をひそめ、霧島の動きを観察する。
「ふむ、冷静沈着、行動は無駄がない……そして、人の嘘を見抜く目を持っている」
霧島も奏を観察していた。
「君の推理には独自性がある。しかし、甘い。君一人では、事件の核心には届かない」
紗夜は悔しそうに舌を出す。
「なんかムカつく言い方だよ!」
奏は微かに笑みを浮かべる。
「挑発には乗らない。だが、君と協力すれば、より早く手がかりを得られるかもしれないな」
霧島はうなずく。
「ふむ……協力は悪くない。ただし、私の条件は一つ。推理は論理に従うこと」
その時、霧島が廊下の端に置かれた紙片に目を留めた。
「これは……君たちが昨日見つけたものだな。なるほど、鍵の存在も確認済みか」
「……はい。これが次の手がかりだと思っています」
奏は冷静に答える。
「ならば、次の手がかりはここからだ」
霧島は紙片を手に取り、静かに微笑む。
「だが、私が先に動くことを許してくれ」
紗夜が心の中でつぶやく。
「なんか、ライバル登場って感じ……でも、これからどうなるの?」
二人の前に現れた霧島迅――冷静なライバル探偵は、事件の深淵へと奏たちを導く存在となる。光と影の狭間で、心理戦と推理の火花が交錯する――。




