迷宮入りの手紙
翌日、校内はいつも通りのざわめきに包まれていた。しかし奏の心には、昨日の“不可解な失踪”の影がまだ残っている。
「昨日の紙片、やっぱり気になるな……」
奏は自室の机に向かい、紙片を広げてじっと見つめる。インクの乾き方、折り目、文字の配置――細部にわたる観察は、奏にとって日常の一部のようなものだった。
そのとき、机の下に小さな封筒が滑り込むように落ちた。紗夜だった。
「奏くん、また手紙届いてるよ! しかも、昨日の紙片と同じくらい怪しい感じ!」
封筒を開けると、中には小さな紙片と共に、暗号のような文章が書かれていた。
「光のない廊下を進め
影を越えた先に、真実が待つ」
紗夜は眉をひそめる。
「光のない廊下って……校舎の地下のこと? 影を越えるってどういう意味?」
奏は紙を手に取り、唇をかすかに噛む。
「暗号……だな。文章のリズムや文字の配置に意味がある。何か隠されている」
紗夜は即座に反応する。
「よーし! 私、暗号解読は苦手だけど、行動力なら負けないよ!」
二人は放課後、校舎の地下へ向かった。薄暗い廊下に足を踏み入れると、ひんやりとした空気とわずかな湿気が漂う。壁には古い掲示板や傷跡があり、まるで迷宮のようだった。
「ここ……光がほとんどないね」
紗夜が手探りで進む。
奏は紙片の文字を思い出す。
「影を越える……つまり、何か目立たないもの、もしくは物理的な障害を乗り越えろ、ということかもしれない」
その時、壁の奥から微かに光が漏れるのを二人は見つける。近づいてみると、そこには小さな隠し扉があった。
「これだ……」
奏は扉を慎重に開ける。中には古い資料や、誰かが置いていったと思われる小箱があった。
「うわ、まるで探偵漫画の現場みたい!」
紗夜は目を輝かせる。
箱の中には、昨日の紙片と同じインクで書かれたメモと、小さな鍵が入っていた。
「鍵……これ、どこかの扉の鍵かも」
奏は慎重に鍵を手に取った。
その瞬間、二階からかすかな笑い声が聞こえた。昨日と同じ、あの女性の声だ。
「ふふふ……あなたたち、よくここまで来たわね。だが、真実はまだ迷宮の奥……」
紗夜が振り返る。
「……やっぱり、これはただの失踪事件じゃないね!」
奏は小さくうなずく。
「そうだ。始まりに過ぎない。次は、この鍵が何を開くのかを確かめる必要がある」
春の放課後、地下の迷宮に差し込む微かな光の中で、二人は新たな手がかりを胸に次の一歩を踏み出した。




