図書館のあの子と馴れ初めまでの三日間
多々枝図書館に、凄く可愛い女の子がいる。
「今日も…」
3ヶ月前に気紛れで図書館に来た僕、浅田逸実は初めてその子を見て、一目惚れした。
しばらくは毎日通って、彼女が金曜日と土曜日にここへ来ると分かった。それ以降はその日の放課後に、この図書館へ通うようになっていた。
今日は土曜日。昨日も来て、今日も来た。
それは彼女も同じだ。
名前も分からない彼女を、僕は魔女と名付けた。
多々枝図書館は市街地から離れた、自然豊かな地帯の一角に位置する。
木々に囲まれたこの建物を、図書館だと知らない人は魔女の館と呼んだ。
僕が初めて来たキッカケも、魔女の館の正体が図書館だという話を聞いたからだ。
それが魔女に魅了されて、毎週通うことになるなんて。
僕はいつも、魔女が見える位置を取る。そこで適当に選んだ本を読みながら、彼女を観察するんだ。
肩まで伸びた髪。
文学的な雰囲気を醸し出す丸い眼鏡。
声はかけない。勇気がないし、ストーカーだってバレて捕まりたくもないから。
…この本、当たりだな。面白いや。
適当に選んだつもりの小説が、読んでみたらまあ凄く面白かった。どうやら後編もあるそうなので、早速探しに本棚へ。
「ん…しょ」
そして、魔女がギリギリ届きそうにない位置にある本を取ろうとしている場面に出くわした。
僕はこれをチャンスだと思い、早速行動に移っていた。
「その本、取りたいの?」
「あ…はい」
「この本だね。どうぞ」
やったぞ!
遂に、彼女と会話できた。それも困っているところを助けに現れるという最高のシチュエーションだ。
「ありがとう、ございます…」
「いえいえ」
「…その小説、面白いですよね」
「う、うん」
魔女は一礼すると、席に戻って行った。
気の利かない返事だ。感想を言うとか、共感するとか、もっとあっただろうに。
夢中になって本を読み終えた頃には日が暮れていた。
魔女はいなくなっていた。
翌週の金曜日、僕はまた図書館に来た。
魔女はいつもの、窓際の席で本を読んでいた。
あの子はどんな本を読むのだろう?
ずっと見てきたけど、遠くからでは何を読んでいるか分からない。
昨日みたいに、自然に近付く機会があれば良いのだけど…
そんな風に、魔女の読んでいる本が気になって、今日は自分の手元に気が向かなかった。
「…はぁ」
なんて可愛いのだろう。
隣に座って、肩を寄せ合わせて、一緒に本を読みたい。
「…あっ」
魔女がこちらを向いた。
すぐさま、手元に置いてあった本に視線を戻した。
見てたって気付かれてないよね…?
結局、この日は彼女と一言も交わすことはなかった。
そもそも、話せたこと自体が奇跡だったんだ。
翌日も図書館にやって来た。
今日はどんな本を借りようかな。
いつも通り、小説の置いてある本棚まで向かう。
「あっ…」
なんとそこには、あの魔女がいた。
予想外の遭遇に、僕は戸惑ってしまった。気の利いた挨拶ができなかった。
「いつも、私の事、見てますよね」
頭の中を真っ白にする一言だった。
「1ヶ月前からでした。いつも、私の前に同じ人が座ってるって気付いて。時々、楽しそうに本を読んでますよね」
ヤバい、謝らないと。ストーカー行為で人生終わるなんて嫌だ!
「あの──」
「これ、一緒に読みましょう」
魔女は本を持っていた。
当然、魔導書ではない。ピンク色の本は、恋愛の指南書という題名だった。
「拒否権、ないって分かってますよね」
「その…あれ…えっと…」
なんだこの子は?1ヶ月ってずいぶん前から僕に気付いてたのか?
それから今日まで、ずっと見逃されてたのか?
「読みましょうよ。ねえ」
「…はい」
この日から、僕は彼女の選んだ本を一緒に読むことになった。
付き合いを始めたわけじゃない。ストーカーをしていた事実を握られて、言いなりになっているだけ。そうなんだけど、悪くないって感じる自分がいる。
いつかちゃんと、お付き合いさせてもらえるかな。
以前読んだ恋愛小説みたいに。




