傀儡戦争〜Revolution From The East〜
西暦二XXX年、アメリカ大陸を、後に『千年に一度』と言われるほどの巨大なハリケーンが襲う。好機と見たヨーロッパ諸国は《氷雷軍》を結成し、国際連合を離脱し、宣戦を布告する。
国連内部も分裂し、それぞれ、《砂漠軍》、《連合軍》、《白義軍》を結成。人類は再び戦火の最中へと足を踏み入れるのだった。
開戦から二年と三ヶ月後。
百四十億ほどに膨れ上がっていた世界の人口が半分程に減少した為に結ばれた、《カスピ海条約》による半年間の休戦が終わろうとしている頃。
日本と中国率いる白義軍は、全長約二十㍍、重さ約六十㌧の『有人式人型機動兵器』、俗に言う『巨大ロボット』である《白鳴》を開発、量産し、《傀儡軍》と名を変え、休戦状態の解除を待たず、全世界に侵攻を開始する。
そこからこの戦争のパワーバランスは崩壊し、傀儡軍によって蹂躙された各軍も巨大ロボの開発を急いでいた――
――|氷雷軍 極秘軍事開発所――
フィヨルドの入口を埋め立て、海水を全て抜かれてできた海面下の谷。地図上では湾の真ん中とされるそこに、灰色の無骨な建物がひっそりと建っていた。
ひっそりと、とは言っても壮大な自然の中に位置しているからそう見えるだけであって、その敷地は二百万平方㍍以上、高さは百四十㍍ほどもある。何故そんなに大きいのか、と聞かれれば、設計者は笑ってこう答えるだろう。
『俺達はここで巨人を造っているんだ。これぐらい大きくなきゃやってられないさ』と。
そんな建物の中では、そこで開発した巨人、《雷雹》の実戦前最終テストが始まろうとしていた。
コツコツ、とコンクリート張りの無機質な廊下に二人の足音が響く。
「なぁエリック……いや、ここじゃ《灰燼》と呼んだ方がいいな。まぁいい、テストパイロットなんて引き受けて良かったのかよ。奥さんも子供も居るんだろ?」
自身の左少し後ろを歩く、白を基調とし、胸元に氷の結晶を雷が貫いているようながマークがあしらわれているパイロットスーツを着込んだ男、灰燼に話し掛けたのは、同じような意匠の整備服を着た男、《誓飄》だ。
「巨大ロボってのは男のロマンだろ? それで理由は十分だ」
二人とも少し軽い口調ながら、どこか神妙な面持ちだ。
「なら良いんだが……さて、やっとお披露目だぜ、これが氷雷軍の最新技術が詰め込まれた超大型兵器、雷雹だ」
やっと端に辿り着き、格納庫へ繋がる大きなハッチを開く。途端、眩い光が視界を閉ざす。
しばらくして目が慣れた頃、それはそれは大きな、要塞とも言えよう程の巨大な機械が、そこに鎮座していた。
一つ目の黒鉄巨人。最初に感じたのはそれだ。ただの鉄の塊のようにも、それを超える気を放っているようにも思えた。
「これに……乗るのか……」
つい、そう呟いてしまう。怯えているのだろうか。いや違う、本能がこれに乗る事を拒否しているのだ。人間はその小さな身体もまだ十分に制御出来てはいない。それなのに二十㍍の巨体を制御しようなどと、そもそもおこがましいというものだ。しかしそれをある感情が抑え込み、続きの言葉が紡ぎ出される。
「かっけぇじゃねぇか……やってやるよ」
浪漫……それに勝るものなど、無いのかもしれない。
――――型式番号DEG-T-01 CODE NAME:《雷雹》は、白鳴に対抗すべく氷雷軍が開発した最新鋭の有人式人型機動兵器である――――
二日後。
無事テストを終えた雷雹を戦場へ運ぶべく、再び灰燼は雷雹のコクピットに座っていた。
『雷雹、発進準備オーケー、いつでも行けます』
メインモニタの両端から、本部から飛ばされた無線の音声が流れる。
「了解。灰燼、雷雹出るぞ!」
格納庫の扉が開かれ、砂埃を舞わせながら歩き出す雷雹。
『今日の目的はバルト海沿岸の港に辿り着く事。敵機を発見しても戦闘を仕掛けないように!』
「へいへい、分かってるよ!」
耳にタコができるまで聞かされうんざりしていた灰燼は適当に返し、操縦桿をぐっと前に倒す。
スラスター――重さ約六十㌧の巨体を飛躍させる為に背中部や脚部に取り付けられた推進装置――を吹かし、谷の上に登った途端、メインカメラの端に連合軍の戦闘機を三機捕捉した。空に紛れるような灰色の機体下部には、二対のミサイルと、大型のガトリング砲が装備されている。
「連合のヤツらか! どこから来やがった!」
『固有周波数から機体名確認。《翠雪》だわ! 確かグリーンランド基地に配備されていたはず。見つかっちゃまずいから、隠れて!』
「隠れるだって? そんな事しねぇよ、ぶっ倒してやる!」
『!? 待って、今回の目的は……ブツッ』
灰燼の手によって無線が切られ、雷雹は、《 熱鎚 》――北欧神話の雷神、トールが持つとされるミョルニルを元に作られた、灰燼のパイロットスーツと同じマークが大きくあしらわれている巨大なハンマー。叩きつける面を熱し、敵の装甲を焼き払う事もできる――を振りかぶり跳躍する。
「うおおおおお!」
ゴッという鈍い音と共に翠雪の中央に鉄塊がめり込み、その瞬間まで翠雪の機体を流れていたオイルが雷雹の機体前面に返り血のように飛び散る。尾翼の付け根と左翼に足をかけ、そこを踏み台にさらにもう一機を目掛けて跳躍すると、踏み台にされた方は落下速度を早め、地面に激突する。
「なんだ!? どこの兵器だ!?」
「うわあぁ!」
狙われている事に気づき、速度を上げられた事で、振り下ろした熱鎚が回避される。少し体勢を崩した隙に、回り込んでいたもう一機が後頭部にミサイルを撃ち込む。
「クソっ! リヤカメラがやられたか!」
そのまま感覚だけを頼りに機体ごと振り返り、熱鎚を叩き込もうとするも、そこには雲と、青い空だけが広がっている。やられた、と思った瞬間にはもう山肌に倒れ込んでいた。
「いまだ! 撃て!」
「ま……まずいぞ!」
二機の砲撃から逃げるように斜面を転がる。数十秒と経たないうちに、麓にたどり着いてしまった。
「へっへっへ……もう終わりだ!」
「こんな……所で……!」
『ザザッ……青いレバーを……引きなさい!』
「えっ!?」
『いいから!』
言われるがまま、コクピットの左壁面にあるレバーを引く。するとメインモニタに大きく《AFR》の文字が光る。同時に肩部のハッチが展開し、上空にミサイルが発射された。
「小型ミサイル……? そんなんで倒せるのか!?」
それの速度が段々と落ちていき、最高到達点に達した所で、コクピットの画面が全て白で覆われる。
「うわっ眩し! 閃光弾ならそうと……」
『座標確認! 発射!』
まだ白飛びから戻らないうちに、風を切る音と、大きな爆発音。小型ミサイル、もとい閃光弾は機体の座標を知らせ、基地から援護として大型ミサイルを発射する為の物だったのだ。
「ね、熱源反応なし……。全滅を確認」
いつの間にか頬を伝っていた冷や汗を拭き取り、少し安堵のため息をつく。だが休む暇もなく、すぐにオペレータから怒号が飛ぶ。
『何してんのよ! 交戦はナシ、何回も説明したわよね!?』
「あー、悪ぃ悪い。つい、な」
『それに無線まで切って……って、そんな事はいいわ、今の戦闘で敵軍に捕捉されたかもしれない。急ぐわよ!』
「へいへい、雷雹、発進だ!」
――その後戦闘もなく、無事に港までたどり着いた灰燼は雷雹と共に海を渡り、軍用鉄道に乗り込み、カスピ海戦線まで到達していた――
「よぉ新入り、ここのルールはもう聞いたか?」
テントで建てられた簡易食堂で腹ごしらえをする灰燼の隣に、髭の長い大男がどかっと腰掛ける。
「ルール? そんなのあるんですか」
「あぁ、たった一つだけな。それは……」
ビーッ! ビーッ!
『傀儡軍の進軍を確認! 総員出撃!』
「出撃の時間だ! 行くぞ新入り!」
「はい!」
寛いでいた他の人達もすぐに格納庫へと駆け出す。灰燼もすぐさま雷雹に乗り込む。次々と飛び立っていく戦闘機、《霹墨》を横目にまだぎこちない手つきで起動させる。
「灰燼、雷雹出るぞ!」
よろめきつつもしっかりと立ち上がり、霹墨の一つ目掛け助走を付けて跳躍し、尾翼を掴む。
「乗せてくれ!」
「!? ああ、噂の雷雹か。いいぜ! 乗っていけ!」
少し若い声のパイロットが快く了承してくれ、上部装甲に登る。だがすぐに乗っていた霹墨が爆発を起こし、雷雹は落下してしまう。
「なんだ!?」
「うわあああああ!」
他の機体も次々と爆発を起こし、戦場は氷雷軍の戦士達の叫び声で満たされる。
『前方に高熱源体! 白鳴です!』
「なっ……あれが皆を撃っているってのか……!?」
地面と接触するギリギリでスラスターを吹かし、前方に加速する。
「よくも皆を……! やっつけてやる!」
閃光弾を撃ち込み、熱鎚を熱し、白鳴の一機に叩き込む。金属が蒸発する重い音と共に、その白い頭部が焼き切られる。
「なんだ!?」
「ロボだ! 距離を取れ!」
「バカなっ! もう氷雷軍がロボを開発していただと!?」
白鳴が脚部にマウントしていた拳銃を抜く。
「舐めるなよ。旧時代から俺たちは二度も産業革命を起こしてきた。その魂を尽きさせない為にも、お前らを倒さなきゃならない!」
撃たせるわけにはいかない。熱鎚を再加熱し、懐に飛び込もうとする。
「それはそっちの理屈だろう! 戦争を仕掛けた側が、偉そうに語るな!」
雷雹の機動性は白鳴に遠く及ばず、熱鎚による打撃を届ける前に、引き金が引かれる。なんとか防ぐも、このままではやられるのは時間の問題だ。
「クソっ! どうすれば……」
ドガァン! 後方で大きな爆発音が起こる。
「な、何……!?」
一瞬リヤカメラに切り替えそうになるも、壊れている事を思い出しすぐさま振り返る。メインモニタには、半壊した格納庫が映っていた。
「最初からそれが狙いか! 奥にいるんだろう、長距離支援機が! ここの全部と、そいつも倒してやる!」
怒りに燃える灰燼が、機体のオーバーヒートを防ぐ為に取り付けられたリミッターを解除し、熱鎚の焼却度を最大に上げる。
「燃えろ雷雹! 悪を焼き払え!」
そう叫び駆け出すと、機体は紅く輝き、熱鎚は炎を纏う。
「なんだ!? 敵の機体が光を放っているッ!?」
「ありゃパイロットも長くは持たねェ! 自滅するまでもたせるんだッ!」
「自滅だと? その前にお前達を消し炭にしてやる!」
そうしてひとたび熱鎚を振るえば炎撃が散り、近くにいた六機ほどの白鳴が焼き払われる。それを見た残りが引こうとすると、灰燼はすかさず熱鎚を投擲する。それは直線的な軌道を描きながら次々と白鳴に焼却をもたらしていく。しかしそれを避け続ける、細身で紺碧の機体があった。
灰燼は思わず足を止め、その異質な機体に目を惹かれていた。
「あれは……角が四本ある? 専用機か!」
「そうさッ! これはカスピ海戦線第十二独立部隊隊長であるボク、ジェネル・グラスチカの為だけに造られた専用ロボット、《激瞬凱 》!」
オーバーヒート寸前の雷雹を冷ますため、一か八か、速度を下げ、熱鎚を回収しながら相手に問いかけてみる。すると思惑通り乗っかってきた相手が口上を垂れる。灰燼にはそのジェネル・グラスチカという名に、心当たりがあった。
「ジェネル……まさか、《青き尖叫のジェネル》か!?」
「フハハハハ! そうだよ! ボクも有名になったもんだ……そんなボクに殺されるなんて、光栄だろッ!」
熱冷ましの為に話しかけられた事に気がついたのか、ジェネルは会話を早々に切り上げ、開いていた距離をぐっと詰める。
「なら残念だったな……お前はこれから無名戦士に殺される事になるッ!」
チイッ、気づかれた。雷雹の稼働可能時間は持って後二分か……などと考えているうちに激瞬凱は目の前まで迫っている。
「何ボーっと突っ立ってんだよ!」
激瞬凱の袖部分から小型ナイフを射出し、雷雹の腹部横にある燃料タンクに突き刺す。
「なっ! まずい!」
雷雹のコクピット内部には警報音が鳴り響き、メインモニタは赤い警告文で埋め尽くされる。
「速い……でも、こっちだって!」
灰燼も負けじと熱鎚を振るう。だが、胴体を狙ったつもりが機体を引かれ、灰となったのは激瞬凱の右腕だけだった。
「中々やる……だが、《瞬間修復》!」
ジェネルが叫んだ途端、灰が浮遊し、右腕が復活する。しかしそれは完全な修復ではないという事を、灰燼は見抜いていた。
「そんなハッタリ、俺には通用しねぇよ!」
糸の切られたマリオネットのように動かなくなった激瞬凱の右腕には構いもせず、今度は確実にコクピットを狙う。
「見破ったか……ならこれはどうだ!? 《閃光輝撃》!」
ジェネルが激瞬凱の腰部後ろに装備していた、太陽の様に輝く巨大なバズーカ砲、《瞬閃砲》を取り出し、照準を合わせる。
バズーカか! 知らない攻撃だ、防げるか? ……と一瞬思考を巡らせた隙に瞬閃砲から光が放たれる。
「まずい!」
思わず灰燼が操縦桿から手を離し目を瞑った刹那、雷雹は颯爽と現れた純白のロボットに抱きかかえられ、閃光輝撃の射程圏内を離脱し、近くのほら穴に身を隠す。
「あ……れ? まだ死んでない?」
「死なれちゃ困るからな、俺が助けてやったんだ。感謝しろよ」
「ああ、ありがとよ。って、お前は誰なんだ!? その機体は白鳴じゃないか! 敵か!」
「待て待て、話せばわかる」
《濁檎》と名乗るその男の話によれば、傀儡軍はロボットのメイン回路に生きた動物の脳を組み込むことで処理能力を向上させる技術を確立させ、エースパイロットに与える専用機にはもうその技術が投入されているらしい。そして彼は技術者で、仲間と共に人道に反していると抗議したものの解雇され、国家を裏切り、白鳴に乗り込み前線まで進んできたようだ。それから、雷雹には氷雷軍を勝利に導く力があり、だから助けたのだ、とも語ってくれた。
「でもこのままじゃヤツには勝てねぇ! だから合体だ!」
「合体? 雷雹にそんな機能ねぇぞ!」
「関係ない! 熱き魂が融合すれば、自然と機体もひとつになろうというもの!」
「そういうもんか! じゃあ、行くぜ!」
「「合体!」」
二人の声が同時に響く。二つの機体が手を取り合い、光に包まれる。
「過去の絆に想いを懸けて!」
「正義のために力を尽くす!」
「「合体完了! 《 原晧・熾雹鳴雷 》!」」
ほら穴の天井をぶち破り、そこに現れたのは、紅く淡い光を放つ超巨大ロボットだった。
「なんだ!? なぜ逃げない……なぜ合体している! ええい! もう一度閃光輝撃をくらわせてやる!」
驚いたジェネルはもう一度瞬閃砲を構え直す。
「俺は、いや俺達は逃げたりしない! 行くぜ!」
「おうよ! この巨大化した熱鎚を使え!」
横並びの複座式コクピットの中で濁檎がレバーを操作し、腰に装備された熱鎚を取り出す。それは前より倍ほど大きく、爆炎と迅雷を纏っている。
「今度こそ……閃光輝撃!」
「俺達は二つの国の民たちの想いを背負ってるんだ! 負ける訳にはいかない!」
「「穿て! 《 炎鎚爆斬・激》!」」
再び二人の声が重なると、原晧・熾雹鳴雷の熱鎚が赫い炎撃を放つ。それは激瞬凱の瞬閃砲が放った白い光と空中でぶつかり合った。
「いっけぇええええええ!」
「そんな攻撃ごときで、ボクの閃光輝撃を破れると思うなよ……! 人の想いは、力には変わらないッ!」
「違う、人の想いそのものが力なんだ。このマシンはその想いの力が顕現して創り出されている。お前が守ってきた国民は、そんな穢れた機体で守られる事なんか望んじゃいない! その想いを受け取れ!」
膠着状態にあった二つの光の赫いほうが推し進め、白い光の射出点まで到達する。世界は全てを焼き切る業火の光に包まれ、それが収束した後に焼け野原に残ったのは、白と黒の二つのロボットだけだった。
「さて、勝てましたね。僕はお尋ね者ですから、ここに留まってはいられない。またどこかでお会いしましょう」
口調が違う……戦っている最中とは人格が違うみたいだ、なんて思っているうちに、飛び立った白鳴は振り返る事無く、点となって消えてしまった。
「あ、ちょっと……」
手を伸ばしても、
――その後、一度極秘軍事開発所に帰る事になり、そこで雷雹は修理と改修を受けていた――
「これが発射ボタンで、このレバーで砲身を上下に動かせる」
雷雹のコクピットの中で、誓飄から説明を受ける灰燼。どうやら雷雹は右肩に大型キャノン砲である《雷雪砲》が取り付けられたようだ。
「まぁ、変わったところはざっとこんなもんだ」
「サンキュ。にしても一晩で雷雹にこんなもん付けちまうなんてな、大変だったろ?」
「これでお前が生きて帰って来れるなら、安いもんさ」
――再びカスピ海戦線に舞い戻った灰燼だったが、元あった場所に基地はもう無い。話を聞けば海の向こう側まで進軍しているらしく、灰燼は雷雹にフライトユニットを取り付け、海を渡ることにした――
「うーみは広いーなおおきーいな ふふふーん♪」
青い海、遠くの山々、綺麗な景色に思わず鼻歌を歌うほど、灰燼は油断してしまっていた。
ピピピピピピ!
敵弾接近アラートがけたたましく鳴り響く。
「なんだ? うわっ!」
咄嗟に回避行動を取るも、右肩の小型ミサイル・ポッドが破壊される。
『七時の方向に船影あり、連合の《深泳改》よ!』
「潜水艦か。 丁度いい、この雷雪砲の威力を試してみたかったんだ!」
高速で上空を飛行していた雷雹の機体をぐるっと旋回させ、新造されたレバーを操作し、モニタ中央に船影を捉える。これまた新造の赤いボタンを押下すると、その船影は海面に浮かび上がり、黒煙を上げる。
「撃墜確認。スゲェや!」
一撃で潜水艦を葬る程の威力に、灰燼は思わず興奮してしまう。これなら勝てない敵はいないのではないか、なんて事も無邪気に考える。こんなに大きな潜水艦がちっぽけに思えてしまうほど強大な敵が待ち受けているとも知らずに。
――その後も度々戦闘があり、結局対岸の新基地に辿り着いたのは夜中の二時だったがフライトユニットをパージし、補給を済ませ、すぐに出撃する事になった――
「灰燼、雷雹出るぞ!」
少し進むとすぐに戦火が見えてくる。そこには戦車や戦闘機、ロボの残骸がそこかしこに転がっており、戦況が膠着している事は一目瞭然であった。
「灰燼さんよ! ここは俺らで食い止められるから、前に進んで敵の基地を叩いてきてくれ!」
自軍の戦車兵達が叫ぶ。灰燼は礼を言い、隠れながら敵地のど真ん中へと進んでいく。
「なっ、氷雷軍のロボが、こんな所まで!?」
「気づかれたか……!」
遠くの白鳴数機に発見され、銃口を向けられる。撃たれる前に岩陰から飛び出し、雷雪砲を撃つ。白鳴は弾を撃ち落とそうとするも効かず、一帯の白鳴に爆散が届けられる。雷雪砲の残弾が無くなったようで、デッドウェイトと化した雷雪砲をパージする。身軽になり速度を上げる雷雹は、残された唯一の武器である熱鎚を取り出した。
しばらくすると、ずらりと並んだ白鳴が守る基地が見えてくる。
「これを……やればいいんだな」
気づいた白鳴の攻撃を避けつつ、熱した熱鎚をそこへ投げ込むと、大きな爆発が起こる。
「ハッハハハ! 楽勝だぜ!」
しかし、爆煙が収まると見えてきたのは無傷の白鳴と、熱鎚の残骸。何故……?と放心している内に、雷雹は気づけば十数機の白鳴に取り囲まれてしまっていた。
「まずい……もう武器もないのに……!」
「観念しろ、最初から無駄だったんだよ。我が軍に反抗しようというその心が!」
敵の指揮官が叫ぶ。
「クソっ……もう……ダメなのか……?」
「ハハハハハ! これでお前の国はもうおしまいだ!」
「いや……そういう訳には、いかないッ! みんなの思いを背負ってんだ! 負けてたまるかよォ!」
そう叫び返し、灰燼は操縦桿を思い切り前に倒す。すると、突然雷雹の機体全体が光を放ち出した。
「な……なんだこれは!?」
『超高エネルギー体出現! 零時の方向。距離は……二十!? 敵機が発信源です!』
「光ってるぞ! なんだ!?」
敵兵が皆たじろぎ出す。
「いったいどうなってるんだ……? いや、どうだっていい。このチャンス、無駄にはしない!」
前に倒した操縦桿を更に押し込み、スラスターをめいっぱい吹かす。と、その刹那、雷雹が放つ光が最大限に達し、装甲が全てパージされ、スラッとした機体フォルムが出現する。
「軽い……! これが最終形態……!」
雷雹の速度が三倍にもなり、白鳴の一体に殴りかかる。
「うわあああ! なんだ! こんな形態データにないぞ!」
「いいから撃て! 全員一斉射だ!」
白鳴が円状に取り囲み、仲間ごと雷雹を撃つが、その攻撃を全て避けきり、白鳴はお互いを撃ち合ってしまう。
「なんて速さだ……!」
これならいける、と確信した灰燼はすれ違いざまに白鳴を殴り破りつつ敵基地に向かう。
「発電棟は何処だ……? あった!」
発電棟には燃料庫も併設されており、そこを爆破すれば基地全体を破壊できると踏んだ灰燼は、その上空目掛けて飛躍する。
「もう武器がない、殴るだけじゃ爆破なんて出来ない、この機体を墜とすしかッ……!」
そう決断し、雷雹を急降下させる。
「この辺りで限界か! ええい!」
発電棟上部に掲げられた注意喚起の看板の文字がだいぶん読めるようになって来たところでコクピットハッチを開き外に飛び出す。機体上部によじ登り、破壊された右肩部ミサイル・ポッドから小型ミサイルを引っ張り出し、それに跨る。ストッパー装置を破壊し、非常点火レバーを引くと手動で射出する事ができる。ジェットエンジンが点火され、ミサイルが雷雹の機体を離れた数秒後に、雷雹は発電棟に墜落。燃料庫に誘爆し、爆炎は基地全体を包む。
「うわあっ!」
爆風はミサイルに乗った灰燼の所まで届き、バランスを崩して落下してしまう。
「もう、本当に終わりか……俺も少しは、この国に貢献出来たかな」
目を閉じ、重力に身体を預けたその瞬間、巨大な白い手が優しく灰燼を包み込む。その手は、濁檎が乗り込んだ白鳴のものだった。どうやら世界はまだ、灰燼の戦いを終わらせるつもりは無いらしい。
白鳴の手の上から見えたのは、地平線から昇る朝日。それは、希望と願いの光。
初めましての方は初めまして。お久しぶりの方は、結構お久しぶりです。作者の銀河やきそばです。この作品を読んで頂きありがとうございます。短編小説はまだ2回目の投稿ですが、前回よりは結構上達したかな?と思っております。小説家になろうでの投稿も、もう2年目に突入したようです。ですがまだまだ初心者なので至らない所も多々あります。それでも、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。それでは。




