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◆エピソード3 魔族の城で始まる日常

「朝です、クラリス様」

挿絵(By みてみん)


澄んだ声に目を覚ますと、枕元に立っていたのはメイド服姿の少女――フレリア・ノクス。黒髪のポニーテールを揺らし、表情一つ変えずにぴたりと礼を取っていた。


「……もう、朝?」


昨日までの出来事がまるで夢だったかのような錯覚に陥っていたが、目を擦ると、そこには確かに魔族の城の天井があった。


「はい。魔王陛下より、今日の午前中は城の案内をとのご命令です」


「魔王……」


思い出すのは、昨夜の出来事――あの威厳ある魔王が、私の前で片膝をつき、敬意を込めて名を呼んだ瞬間。あれは確かに、偽りのない本心だった。


(なんなのよ、あの美少年……意味がわからないわ……)


戸惑いながらも身支度を整えると、フレリアが言葉少なに手際よくブラッシングと着替えを手伝ってくれる。


「貴女の好みに合わせて誂えたものです」


用意されたのは、深い緑と金を基調にした格式あるドレス。クラリスとしての意識がすっかり定着してきた私には、こうした重厚な貴族の衣装もそれほど違和感がない。

挿絵(By みてみん)


「では、参りましょう」


廊下に出ると、魔族たちが道を開け、軽く頭を下げてくる。驚くことに、誰一人として私を侮蔑したり、排斥したりする者はいなかった。


(断罪された悪役令嬢が、まさか歓迎されるなんて……)


案内されたのは玉座の間。そこには、昨日と同じく青髪の魔王――リュカ・エルディアが、黒い礼装姿で待っていた。


「よく眠れたか、クラリス」

挿絵(By みてみん)


「……まあ、なんとか」


「では、今日から貴様のために、魔王城の生活に必要な知識と場所を伝える。案内役は、我が筆頭参謀、ラグナ・シュヴァルトだ」


呼ばれて現れたのは、銀髪に片眼鏡の長身の青年だった。黒い軍服のような装いに身を包み、整った顔立ちと無表情が妙に印象的だ。


「初めまして、クラリス様。ラグナ・シュヴァルトと申します。以後、お見知りおきを」


「よ、よろしくお願いいたしますわ……」


彼の態度は丁寧だが、どこか事務的で壁を感じる。それもそのはず、クラリスのような人間を妃として受け入れることに、魔族側が全員賛成なわけがない。


「参りましょう。まずは上階の回廊より」


ラグナに従いながら、魔王城の内部を巡っていく。研究塔、兵舎、魔導図書室、訓練場、温室庭園――

挿絵(By みてみん)


それは想像を遥かに超える規模と洗練さで、どこか幻想的ですらあった。


「……魔族の城って、もっとおどろおどろしいものかと思っていました」


「外見は威圧的であっても、住む我らが不便であっては意味がありませんので」


静かに言い切るラグナに、私は少し見直すような気持ちになる。


(それにしても、魔族ってこんなに……文化的だったのね)


途中、獣人の兵士たちが私に挨拶してきたり、厨房の魔族が笑顔でパンを差し出してくれたりと、まるで「普通の世界」のような温かさを感じる場面も多かった。


「次はこちら。陛下の私室です」


「えっ、ちょっと待って! 私がそこに入っていいんですの?」


「陛下の命です。問題ありません」


案内された部屋は驚くほど質素だった。大きなベッドと書棚、執務机と椅子。それだけしかない空間。


「ふむ、早かったな」


その奥で、執務書類に目を通していた魔王――リュカが顔を上げた。


「どうだった? この城は気に入ったか?」

挿絵(By みてみん)


「……ええ、思っていたよりもずっと……素敵です」


「そうか。ならば、これからもここで穏やかに過ごせるように努めよう」


その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなった気がした。


私は、魔王の妃として、この不思議な魔族の城で新たな日常を歩み始めたのだった。


◆続く

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