【天使】養殖・第二話(1)
「帰るぞそかり」て、傲然にして絶世なる【神女】。
「へえ」て、高身長低姿勢な【天使長】、手近の服ひろて着よりながら、
「ほな君ら、露払い頼むわ。あ、服は適当に見つくろうてや」
命じられた【巾着天使】と【裸天使】が楽しそうに拾衣し、着衣し、先頭に立って、【神女】の一行は歩を進める。
この二人が前を行きかう人に軽く、ほがらかに手を触れると、触れられた人々は少し不思議そうな顔になってわきによけ、一行を通す。
どうやら、二人の姿が見えてないらしい。
この【天使長】と呼ばれる人物の能力とはいったいなんなのだろう、て少女が思てよると。
ふいに、前方で女声による痛みと途惑いの悲鳴が起きよった。
背伸びして目をやれば、そこにおったんは一極名物『ぶつかりおじさん』。
気の弱そうな女子を選んでは、スーパーマンみたいに胸と肩ふくらましてすれ違いざまぶつかり、はね飛ばしてよる。
さっきまで『巾着』と『人海』と『裸族』からなる三大人珍現象があったばかりというに、すぐ日常へ復したところは、さすがに眠らぬ街。
やれやれ声で【天使長】、
「自分、行ったってくれるか?」
言われた【裸天使】がうなずき、踊るみたいに雑踏を撫でのけてぶつおじに近づき、あざやかな動きで後ろ手にねじ上げよった。
まわりの人間も、うめいてるぶつおじも、なにが起きたんかわからん顔してよるなか、【神女】の一行はその横をしずしずと通りすぎて……そのとき、天使長がすっとぶつおじのそばへ寄ってその耳元に、こう言うた。
「さモん、えれメンたル! ……!」
注視してよった少女は、今度こそそれを聞いた。
ぶつおじは急におとなしく、かつ晴れやかになり、その悩みなさそうな顔へ【天使長】、
「『精霊さん』、『精霊さん』、君に頼むわ。この街をぶつおじから守ったって!」
ぶつおじは笑顔輝かして胸を張り、こうつぶやきながら遠ざかっていきよった。
「ワレハセイレイ……クウキミタイニメニミエズ……ホノオミタイニコウカテキ……ダイチミタイニチュウジツデ……ミズサナガラニスガスガシ……!」
蛇の道は蛇。
ぶつおじにはぶつおじ。
ほどなく、ほど近いそのへんから、元ぶつおじにぶつかられたとおぼしきおっさんの痛がる声。
ぶつおじ狩りが始まりよったらしかった。
「【天使長】さんの【超準語】って、なにができるんですか?」
歩きながら思いきってたずねた少女に【天使長】、少々悲しそうな表情になって、
「わてのんはそんな強ないねん。語学苦手やから。頑張っても二人か三人にしか効かへんし、無理して四人いけるかどうか……」
少女と襟紗鈴の先をうながす目に、しぶしぶ、
「個々の【天使】が【超準語】で起こす現象を【準奇跡】いうんやけど、わての【準奇跡】は『魔法』やねん。……わてな、ちびのとき魔法使いになりたかったんや。それも召喚系の」
少女は耐えたが、襟紗鈴はこらえきれんと、
「そう……きも……」
一行は最寄りの小洒落た商業ビルに無造作な足どりで入っていく。(『第二話(2)』に続)