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第一章 鬼無里村⑧

 その顔には、子分たちと同様(いや)らしい笑いが満ちている。

 身長はもう大人顔負けで、前に立たれると、鬼助は仙吉のことを見上げざるを得ない。


「おらになんか用か?」

 鬼助は努めて冷静に、無表情に言った。

「かすこくでねえど。おめこそ何しにここに来た?」

「……」

「答えねえか。どっちにしたって、おめみてえな鬼の子がいると、おらほも気安う遊んでいられねえ。とっとと里から出ていかんかい!」


 仙吉は怒鳴るようにして言うや否や、鬼助の肩の辺りをどんと、両手でいた。

 その衝撃で、鬼助は無様にもその場へ尻餅をついた。

 取り巻きの子分から、わっと笑い声が起こった。


 シロは主人の危機に動揺して、仙吉に向かって牙をむきだして吠えた。だが仙吉は、

「弱い犬ほどよく吠えるもんだ」

 と、全く意に介さなかった。

 仁王立ちに立ったまま、鬼助のことを見下ろしていた。


 シロは主をかばって吠え続けたが、鬼助は無暗に刃向かうことはできなかった。

 この村で騒ぎを起こしたところで、味方をしてくれる者は、きっと誰一人としていない。

 こちらにいるのはシロだけ。

 そして仙吉の背後には、目に見えない多くの村人がいる。


 それが証拠に、松厳寺には何人もの僧侶や寺男てらおとこがいるはずなのに、みな遠巻きに見ているだけで誰も助けになど来てくれない。

 この村では、鬼助はどうあがいたところで鬼の子なのだ。


 自分が捨てられたのも、久安から自分だけが厳しい仕打ちを受けているのも、自分が鬼の子だからだという負い目がある。

 認めたくはないが、現実は眼の前に厳然として存在している。


 ただ誰も味方がいない以上、己の身は己で守らねばならない。

 刃向かわないまでにしても、仙吉に服従するもりは微塵もない。

 鬼助の中にも、譲れない矜持きょうじがあった。


「な、なんでえその眼つきは。おらに文句でもあるんか?」

「……」

「なんか言ったらどうでえ、ごうたれが。おめの眼を見てると、なんだか気分が悪うなる。やっぱりおめは鬼の子だ!」

 仙吉は砂を蹴り上げて鬼助に浴びせると、そのまま捨て台詞を残して去って行った。


 その場に一人残された鬼助は、

「おらは鬼の子なんかでねえ…。おらは人間の子だ」

 と、地面の土を握りしめながら、何度もつぶやいた。

 涙がこぼれれ落ちないよう、しばらく空を見上げていた。

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