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第十章 それぞれの戦い⑨

       *


「なんと…あの鬼助が、喜左衛門どのの子息しそくでござったか…」

 新右衛門は絶句した。


 言われてみれば、鬼助の眼の輝きには、鬼無里の割元に相応しい気品と知性がある。

 剣術の飲み込みも早く、太刀筋には天性の光るものがあった。

 それが父の喜左衛門譲りなのだとしたら、すべて納得がいく。


「新右衛門どの、それがしの最期の願い、聞いてくださるか?鬼助に、この宮藤喜左衛門の息子であったこと、そして父は、見事死に花を咲かせたと、どうか伝えてくだされ」

「伝えるだけでよいのでござるか…?」

「伝えてさえいただければそれで結構…あとは万事久安和尚が取り計らってくれましょう…」


 そう云い放つと、喜左衛門は諸肌もろはだ脱いで三方さんぽうを引き寄せ、脇差を手に取った。

 その姿を見て、新右衛門の全身は打ち震えた。


 喜左衛門には、鬼助に対し、父らしいことを何一つしてやれなかったという後悔があるはずである。

 しかし、今はその後悔を断ち切り、最期は武士らしく、鬼無里のために潔く散ろうとしている。

 その姿勢こそが、鬼助への伝言となる事を、喜左衛門は理解しているからである。


「承知(つかまつ)った。拙者にお任せくだされ」

 新右衛門は眼をしばたたいてから、刀を抜いて八双はっそうに構えた。


 ややあって、音もなく白刃はくじんが振り下ろされた。

 鬼無里の空に、一筋の流星がちて消えた───

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