表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/84

第十章 それぞれの戦い⑥

 まずは身重みおものあやめを、奥裾花にある五郎兵衛とベニの元にやり、そこで身の安全を確保しようとしたのである。

 ベニのところには、つい先日女の赤子が生まれたばかりであり、山小屋とはいえども、妊婦であるあやめを休ませるには都合が良かった。


 この案自体は功を奏した。

 あやめは重病でせっていると村人には喧伝けんでんし、実際にその姿は人前から消えた。

 村人はひどく同情したが、それが却って信憑性を増した。


 その後喜左衛門は、村に現れた刺客らしき男を一人生け捕りにした。

 男には尋問する振りをして、あやめが重病であることをそれとなく聞かせてから、奉行へと届け出た。


 後日奉行からは、下手人は身元不明の浪人で、取り調べには黙秘を貫き、夜分舌を噛んで自死したと報告があった。

 だが家中から漏れ聞こえてきた話では、その日の内に毒殺されたらしかった。

 宮藤家にまつわる情報を収集した上で、口封じのために消されたわけである。


 結果として、以降村には怪しい人影は見えなくなった。

 小隼人の目的が、あやめの命とお腹の子であったことは明らかであり、重病とあれば、今はこれ以上の危険を冒してまで、宮藤家を狙う理由がなくなったに違いなかった。


 やがて、山小屋ではあやめが元気な男児を産んだ。

 お産のとき、喜左衛門は産婆も兼ねる老婢ろうひのヨネを背負って、必死に山を登った。

 全身ボロボロに疲れ切ったが、生まれてきた子の顔を見るだけで、そんな苦労は一瞬にして吹き飛んだ。

 待望の後継ぎが生まれたことで、あやめとは手を取り合って喜んだ。

 父の勇敢さと、母の優しさを受け継いだであろうこの子を見つめながら、夫婦は寄り添って一晩を明かした。


 しかし、喜左衛門には割元としての役目がある。

 後ろ髪を引かれる思いで、喜左衛門は山を降りた。

 山小屋には五郎兵衛やベニがいるから、当座の心配はないはずであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ