第一章 鬼無里村⑦
山の辻をいくつか曲がると、やがて小さな川へとぶつかった。
この川は村へと真っ直ぐに降りていく流れで、村入川という名が付いている。
この流れに沿って歩けば、もはや道に迷う心配はなく、容易に村の中心部へと至ることができる。
山を抜けて里の入口まで来て、鬼助は一旦足を止めた。
ゆっくりと全体を見回して、村がどんな状況にあるかを確認する。
畑には、野良仕事をしている村の女がチラホラと見える。
男たちの姿はほとんどない。
鬼助のことに気づいている者は誰もいないようである。
鬼助は真っ直ぐ前を向いて、里へと踏み入った。
その表情は固く強張っている。
連れているシロにも鬼助の緊張が伝染して、尻尾が空を向いて立っている。
そのまま誰ともすれ違うこともなく進んでいくと、村の中心にある松厳寺が見えてきた。
その松厳寺の門前で、村の子供たちが三人で遊んでいるのが見えた。
それまで早足で歩いていた鬼助の歩みが、ピタリと止まった。
そしてその場に佇立して、動こうとしない。
その双眸は、遠く子供たちを眺めている。
シロも主の異変に気づいて、不安そうに鬼助の顔を見つめた。
ここまで来たら、もう引き返すことはできない。
否、遠回りすれば目指す喜左衛門宅へとは辿り着くが、それでは己の気持ちが許さない。
鬼助は懐に手を入れて、一度巻紙を胸に当てた。
それから大股で、真っすぐ前を向いて足を踏み出した。すると、
「あ、めずらしいど。鬼の子が里に出よった」
遊んでいた中で、図体の大きい一人が、鬼助に向かって詰め寄ってきた。
その後ろには、子分らしき二人が並んで、にやにや笑いで付いている。
先頭を歩くのは、この村の餓鬼大将を自称する仙吉である。
肩を怒らせてやって来て、鬼助に向かって対峙した。