第九章 因縁④
「刀なぞ持ちおって。この俺と斬り合う気か?殺生坊主め」
暴言を吐いて仁王立ちに立つ武士の後ろに、克林の小さな体が横たわっている。
「克林!」
「小僧からいいことを聞かせてもらった。紅葉の化身がこの山にいるらしいではないか。その居所を教えてもらおうか」
「誰がお前なぞに言うものか…」
久安が武士の顔を睨みつけると、武士のほうも鋭い視線を返してきた。
窶れているとはいえ、その整った面立ちには、どこかで見た覚えがある。
「お、おぬしは原小隼人!どうやって牢から出た!?」
「フフフ、知りたいのならば、冥途の土産に教えてやるとしよう───」
小隼人は落ち着き払って、事の次第を話し始めた。
「愚かな里人より、田村の暴政を訴えに本日村総出で松代へ向かうと聞いた。俺にとっては憎き政敵である彼奴を引きずり落としてくれるだけでなく、牢の番すら減らしてくれるのだから、これほど有難いことはない。この小隼人、間抜けな百姓一人を斬るなどわけもなく、実に容易に牢から出ることができたわ。今度ばかりは田村の愚行に感謝せねばなるまいの」
高らかに笑った後、
「さあ山姫の居所を教えてもらおうか」
抜刀して、久安の眼前に突き付けた。
久安は刀を抱いたまま、その場に坐禅を組んだ。
「命乞いでもする気か?無駄なことよ」
三尺もある刃の切先一寸が、久安の耳を撫でた。
音もなく耳が地面に落ちた。
鮮血が流れて、久安の白衣を染めていった。
「山姫の居所を言え!山姫の力があれば、俺も松代への帰参が叶う。再び家老に戻れるのだ!さっさと言わぬか!」
小隼人は、狂人のように喚き散らした。
「残念ながらわしは死んでも口を割らん。疾うに死ぬ覚悟もできておる。斬りたければ斬れ」
久安は、刀を懐に抱いて、静かに合掌した後、
「鬼助よすまぬ……」
声にならない声で呟いた。
その言葉が終わらないうちに、長尺の野太刀が空中を閃いた。
久安は脳天から縦一文字に斬り下げられて絶命した。
合掌した腕には、刀は抱かれたままだった。
「ならば一晩かけてでも探し出すまでよ」
小隼人は刀を鞘に納めながら、鬼の形相をして雲海院を立ち去った。




