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第八章 祭と政(まつりごと)③

 二人は気まずい空気のまま歩き出し、祭囃子の響く中を無言で村の中心部に向かって進んでいった。


 そんな彼らに、誰一人として近づいてくる者はいない。

 踊りに夢中で二人に気づかぬ者もいれば、遠巻きに眺めてひそひそと噂し合う者の姿も見える。

 祭を取り仕切るであろう村役人でさえ、新右衛門と鬼助からは、えて目を背けているようだった。


 鬼助としては、自分がそのような扱いを受けるのはやむを得ないとして、新右衛門にあらぬ疑いがかかるのはまずいと思った。

 一応は寺の客人であり、村と新右衛門との間に何か問題が起きれば、寺の立場も悪くなりかねない。


 だが一方の新右衛門は、鬼助の心中など察することもなく、遠慮なく辺りをチラチラと見廻している。

 まさかこんな村の祭を珍しがっているとも思えず、ひょっとすると誰かを探しているのかと思っていると、踊る群衆の中から、こちらに向かって走ってくる小さな人影が見えた。

 あれは克林である。


「どうした克林、そんなに慌てて」

「おめ落ち着いてる場合でねえど。はよう寺へと戻ったほうがよさそうだで」

「どうしてだ…?」

「喜左衛門様が今こっちへ向かって来てるらしいど。誰かが告げ口したに違いねえやな。きっと新右衛門様をとがめにやって来るんだで。だからはよう逃げたほうがええ」

 顔を紅潮こうちょうさせて語る克林の言葉を、新右衛門は笑って聞いている。


「新右衛門様、笑ってる場合でねえって。喜左衛門様はこの村を取り仕切る割元だ。剣の腕前だって松代随一だし、逆らったらやられちゃうかもしれねえど」

「ははは。割元とあろうお方が、他所者よそものとはいえただ見物しているだけの者を咎めることはなかろう。それに拙者はかねてより、割元どのと一度話をしてみたかったのだ。わざわざ会いに来てくれるとはかたじけないことよ」


 敢えて正装をしている新右衛門の姿からすれば、この言葉もあながち出まかせとは言い切れない。

 しかして三人がごちゃごちゃと話し合っている内に、一人の男がこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。


 無数にある提灯の光に照らされて、面貌めんぼうをはっきりと見定めることはできないが、その隙のない足運びから、喜左衛門であろうことが、鬼助には分かる。

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