魔獣狩りを軽んじた王国の末路
婚約破棄って良く聞く。
公開で、断罪をして、辱めを与えて、元婚約者を、国外追放か、修道院?
それは、可哀想だ。
何というか。苦しみを長引かせるだけというか。
それなら、いっそのこと。殺してあげた方が良くないか?
僕は、この国の王太子だ。
王家開闢以来の、カリスマがあると評判で、
側近に、騎士団創設以来の武力と知勇を併せ持つ若き騎士団長、マッケンローに、
そして、新しい婚約者。
知性と愛嬌、慈愛、全てを持つ真実の愛の相手、金髪碧眼の、公爵令嬢ナンシーだ。
「マッケンロー、ご苦労、ところで、アキの従者たちは?」
「はい、上意にも関わらず激しく抵抗し、メイドに至るまで、フォークやナイフでアキ殿を守ろうと、攻撃してきました。よって、仕方なく斬りました」
「なるほど、噂に違わぬ野蛮人だな」
・・・・
「・・・ということが起ったのだ」
僕は婚約者交代したことを、友人のルドルフに話した。
彼は、大国ザルツ帝国の第四皇子で、我国に留学に来られている。
我国を文化大国として、尊敬しているようだ。
ワナワナワナ・・・
「愚かな・・一体、アキ殿が何をされたのか?」
「ああ、僕は、貴族の頂点、王族の更に、王太子だ。なのに、妙な取り決めで、アキと婚約する羽目になっただろう?」
この国では、三代おきに、王家と辺境伯が婚姻を結ぶことが慣わしになっている。
何故、僕の代で?
蝶よ華よと育てられた令嬢の中から、選び放題のはずなのに、
アキは黒髪の地味な令嬢、しかも、なんて言うか。輪郭がぼやけている。
景色と体のラインが見分けのつかないような服を着ている。
魔獣と戦うお役目のためだから?
「まず。一つ、高貴な僕と婚姻をするのは、相応しくない蛮族だよ。それに、あの女は、いつも、頭を、こう、下げる礼をしていた。10度しか曲げない。軍の礼が基になっていたそうだ。全く、野蛮の限りではないか?」
落胆したものだ。辺境伯のご令嬢など、聞こえはいいが、山猿だ。
幼い頃に顔会わせたが、何だ。あのカラスのような黒髪と肌が濃い。
「・・・まあ。それぞれだ。辺境でご苦労されているのだろう?だから、王都に、早めに来られて、王太子妃教育を受けていたのだろう・・・」
「ああ、でも、蛮族だ。これからは、社交が大事だし、何よりも魔獣を狩る一族だ。この際、僕と婚約者で、女神信仰圏公会議に出席し、お披露目する運びだろ?
あんな女よりも、ナンシーの方が相応しい。ルドルフ、協力してくれるよね?」
「・・・・・・」
・・・あれ、ルドルフは、黙ってしまった。
もしかして、皇子のくせに、謀略が出来ない甘ちゃんタイプか?
「その程度の理由で臣下を殺めたのか?・・・婚約者殿の一族は、辺境で魔獣の駆除を頑張っているようではないのか?」
・・・それは、だって、魔族との戦争もないから、辺境で、魔獣の退治くらいしかしていない。
とんだ無駄飯食いだ。
こんな奴らに、領土を分け与える必要性は感じない。
「魔獣退治って、冒険者にでも出来る仕事だ。第一、魔獣とはいえ。最近の研究では、人は滅多に襲わない。山に、果実や、木の実、ドングリなどをおいておけば、人里にまで来ないって言うではないか?」
「でも、人里に出て来たら、駆除が常識だ」
何か、引っかかる。まるで、アキを擁護しているようだ。
はは~~ん
「ルドルフ殿、もしかして、アキのこと、好きだった?なら、マッケンローの騎士団が、討伐の旅に出る。
アキの妹、ナツを生きたまま捕獲するように、言っておくよ。そっくりだから、側女として可愛がると良い」
「ゲスが!君との付き合いはこれで、お終いだ!」
ルドルフは席を立ち。怒りの暴言を吐き捨て、そのまま去って行った。
・・・ああ、分ってないな。
アキの一族は、数代前に、転移してきた一族、不思議な魔道飛行器械や、火を吐く魔道具で、我が国を助けたとも言われている。
しかし、長年の戦争や魔獣討伐で、空飛ぶ魔道具や、火を吐く魔道具、馬無し車も使えなくなったという。
異世界人、不思議な力が無ければ、ただの人。
あんな野蛮人の娘と結婚するなんて、嫌だ。
ナンシーと愛のある王国を作るぞ。
さあ、飾りに行くか。
僕は、アキと、従者とメイド達の首を、王城前、広場に飾った。
これで、王権の誇示につながる。
「王太子殿下!」
「ナンシー様!」
僕たちは、肩を並べて、王都市民に手をふった。
野蛮な魔獣狩りの一族は、いなくなるべきだ。
王都市民も、魔獣との共生を支持している。
「「「王太子殿下!ナンシー様!」」」
さあ、後は、辺境伯討伐完了の報告を聞くだけだ。
☆数ヶ月後、
異様な報告が続く。
「王太子殿下!王都近郊までに、魔獣が現われるようになりました!」
「何だって?冒険者ギルド・・・」
「もう、資金がありません」
アキたちがいなくなったから、いや、因果関係があるとは証明出来ない。
「被害は?」
「もう、数十件、農民が襲われています!」
「マッケンローの騎士団が、そろそろ帰って来る時期だ。帰って来たら、討伐をお願いするか。
何、アキたちさえでも出来たのだ。マッケンローの騎士団なら、楽勝だろう」
しかし、
王都郊外から、またしても、変な報告が来た。
「イセ辺境伯の残党が、王都近郊に現われています!」
「何だって・・」
マッケンローの評価を考え直さなければ。
だってさ、ここまで、取り逃がすとは、
辺境伯の一族は、100人はいないのだよ。
「でも、良い機会だ。王都市民にかっこよいところを見せようか」
近衛騎士団をつれて、僕は、王都平原に出た・・
この最精鋭の騎士団300人の偉容を見せつけて、降伏させて、魔獣退治専用の戦奴隷でもさせようか。
あれ、何か。煙っぽいな。
命乞いに、魔獣退治でもしてくれたかな。
平原に、布陣した直後、何かが飛んできた。
ボトン!
王子の目の前に落ちる。
辺境伯側には、巨大なカタパルトが設置されている。数百メートルは飛ぶ性能だ。
それで飛ばしたものは、
マッケンローの首であった。
それと、同時に、王子の元に、報告が届く。
「殿下!マッケンローの騎士団、既に、全滅してました!」
「殿下、やつら、平地の麦作地帯に、燃える何かを、投げてきました。巨大なカタパルトです!」
「畑を燃やしているのか?焦土作戦・・馬鹿な。やはり、野蛮人だ」
「そも、そも、なんで、あんなカタパルトが、王都と目の鼻の先に」
☆イセ辺境伯
彼らは、総勢100名にも満たない。戦えない幼児や少女、妊婦、老人は、外国に逃がし。15歳以上の男子男女を集めて、打って出た。
大将は、アキの妹、ナツ。
彼らは、数代前に、この世界に土着し、祖先は、髪は黒、目は黒色であったが、主に、王国の山の民と混血が進み。
碧眼金髪の者までいる。
しかし、エートスはこの世界の者とは違う。
いきなり、混ぜると、混乱が生じる。
住み分けが必要だ。
だから、孤立して、対魔王軍、魔獣部隊として、辺境伯の位を賜ったのだ。
「フフフフ~~ン。面食らっているかな」
「やめられよ。王太子殿下は寛容である。今、降伏すれば、ヒィ」
使者は捕まり。カタパルトの投射台に乗せられる。
「重量55キロ、これ、あまり、飛べませんが」
「いいよ。水斬りの要領で飛ぶでしょう」
「使者を殺すのは重大な騎士道違反ですぞ!」
「ふん。姉上を、だまし討ちにしたくせに、姉上は、お茶会に呼ばれて、そのまま、斬られたと聞いたわ。マッケンローが話したわ。だから、貴方は腹いせに死ぬの」
「ヒィ、やめてくれ」
ドン!
使者を飛ばしたが、これは数十メートルで落ちた。
「ギャハハハハハ、あ~面白い」
指を指して笑うナツに、王太子は、恐怖を感じた。
あの姿形は、アキに、似ている。
アキは、いつも、礼をしていた・・・
ナンシーのデートを優先したときでも、礼をしてくれた。
しかし、妹の性格は真逆、残虐だ!
「殿下!命令を!」
「え、突撃!」
その直後、ダダダダダダ!と音が聞こえ。
騎馬300で、突撃したが、わずか1分で絶滅した。
陣地の前に、鉄条網で、柵を作られており。馬が一瞬、躊躇し止まったときに、
真横から攻撃をされた。
何が起きた!伝説の魔道具か?
「あ~、さすがに、数代も立てば~、後装式のライフル銃と、黒色火薬ぐらいは作れるよ。
そして、手動のバルカン砲は作れるし~、畑を焼いたのは、石油を精製して作った焼夷弾だよ」
「ヒィ」
王子は、わずかな側近をつれて、王都に籠もった。
ナツらは、
カタパルトで、王都に、魔獣の死体を投下する。
畑も焼かれたので、食料はない。
ルドルフの援軍をまったが、来ない。
あらゆる国に使者を送ったが、全て、無視をされた。
そのまま捕まって斬首された使者がいたぐらいだ。
☆数ヶ月後、
俺は、王都市民たちに捕まり。
ナツたちの前に引き出されてきた。
王都には、1万の住民がいる。
立ち上がってくれれば、勝てるのに!
父上と母上から、私とナンシーの身柄を引き換えに、和平をしたいと申し出がされたのだ。
「命は助けてくれ!」
「ヒィ、助けて、私は王子にそそのかされただけなの!」
ナツは、興味なさげに見て、集団の後方に、控えているイセ一族の代表に問いた。
「大婆様、如何に?」
人の群から出て来たのは、三代前に嫁いできた王女エミリ、ナツからみて、曾祖母、イセ辺境伯の初代夫人である。
「馬鹿なことを・・・この地は、魔物だらけで、住めなかった地なのに・・・」
エミリ婆は、語り出した。
もともと、この国は、亡国の民や追い出されて来た集団の民じゃ。この地は、平野があるが、魔物だらけで、誰も開拓したくなかった地に、住まざるを得なかった。
しかし、山岳地帯に、異世界から、転移してきた集団、「じえいたいせんとうだん」がやってきた。
彼らは、魔物を良くかり。この地の者を助けた・・・
「つまりじゃ。逆じゃ。わしらの方から、縁を結びたかった。彼らは異世界から持って来た貴重な武器や、爆裂魔法の元をわしらのために使ってくれた」
「そんな」
「こんなやつらでも、子孫じゃが・・・ワシは、・・ウグッ・・どうやら、先に行くようじゃ」
「「「大婆様!」」」
エミリ婆さんは、ショックのあまり。心不全を起こし亡くなった。
ナツは、宣言した。
「じわり、じわり苦しめてやる!ここで、殺したら罰にならない!!」
「ヒィ、そんな。僕は・・曾祖伯母の死とは、関係ない!」
僕とナンシーは生かされた。
畑は焼かれ、魔物がうごめく時代に逆戻りになった。この王都におかれた。
しかし、どこの国も食糧支援をしてくれない。
国王、王妃である父上と母上は、困惑した。
生きて帰って来たのだ。
そこでも、争った。
わずかに、残った側近を先導し、親と子、婚約者とも、血で血を洗う内戦になり。
いずれ、連絡が取れなくなった。
王国内に、行政府としての機能を担える人の数はなくなったからだ。
☆後年、
軍事強国ザルツ帝国に、魔物狩りを行う一族が住み着き。
その役目と、先進的な技術により好待遇を受けるが、
奇妙なことに、その一族は、皇族との婚約者に指名されても、お茶会に、武装をし、毒味役を伴ってくることを要求した。帝国は許可を出した。
一族の歴史に、お茶会途中で惨殺された事件があり。トラウマになっているようだ。
帝国は、当然のこととして、快諾した。
最後までお読み頂き有難うございました。