はじめての王様は優しかったです。
精霊との契約は大きく分けて三つ。
傭兵契約。
上位の精霊様の所に行き、正しい手順でお願いして力を借りる。
その者の力量に合った精霊を期間限定で借りる事が出来る。
力の度合いは精霊ごとに違い、上位精霊様自身が力を貸す事もある。
主従契約。
依代を用いて周囲の精霊を下僕にする召喚。
大抵は、魔物の核である魔石を使い、使い捨ての低級精霊との契約で、戦闘などの短期契約になる。
極稀に、魔石を浄化し聖石化して使われる時もあり、この時は私みたいな中位精霊が来る事もある。
ただ聖石は貴重でしかも繊細すぎて下手な術者なら壊れてしまう。
また魔石を聖石に浄化出来るのは、勇者様のみ。
最後に絆契約。
これは偶然と奇跡と運命が絡み合う契約。
契約と言っていいのかすら分からない。
まるで出会いが必然的にのように惹かれ合う。まるで別れていた双子が出会ったように、無くしていた片羽を見つけたように、お互いが呼応して、出会った時に1+1の力を何倍も増幅する。
私のご主人様には、そんな御二方がいるのにまるで気づいていない。
あんなに叫んでいるのに。
精霊回廊を歩きながらそんな事を考えていた
精霊門に辿り着いて、深呼吸をし門を押し開ける。
重厚な木々の壁は、謁見の間の玉座への道。
勇者様は大丈夫だろうか?
天眼鬼に追われた為、先に行かせて吊り橋を落とした。
これでいくら四天王と言えどすぐには勇者様達を追えないはず。
精霊界の時間は、人間界と異なるし戻るも一瞬で私の眷属コボルト戦士の守る小枝に行ける。
私は精霊王オベロン様の前に跪いた。
「王様、この度の無礼、申し訳ありません。お願いがあってきました」
「うむ、待っておったぞ!もうしてみよ」
「突然の謁見、失礼と思いましたが…」
「いやいや、お前の来る事はこの者に聞いておったぞ?」
「さくら様!?」
上級精霊にして樹木精霊のさくら様が笑顔で控えめに手を振っている。
「し、失礼しました!え、えっと、あの…」
「大丈夫、静かにゆっくりでいいですよ」
王妃テターニア様が優しく声を掛けてくださった。
「はい、有り難う御座います。お願いがあります…今、私のマスターなのですが、天眼鬼シュテンに追い詰められています、私はそれをどうにかしたい、だから力が欲しいです」
「魔王四天王天眼鬼シュテンか、なるほど分かった」
精霊王は、合図すると進化秘宝を持って来させる。
「え、王様、あの私の上級精霊試験は、まだ先で…」
「…精霊とは、儚いものでいないと否定されれば簡単に消え去る存在だ」
「はい…」
習った事だ、それを今更?
「ならばその逆はどうだ?他者と知り合い認め合い存在は強固となる」
「はい?」
「これを見よ」
精霊王が手を振ると己が精霊力で人間界を映す大きな鏡を作り出した。
映った場所は大きな街、祭りなのか人が多い。
どことなく見覚えのある町並み、面影のある町民。
「まさか!」
「この街で年に一回行われるケットシー祭りで、精霊を信じ敬いもう300年も続いている。今では他国からも人々が祭り目当てで集まっておる。お前は今や精霊界でも10大精霊に入る精霊力の持ち主になっているのだぞ」
「良かった、あの村は無事だったんですね」
「うむ、しかしこんなに大きな街だ。天眼鬼、魔王軍に狙われるかもしれない。本来なら人間界への介入はしないが、お前の頼みだ、進化秘宝を持っていくが良い」
「有り難う御座います!」
「それでは私からはこれを」
「これは…」
進化秘宝と対をなす強化秘宝、見るのは初めてだ。
さくら様はそれを渡してくれた。
「これは精霊の王からの依頼と報酬です、必ずや天眼鬼を退けなさい、そして必ず帰って来ておかえりなさいと言わせてくださいね?」
「はい、さくら様、必ず!」
私は一礼して、その場を後にした。
魔の森の端、私の小枝が突き立てた場所。
コボルト戦士が三匹、私の帰りに安堵している。
さぁ、決戦だ。
天眼鬼シュテン、彼を勇者様の所には行かせない。
もう誰も悲しませない。