95 side:Heracle
ロジェに言われて、壁際のベンチへとイニャスと共に腰を下ろす。正直、助かったと思った。わっと駆け寄ってきた子達にどうしたらいいのか、どう触れたらいいのかわからなかったから。
ただ、駆け回るロジェや子ども達を見てると思うのは『メゾンドゥルポ』はとても暖かい場所だなと。楽しそうに騒ぐ声は見ているこちらも笑みが浮かぶ。
「何も変わらないな」
「んだなー。普通のガキとなんら変わんねーな」
陽の目を見れないのがただ哀れに感じてしまうのは健常者ゆえか驕りか。
眺めている中、一人の少女が俺たちの顔をじっと見ていた。何やら紙と見比べているが。
「本物の方がカッコいいですね」
唐突にそんなことを言ってきた。そして、この絵も特徴をうまく掴んでいるし、悪くはないんだけどとぶつぶつと言っている。恐らく、紙に描かれているのは俺の肖像画か何かだろう。王族であれば節目の時に描かせるから。
「あの、不躾で申し訳ないのですが」
「うん? 何かな?」
「描かせていただけませんか?」
「えっと、君が描くの?」
「はい!」
別に構わないけどといえばパッと顔を明るくし、トットットと画材を取りに行った。
「エル、気づいたか?」
「なにが?」
「……まぁ、彼女が戻ってきたらわかる」
イニャスが言わんとしたことがわからず、首を傾げたがイニャスはその疑問に答えてくれなかった。まぁ、彼女は少ししたら画材の入ったバッグを抱えて戻ってきた。
「……あ」
そこで気づいた。彼女の手がずっと握られたままということに。握られた手は隙間があるし、意識してみれば無機質なように感じる。
「えっと、その、描いてる姿は不恰好かと思いますので遠くを見ていただいてたらと」
そう言って座り込むとバッグの中からキャンバスを取り出す。取り出すと言っても彼女は手を使わず足で器用に取り出していた。それから一切手を使うことなく足や口を使って準備を終わらせた。じーっと見ていたことに気づいたのだろう、彼女は恥ずかしそうに身を捩り、視線を下げた。
「あー、その、ご覧の通り、私は手が不自由でして」
「え、ああ、すまない」
「いえ、不思議に思うのもわかります。今では足や口を使って色々とできるようになれましたが、こうなる以前は普通に手が使えましたから」
彼女は木炭を足に持ち、器用に線を重ねていく。その中で俺たちの疑問に答えるように身の上話をしてくれた。彼女が肘から先を失ったのは不幸な事故だった。建物の崩落によって腕が潰されてしまったのが原因だという。彼女の両親や兄弟は建物に押しつぶされて亡くなり、彼女自身はこことは別の孤児院に身を寄せていたらしい。
「正直、今までは自分できたことを誰かに世話をしてもらえないと生きていられないことにショックを受けました。むしろ、両親や兄弟と共にあの時死んでいればと考えることも少なくありませんでした。だって、そうでしょう。孤児院はただの慈善事業ではありません。手がかかる上に将来がないとわかっているのだから、いつ見捨てられてもおかしくないのですから」
いつ放り出されてしまうのか、殺されてしまうのか、いっそのこと死んでしまいたいと日々を生きている中思っていたらしい。確かに突然、家族と手を失えばそう思ってしまうのも仕方のないことかもしれない。
「いつものように何もすることなく、怠惰に生きていたところにローズ様は現れたのです」
そこから生活は激変したという。無くした腕の代わりに生活を補助できるようにと義手を作成してくれ、生活できるように様々な提案と支援をしてくれたらしい。
「全く楽ではなかったですよ。でも、自分の力で生活ができると知れたのは救いでした」
ちなみに私がこの孤児院の第一号なんですよと自慢げな顔をする。つまりそこからこれだけの人数を集め、支えているということになる。ロジェ、凄いな。
彼女が語りを止めたのは筆を口に持ち替えたためだった。細かいところは細筆を口に銜え、仕上げていく。
喋っていた時もそうだったが彼女は過去のことはすでに過去にしていた。力いっぱい今を生きようとしているその姿を作ったのがロジェだと思うと俺はいつ彼女に追いつけるのだろうな。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!
少しずつ頻度を上げていくように頑張ります。ちなみに冬休みはもう少し続きます。







