92 side:Heracle
本日、二回目の更新になります。未読の方は前の話からどうぞ。
羞恥死するんじゃないか。命日は今日だったか、思わずそう思ってもしょうがないだろう。
「エルは狼狽え過ぎだろ」
「狼狽えるなって方が無理だろ!!!」
「うーん、まぁ、そうだな」
「だろ」
「でも、まぁ、そこはローズモンド嬢だしな」
それを言われると答えに詰まってしまうのは仕方ないだろ。彼女は何をするか予想がつかない。つかないからこそ、狼狽えるようなことをされてしまうんだが。それでも、あの食べさせられはない。
「もう少しムードが」
「多分、ムードがあるとやってくれないんじゃね」
「……だよな、知ってる」
ガクッと肩を落とした俺にゲラゲラと腹を抱えて笑うイニャス。こいつ、本当になんで侍従なんだろ。まぁ、相談しにくいこととか相談しやすいからいいんだが。むしろ、ギーを養父にしてから情報網がやばいことになってる気がする。ロジェに関しては全く掴めてないが。
ちなみに食事の後はグラセラックで一泊することになり、ロジェに町をあちらこちらと案内された。あれがこうでこれがこうで一生懸命に俺に説明してくれるその姿は愛しくて可愛くていつも気丈な彼女と違った幼い感じがして新しい一面を見た気がした。
「ローズモンド嬢、自慢したかったんだな」
「そうだな」
うちの領が一番というだけあって、王都じゃ見ないものが多くあった。更にこの町では至る所に妖精がいた。王家の人間は人ならざるものを見れるというが事実だったんだなと思わず感心してしまったほどだ。妖精であることはイニャスの見えないという言葉とローズモンド嬢の話からの結論であるが。
「妖精っているもんなんだな」
「なー。ま、俺は見えないんだけどな」
窓の外を眺めているだけでも、一匹二匹と妖精が飛んでいく。どうやら、この町では妖精の伝承を大事にしているらしい。まぁ、元々のきっかけとなったのはロジェらしい。うん、さすがだよ、ロジェ。
ロジェがしたことは妖精を祀っていた石碑を綺麗にして、周りを整えただけだそうだ。そして、それを周囲にできるだけ大切にしてほしいと言ったところ、妖精の伝承が浮き上がってきたのだとか。それを聞いて、更にロジェは手を合わせて町を支えてくれてありがとうと感謝したそうだ。
元々、グラセラックは凍った湖という意味を持つ町で冬の到来を知らせるように湖が凍ることが由来なのだとか。その湖を凍らせていたのが妖精だという。冬の到来を知れることはこの雪に埋もれる町にとっては重要事項だった。遥か昔、町長であったものが願ったのが始まりだったのだとか。それ以来、冬の到来の知らせとして湖が凍るようになったらしい。まぁ、凍ると言っても今や遥か昔ほどピシッと氷が張るものではなく、薄氷が張る程度だった。それは湖を挟んだ向こう側の町も同じらしい。まぁ、向こうは今でもこちらほど氷は張らないらしいが。
「感謝されて嬉しかったんだな」
「だろうな」
今のように湖に厚い氷が張るようになったのは理由はわかっていないらしい。まぁ、ロジェが関することである気がするのは間違い無いと思う。
翌日、領主の屋敷に向かって出発した。グラセラックを出る前にこの町をよろしくねと町に向かってロジェが言えば、まるで返事とばかりにキラキラと雪のような白い光が降り注いだ。俺にはそれを降らす妖精の姿が見えていたが、ロジェやイニャスには光だけが見えてたんじゃないかな。それから数箇所、村や町を経由して到着した領主が収める町は町というよりも王都に並ぶほどの都市だった。いつぞやかきた時はここまでではなかったはずなんだが。土の道にどこにでもあるような町の風貌だったと思うのに今目の前に広がるのは石畳の道に立ち並ぶ商店。行く交う様々な人々。普通の人に見えないものもちらほらと混ざっている気がするんだが。
「父上は知ってると思うか?」
「知ってるんじゃないか。あの方のことだから、把握はしてそう」
「まぁ、そうだよな」
ゆっくりと街並みを眺められるように進む馬車。目立つものがあれば、ロジェが一つ一つ説明してくれる。
「あちらが昔エルキュール様がお忍びで訪れた孤児院ですわ」
「あんな感じじゃなかったよな。それに隣に屋敷並みに大きな建物はなかっただろ」
「えぇ、改築いたしまして。隣の建物は『999本の薔薇』の本店ですわ。現在は孤児院の支援もしておりますのであえて近くに立てた感じですわね」
孤児院を挟んで隣には教会もある。以前訪れたところで間違いないのだろうけど、こんなに数年で変わるものなのかと苦笑いが浮かぶ。そんな孤児院の前を通り過ぎ、領主の屋敷へと向かう。時折、ローズ様と声が聞こえれば、小窓からロジェは顔出し、声に応える。
そして、屋敷に到着すれば、ずらりと並んだ使用人たち。そして、その真ん中に公爵とまだ幼い黒髪の少年の姿があった。
「ローズ、おかえり。何事もなかったかね?」
「ただいま、戻りましたわ、お父様。えぇ、何事もありませんでしたわ」
「ねー様、お帰りなさい」
「ただいま、ラウル。いい子にしてたかしら」
「してたよー」
馬車から降りたロジェを抱きしめ、そこに温もりがあることをしっかりと確かめる公爵。それにロジェも答える。そして、幼い少年は一所懸命背を伸ばすとロジェに挨拶する。それにもロジェが答える。彼が弟のラウル君。幼すぎないか?
「ラウル君は今年で六歳なんだよ」
「十歳くらい離れてるのか」
「あぁ、みたいだ。ローズモンド嬢に弟か妹を作ってあげようとした結果、長い間恵まれなかったんだと」
「……そ、そうか」
こそりと教えてくれる情報に公爵は夫人と仲睦まじいのだなと分かった。それから家族の挨拶が終わると公爵がこちらに向き直る。
「これは殿下、ご挨拶が遅くなりました。よくぞいらっしゃいました」
ロジェに向けていた相好が崩れた顔が一変、スンとした。すごいな、人の表情ってここまで大きく変わるものなのか。
「突然の訪問となって申し訳ない」
「いえいえ、とんでもない。歓迎いたしますよ」
絶対にそんなこと思ってないのだろうな。でも、受け入れられるだけマシだ。
「ニャー君!! おかえり、ニャー君!」
「あー、ただいま戻りました?」
「ニャー君、なのね、ラウ君ね、できうようになったのいっぱいあるの」
「そうなんですか、頑張ったんスね」
隣というか、斜め後ろではすごく明るい声がイニャスに突撃していた。すごい、イニャスが戸惑ってるのがよくわかる。明るい声というのはラウル君のことだ。にしても、イニャスのこと好きすぎるな。
「ひとまず、殿下には別邸を用意いたしましたので、そちらをご利用ください」
「世話をかける」
「イニャス殿もそちらでよろしいですか?」
「あぁ、そうしてもらえると助かる」
「承知いたしました。そのように手配しておきましょう」
別邸ということはロジェと話す時間も少なくなるだろうな。そんなふうに思った時が少しあった。結果としてはそんなことはならなかった。なぜか。
「いやぁああああ、ニャー君といるのぉおおおお、ニャー君んんん!!!」
「寝る時だけ、別邸ということでよろしくお願いしますわ」
「あー、うん、しょうがないな」
ラウル君のおかげだった。いや、それにしてもラウル君、本当に好きすぎんだろ。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
あまり更新できてなかったのでもう一話追加更新させていただきました!!
また、ブクマ、★評価ありがとうございます!!
執筆の糧になっております。
とある妖精と幻獣種の密会
「は? お嬢に礼がしたいダァ?」
『…………』
「ありゃ、そりぇだったりゃ、湖に氷を張ってあげなさいな」
『???』
「そらァいい。お嬢はグラセラックの湖が凍ることを知ってワカサギ釣りができるだとかなんとか喜んでたからなァ」
「でも、薄かったって、落ち込んだ」
『……! …………!!!!』
「なちゅは地底湖を凍りゃせてあげりゅといいわ」
「なるほど、それはいい。我々も人も暑さに強いというわけではないからな」
『………………!』
「あァ、よろしく頼マァ」







