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なんとか、なんとかやりきったわ。なんで、私、教壇に上ったのかしら。
運営の一例からなぜか地形の話までとやりきったわ。地元の特産は知っていても、なぜそれが特産になっているのかまでは知らなかったようで、皆きょとんとしてたんだけど。まぁ、うちの子たちとエルキュール様、イニャス様は平然としてたけど。
「そういえば、ローズは公爵領に戻るんだったな」
「えぇ、商会の方で少々面倒ごとが起こっているようなのでそちらの対応をするというのが主にはなりますが、雪で道が封鎖されないうちに領区も巡りたいとも考えております」
授業が全て終わり、私はエルキュール様にお茶会を名義に王城へと招待された。まぁ、いつものことなのだけど。そこで、話すのは冬休みの計画。秋休みは王都で過ごしたのでというのもある。
「あ、そうそう、イニャス様も連れて行ってよろしいでしょうか?」
「なぜ、イニャスを?」
「いえ、弟のラウルがとても気に入っておりまして、『ニャー君は次いつ帰ってくるの』と仕切りに聞いていると本邸からの連絡にもありましたので」
イニャス様を連れて行くということに対して、エルキュール様はむすっとされる。当然ね。自分の大事な侍従を連れて行こうなんて不敬そのものでしょう。けれど、私の次の言葉にそれが霧散する。
ニャー君というのがツボったのかふくくと顔をそらして笑うエルキュール様。当のニャー君は解せぬと言わんばかりの顔をしていた。でも、帰ってくるという表現は間違ってないと思うわ。だって、ギーの家も近くにあるのだから。本人は全く使用しておりませんがと笑ってたけど。
「俺も一緒に行っていい?」
「へ?」
「イニャスがいいのなら、俺もいいよな」
「……私からはなんとも。家長である父に聞いてもらわなくては」
「そうか、それじゃあ、先触れを出しておくとするよ」
先触れとなったら、もう決定事項ではございませんか? とは恐ろしくて口にできなかった。まぁ、部屋を取るとしても本邸の方ではなく別邸に部屋を取るだろうし、大丈夫、よね。
「言っておきますが、面白いものなどございませんからね」
「ローズと一緒にいられるので十分だ」
それ、遠回しに私のことが面白いと言ってません? 言ってない? それならいいのだけど。
「そうそう、浮気はダメだから」
「しませんが? 何が、そうそうなのです?」
「だって、この間、茶会に男を呼んだって聞いたから」
「どこのどなたでしょう、それを言ったのは!! 言っておきますが、呼んだのはロランスの婚約者です」
「彼女の? あぁ、バルテレミー団長のご子息か」
「えぇ、彼女も同席しておりましたので、必要であれば彼女に聞いていただければ」
そもそも、私の傍から可愛らしいカップルを排除しないでいただきたいわ。決まってる婚約者であっても腐れ縁であったとしても少しもだもだとしてしまう彼女たちを見ているのは楽しいし、幸せそうに笑みを浮かべている様なんて尊いと思う。
「バルテレミー卿から報告もあったでしょうがあの現場にご子息であるソノーラ卿も駆けつけておりました。まぁ、私は目に入っておらず、ロランスに一直線ではありましたが」
「攻略対象者の方は?」
「おりませんでしたわ。聞けば、別の屯所への配備だったようで」
「ふーん」
納得していらっしゃらない様子。でも、事実ですもの、しょうがないわ。それから話は襲撃事件へと推移し、調査の結果単独班であったという形に収まった。まぁ、彼のご両親やご兄弟は彼の犯行や行動を知らなかったと関与を否定したためだ。知っていたのなら、止めたないしは王城へと申告したと言っていたので関与はなかったとしたらしい。実家の方に返されたはいいものの要らぬことを吹聴したために他貴族からは距離を置かれる結果となり、実家の方も物理的にも彼と距離をとったよう。そのため、彼の実情を知るのは彼の家に派遣されていた使用人ぐらいだったのだとか。
「籍も抜かれてたのね」
「まぁ、そこは男爵になったから抜いたらしい。若い時に変な娘に引っかかっていたらしいから、予防策を取っておいたみたいだ」
結果、そう結果的に籍が抜かれているということもあってご実家の方は無傷ではないけれど、ほぼ無傷。瑕疵となる瑕疵とはならなかった。ご両親はこんな形で作用するなどとは思わなかったでしょうけど。
「それで、男爵、いえ元男爵はどうなりましたの?」
「声が出せぬように処置した上で鉱山労働に従事することが決まったよ」
死者がでていなかったということもあって、罪が軽いものが送られる鉱山での服役となったらしい。声が出ぬように処置とはまたいらぬことを吹聴せぬようにとご家族からの願いだったそうだ。エルキュール様はそこまでしか仰らなかったけれど、別邸に帰り、お兄様に尋ねると指も何本か落としたらしい。それは筆記できなようにするためなのだとか。まぁ、声も出せない、文字も書けないとなればいらぬことはできぬだろうという考えなのだろう。
「まぁ、足の指を使って書こうなどとは思いもよらないのでしょうね」
貴族なら尚更。私は部屋に飾ってある一枚の絵を見ながらそう零す。この絵は事故で両手が潰れた少女が描いたものだった。
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