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「あぁ、だって数字を抜き出すだけでも時間がかかりますし、何より面倒ですもの」
どこで聞いたのか我が領の報告方式などを聞いていたエルキュール様。だから、そう答えれば、ですよねーとばかりに口元に笑みを浮かべる。なんなのよ、それ。
「書き方の統一ですか、面白いですね」
「ちょうど、書式は持ってますのでご覧になります?」
「ぜひ」
エルキュール様と話している内容に興味を持ったのかライベルン様が声をかけてくる。まぁ、ライベルン様の他にも気になる方はいらっしゃるみたいでチラチラとこちらを伺ってるけれど。言ってこないのだから、何もするつもりもない。
ハンドバッグから書式を取り出す。小さなバッグから折れもせず紙を取り出して見せたのがよくなかったらしい。エルキュール様がバッグを指す。
「ローズ、そのバッグ」
「あぁ、これですか? 空間魔法って便利ですわね」
ピシリと場が固まった気がする。何か変なことを言ったかしらと首を傾げれば、イニャス様とエルキュール様は二人揃って溜息を吐かれた。ほんと、そっくりな反応で兄弟みたいね。
「君を叱ればいいのか、どうすればいいのかと悩むよ」
「意味がわかりませんわ」
「空間魔法は稀少魔法の一つだ」
「あら、そう」
「あら、そうってさすがラウル君のお姉様だわ」
はぁと大きな溜息を吐くイニャス様。どう言った意味かしら。貶しているようでも褒めているようでもない気がするのだけど。
「大体、誰に習ったんだ」
「え、普通にルヴェールやフォルジュに習いましたけど?」
そう彼らが言ったのだ、持ち運びできるものが多いときなんかは便利だぞって。まぁ、その通りだし、多くない時でも小さな入れ物に入れるようになるからとっても便利なのよね。そういえば、イニャス様のメディスンバッグにも加工を施したわね。何回めかの実践だったけど、上手くいってよかったわ。
「なるほど、そうか、幻獣種に直接習ったのか。ローズはそういう可能性があったね、うん、忘れてたよ」
うんうんと頷いているエルキュール様だけど、どこか哀愁を感じるのはなんでかしら。変なことをしたつもりはないのだけど?
「まぁ、そんなことより、書式をご覧になるのでしょう?」
「うん、見ようか」
書式といってもそんな難しいものでもない。表形式にして、記入する箇所を設けた程度のこと。これによって、数字を間違って抜き取るなんていう事故を防ぐ。報告書の場合、人によって表現が変わったりすることもあってどれがどれに値するのか分からなかったりするから、こういうところで統一させた。勿論、最初にどれがどれに当てはまるかというのは過去の報告書から抜き出して、これがこれになるという適応書も送付している。統一化させるに当たって私とお兄様で領区内を走り回ったのはいい思い出だわ。
「今でもわからなければ、問い合わせるように指導はしてますわ」
我が領地にはそういう問い合わせの窓口を設置している。勿論、窓口担当でも普通に別の仕事をやってもらっているけど、お問い合わせがあればそちらを優先するようにいっている。場合によっては現場への出張も含んでいる。人数としては区の数プラスαといったところかしら。
「担当とか決めてるの?」
「いいえ、決めておりません。決めてしまうと場合によっては忖度する可能性がありますから。持ち回りですわ」
忖度が発覚した場合は窓口担当から外すし、賠償金も支払わせる。それは勿論、相手も。困ったことがあれば、窓口に。窓口も対応に困ったら本家に報告することを義務付けている。そのため、今のところはうまく機能している。これがだんだんと恥ずかしいから問い合わせない、わからないと言わなくなってくるとシステムの崩壊と言ってもいい。まぁ、ずっと言っていくしかないないのでしょうけど。ひとまず、私の目が届くうちは徹底するつもりだけど。
「ローズ、なんで、似た書式があるんだ。まぁ、記入する項目が多いか少ないかの違いだが」
「あぁ、毎回毎回全部やってたらしんどいでしょう。ですので、二月に一度は大雑把に必要なところのみの提出を要求してますの。そして、次の月は細かく全ての項目においてチェックするようにしてるのです。そして、一日で仕上げろなんて言いませんわ、むしろできる人間が少なければ到底無理ですし。できるだけ何日かかけて丁寧にやるようにと推奨しているのです」
まぁ、何日かといってもほんの二、三日程度だけど、それだけでも一日でやるのとでは変わる。
「ローズモンド嬢、一ついいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「気になって見せてもらっている時点でいうのもなんなのですが、こんなところでそのような領地運営の話をしてもいいので?」
「あら、領地運営のためになるのであれば、どうぞご利用ください」
「え、っと」
そもそも、どうしてそれぞれの領地が秘匿にするのかがわからない。けれど、領地の経営方法を秘匿にするというのはライベルン様の反応を見る限り当たり前のことなのでしょうね。こうして、私のようにオープンにするなどあり得ない、と。何か打算があるのかそう勘ぐられてもしょうがない。
「国を支える仲間なのですから、良いと思ったものを勧めなくてどうします?」
驚いたように目を見開くライベルン様。驚くことなんてないでしょうに。そもそも、領地運営に関して相談できる相手が少なすぎるというのは国全体の問題だと思うのよ。確かに公爵家と子爵家などでは領地の大きさがそもそも違うでしょう。けれど、違うなりに考えれるところはあるはずよ。
「それに私のこのやり方が進めば、王城での仕事も少しは楽になるのではないでしょうか」
あくまで理想ではある。けれど、毎日書類に向き合う文官が少しでも楽になればいいかなと思う。集計など出すのって本当に面倒だもの。
「おやおやおや、なんとも面白い話をしているではないか! よし、今日はローズモンド嬢に授業をしてもらおうか」
「それはモール先生が楽されたいだけなのでは?」
「もちろん、その通りだ。それに最初にも言っただろう」
いつから教室にいたのかニコニコと口元に笑みを浮かべたモール先生はささ、ローズモンド先生と言いながら、私を壇上へとあげた。なんで、こうなるのかしら!?
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