86 side:Heracle
あの後、結局イニャスにはジャガチをもらうことはできなかったが、翌日複数種類のジャガチが机の上に置かれていた。ちらりとイニャスを見れば、素知らぬ顔。全くわかりやすいにも程があるだろ。塩で味付けされたものからチョコでコーティングされたもの、緑のチョコでコーティングされたものまであった。
『食べ過ぎにはご注意を』
小さくついていたメモにそんな文字。ロジェに言ったな、イニャス。全くと思いながらも、もらったものは美味しくいただいた。緑のチョコは少し苦味があって不思議なものだった。それにしても、薄くスライスして揚げるだけなのに美味しいというのは面白いものだな。
後日、学園に登校するととある教室から騒ぐ声が耳に届いた。俺は気づかれないように影に隠れ、耳に強化をかける。
「領主の娘を庇いたい気持ちも分かりますが、その娘のせいで私、襲撃されたのよ?」
「別に庇うも何もないだろ。そもそも、ローズモンド様のせいではなく、襲撃犯の自業自得な末、八つ当たりだろ。誰かのせいにするなら、恨むなら襲撃犯だろ」
どこのクラスかは把握してないが赤みがかった髪の女学生に呆れたように肩を竦ませる雀茶色の髪の男学生。男学生はどうやら公爵領の人間のようだが、女学生は違いあの襲撃事件の被害者のようだ。隣のイニャスはやっぱこうなるわなと零す。まぁ、そうだな。だが、男学生の方が大人な考え方をしているようだ。
ギャンギャンと吠える女学生にはあと溜息をつくと男学生は言葉を吐き出す。
「確かにローズモンド様は勝手してるけどさ」
そら見なさいとばかりに悦に浸る女学生。けれど、男学生は頭をポリポリと掻くと彼女の想像とは真逆の言葉を口にする。
「ぶっちゃけ、その勝手のおかげで領が豊かになってるわけだし、めんどくさい半年に一回の報告書も無くなって助かってんだよなぁ」
「は?」
貴族としての義務を忘れたのかと言わんばかりの声に男学生はケラケラと笑う。
「半年の報告がなくなった代わりに毎月末の報告はあるぞ。それだけでいい。その上、その報告書も書き方決まってるから埋めるだけでいい」
最初は面倒になったと領内でも反発があったらしいが、半年分の記憶と記録を掘り起こさないといけないのよりは楽だと男学生。月一で提出しておけば、半年一度の報告は不要であるし、領から国に提出する報告書に関しては領主の方でまとめて提出されるから確かに区長たちの仕事は毎月末のそれだけになるな。それに期間が短い分、情報が鮮明で確実性も上がる。書き方も決まってるということは抜き出す必要があるところを探す必要がないということ。確かにそれは領主としても楽だな。
「ある程度勉強しておかないといけないが、うちの領はローズモンド様のおかげで識字率も高いからな」
続けられた言葉に女学生は溜息。平民の識字率など興味がないのだろう。平民の識字率が高ければ、文字での発布も可能になるということだ。それが理解できてないんだろうな。
「ジラルディエール公爵領まで届かなくても識字率を上げる必要はあるか」
「まぁ、上がればそれだけ問題も上がってくるだろうけど、様々なところに益は生まれるだろうな。それに識字率が高くなれば記録も残っていくんじゃないか」
口伝なんかも場合によっては文字に残していく可能性も考えれば、引き継ぎなども楽になるだろう。まぁ、書き方などの問題はあるだろうが。
「識字率が高いから色々と協力してもらえるんだ。あれの記録をとっておいてくれ、これの記録をとっておいてくれって」
問題がある点に関しても文字に書き起こしておいてもらえるから助かると会えない場合は手紙で伝え合うこともできるしと男学生。確かにこの日にこういうことがあったなども書いておいけるから区長としても把握はしやすくなるか。まとめるのは大変だが、部下がいれば問題もないか。いささか急成長しすぎじゃないか公爵領。
「そういえば、陛下も唸ってたな。見やすくて悔しいと」
「あの人は何に悔しがってるんだ」
でも、いずれは報告書も統一できればいいな。少しでも業務の短縮化ができれば、色んなことに使える時間ができるだろうし。そもそも、統一された書き方や識字率アップ、色々とロジェに聞かなくてはな。間違いなく先の人生の知識なのだろうけどな。
問うた本人はただ面倒だったからいうのは容易に想像できた。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。
有償依頼にてお願いしていたイニャスのイラストが出来上がりましたー!!!
めっちゃ、お兄さん!!そして、可愛いんです!!Twitter(X)で公開しております。







