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「かつて、公爵領で区長をやってたんだって」
そう定例のお茶会で言われ、私は首を傾げる。
「君を襲撃した男の証言だ」
「あぁ、彼、あの方だったのですね。へぇ」
「興味ゼロじゃないか」
「そりゃそうでしょう。興味などありませんから」
たとえ、赤髪の娘を恨んでたところで彼がそうなったのは身から出た錆、自業自得ではないかとしか思わない。そもそも、私は調査をした程度で最終的な判決を下したのはお父様。私が言わなかったところで結局のところは誰かしらが調査をすればバレる。その場合になったとしても彼は調査した人間を恨むだろう。ただただ弱いものを標的にしているだけ。
「彼の身柄は数年前に彼のご実家に返されてます。我が公爵家とはなんの関係もございません」
「まぁ、そうなんだけど、噂雀たちの話題には上るだろう」
「えぇ、でしょうね。襲撃された方は私のせいでと思うかもしれませんね」
きゅっと眉を顰めるエルキュール様。全く、エルキュール様が気にすることではありませんでしょうに。全ては実行した襲撃犯である男が悪いのであって、私も我が公爵家にもなんの瑕疵もない。それでもと言ってくる人間は噂しか目に入ってないか、吐け口がなくての八つ当たり。
「いちいち気にしてたら身が持ちませんわ。それに私が悪女だと噂もまだまだ根強い様子。そこにこの噂が加わったところでどうってことありませんわ。強いていえば、屯所を設置することによって被害は最小に抑えられたこの功績をきちんと誇って欲しいところですわね」
本来、騎士の巡回は王城と王都入り口を往復するというものだった。けれど、それには大きな穴が存在する。騎士たちが通った後に襲撃を起こせばいい。騎士たちを呼び戻すにしても呼んでくるにしても時間がかかる。下手すれば、王城まで駆けなければならないなんてこともかつてはあったらしい。そこで、王都の至る所に屯所を構えた。巡回は今まで通りに行っているが屯所に数名の騎士が駐屯しているため有事の際にはすぐに呼びに行ける。そのため、巡回騎士が慌てて対応する必要もない。そして、頻発していた犯罪の抑止力としても働いている。犯罪数が減ったらしい。つまり、発案したエルキュール様の功績であるのだけど、エルキュール様は特にそれをいうことをしてない。
「君が作ったメモを見て見直しただけにすぎない」
「見直して問題点を洗い出し、改善案を提案をする。素晴らしいことですわ」
「ローズはもっと沢山のことをしてるじゃないか」
あら? これはもしかして拗ねていらっしゃる? あー、後ろでイニャスが腹を抱えて笑ってるから間違ってなさそうね。
「私がしていることはただ先の人生にあったことを再現してるだけにすぎません。それにそもそもどれもこれも私だけでは到底実現できるものではなく、優秀な商人、職人たちが実現しようと試行錯誤してくれたから今、商品化も実用化もできているのです」
まぁ、そもそもの根底はエルキュール様から逃げるためだったわけだけど。それでも、今こうして様々なことに取り組めてるのは周りの人間のおかげでしかない。
「まぁ、一番の原動力はエルキュール様のためですが」
ぽそっと言えばガンと何かを打ち付ける音。見ればエルキュール様が机に突っ伏して何かをボソボソと呟いていた。
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