83
「お、お初にお目にかかりーーあ、や、お初じゃないな。えっと、本日もご機嫌麗しく……いや、襲撃にあってるから、麗しいもくそもないじゃん? お招きいただきーー招かれてないから違う。えっと???」
緊張した様子の彼は挨拶をしようと言葉を口にするも、最初のところで詰まったようで、目に見えて狼狽えているし、どうしようどうしようと焦りが見える。小声になっているとはいえ、彼の自己ツッコミまでしっかりと聞き取れる。次第にくぅんくぅんと悲しそうに鳴く子犬の姿が彼に被さってくる。
「ばか」
これも違うあれも違うと一向に挨拶ができない彼に対し、ロランスは片手で顔を覆い、小さく呟く。私は可愛らしくてとてもいいと思うのだけど。まぁ、公式の場であれば許されぬことでしょうね。
「バルテレミー卿、そんなに緊張しなくていいのよ? あくまで個人的なお茶会だもの」
「申し訳ありません。このようなところ、初めてなもので」
「なら、これからたっぷり練習すればいいわ。大人になるまで時間はまだあるもの」
しゅんとしょげてしまったバルテレミー卿はなんというか、犬属性持ちね。耳と尻尾が見えるようだわ。
「はい。あ、そうだ挨拶がまだだった。えっと、自分はソノーラ・バルテレミーと申します。本日は……突然の訪問にも関わらず、ご同席させていただき、感謝いたします」
丸めてしまっていた背筋を伸ばし、ハキハキと自己紹介を行なったバルテレミー卿はチラリと私の隣に座るロランスに目を向ける。あれね、飼い主に褒めてもらいたいわんちゃん。
「それから、もし、よろしければ、こちらもどうぞ。その、行きたかったと仰っていたので」
そう言って、机の上に置かれたのは『お菓子な家』の菓子箱。開けても? と聞けばお任せにしたのでご期待には添えないかもしれませんがと肩を落としていた。少しばかり気が弱いのかしら。それとも自分に自信がない?
ひとまず、バルテレミー卿はロランスの隣に座ってもらい、私は菓子箱を開ける。開ければ、そこには色とりどりのお菓子が詰まっていた。クッキーは勿論、パイにカップケーキ、フルーツの蜜漬けにゼリーとどれも美味しそうなものばかり。
「とっても美味しそうね、ありがたくいただくわね」
箱の中から取り出そうとすれば、マルチドやアヴリールがさっと動き、小皿にお菓子をとっていく。全員のところにお菓子が配られると、バルテレミー卿はきょとんとする。まさか、自分にも配られるとは思ってなかったようね。
「こういうのはみんなで食べたほうが美味しいのよ」
「え、あ、はい」
クッキーを一つ手に取り食べる。甘さも控えめのようだから、甘い物が苦手な人でもこれは食べやすいわね。これが美味しいそれもいいとマルチドたちとはしゃいでいると「場違いじゃないか」と声。
「あら、遅いですわ、お兄様」
「別に遅くはないだろ。お、それ『お菓子な家』のか。好きなんだよな、これ」
えぇと返事する前に途中参加のお兄様はいそいそとちょうど空いていた席に腰を下ろすとお菓子を手にとる。
「バルテレミー卿、もしや、注文する時に公爵家の名前を出したか?」
「え、あ、はい、申し訳ありません」
「あぁ、いや、怒ってるわけではない。あそこは『999本の薔薇』の系列店だからよくうちのことを理解していると言いたかっただけだ」
そう関係者ぐらいしか知らないことだけど『お菓子な家』は我が商会『999本の薔薇』の一部なのだ。だから、別にわざわざ行かなくても取り寄せることはできる。まぁ、商会の名前を出さずにいるのはその方が店にとっていいと考えて。任せている店主は出しても構わないと言ったけど、今まで彼が築き上げてきたものを奪いたくなかったというのが正直なところなのよね。
「ローズ様」
事実を知り、むすっとするロランス。
「ごめんなさいね。だって、貴女彼を紹介してくれる気なかったでしょう?」
「そんなことはーー」
「では、後日っていつだったかしら?」
「それは、後日は後日です」
「理由になってないわね。そもそも、貴女の婚約者だというから知りたかっただけよ」
それ以外に理由はない。気に入った男に手を出すとかいう尻軽でもないし。まぁ、慕ってくれるようになったとはいえ、ロランスの中にはまだまだ私に対する警戒心というものがあるのね。結構根強いわね、私の悪女な噂。
「あー、セセ卿が心配になるのもわかるが、これにくっついてるの嫉妬深いからな。下手にこの男性がなんて言おうものなら、ローズの目に入らないように抹消に動くからな」
「お兄様、それは言い過ぎです。そこまではしないわ、まだ」
「まだ、だろ。そのうち、そうなるって」
いやー、そうはならないでしょうと思うけれど、ゲームの彼が出てきて少し不安になる。うん、なるかもしれない。お兄様はなんかわかってるふうに言ってるけど、きっと大丈夫よ。けれど、私たちの話を聞いてかその近くでロランスぅ、情けない声を上げないというやりとりが聞こえてきた。怖がらせるつもりなんてなかったのに。
ここまで読んでいただきありがとうございます!







