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「ジラルディエール嬢におきましては、このまま真っ直ぐお帰りください」
バルテレミー卿はそういって出口をさす。それに私は面白くなくて、言葉を出す。
「行きたいところがあるのだけど」
「なりません。先程、襲撃を受けたというのは多くの人が目撃しております。先程は守られたとはいえ、襲撃犯が複数であり、また襲撃があるとも限らない。もちろん、そうなれば周りの人間が巻き込まれる可能性すらありうる。であれば、向かう先々の人々は落ち着きますまい」
「そう、ね、貴方のいうことももっともだわ。しょうがないわね、今日は帰るわ。ロランスは置いて行ったほうがいいかしら」
「いいえ、貴女の護衛が減らしてしまうと公爵に叱られてしまう。それにまだ襲撃犯の聴取も終わっていないので報告と確認は後日させていただきたく」
「そう、わかったわ」
まぁ、すぐに犯人の動機などがわかるものではないでしょうし、あの状態であれば落ち着くまで時間がかかると見ていいわ。私がここに滞在しているのも時間の無駄。帰って何かしらしているのが有意義と言えるわね。
「ちなみにロランス、紹介してもらえないのかしら?」
「紹介するほどのものではございません。ただ、まぁ、そうですね、後日いたら紹介いたしましょう」
「あら、そう、それならその時を楽しみにしておくわ」
多分、ロランスを心配した彼はロランスのいう共に騎士を目指しているという婚約者。父親であるはずのバルテレミー卿はわかっているはずだけど何もおっしゃらないから、尋ねないほうがいいのかしらね。ロランスも無視で構いませんと言ってるのは彼女には理解できる何かがあったということなのでしょうね。ただ、彼がどう動くか見るぐらいならいいわよね。
「『お菓子な家』クラスでも話題だったから食べてみたかったわね」
「僕がひとっ走り行ってきましょうか」
「いいわ、貴女は仕事をしてくれたもの。そこまでしてくれなくていいわ。帰って、お茶にしましょ。うちのシェフも美味しいもの作ってくれると思うわ」
「かしこまりました」
帰宅すれば、襲撃のことはすでに伝わってしまっていたようでマルチドたちには心配をかけてしまった。そこは申し訳なかったわね。襲撃事件のせいもあってか、砂埃で結構汚れてしまっていた。この状態でお菓子店に行かなくてよかったわ。
「お嬢様、大丈夫ですか」
「え、えぇ、大丈夫よ。今頃になって少し恐怖がきただけよ」
湯船に浸かり、落ち着いたせいか体が震えていた。目を瞑れば、襲いかかってくるあの男の顔が思い浮かぶ。それを打ち消すようにぱしゃぱしゃと顔に掬った水をかける。ふぅと凭れるように湯船の縁に頭を預ければ、くすりと柔らかな音。
「ロランス様が今お茶会の準備をしてくださってます。お風呂から上がったら、ゆっくり楽しんでください」
「ありがとう、苦労をかけるわね」
「いいえ、お嬢様が健やかであることが私どもの何よりの幸せでございます。怖いことは美味しいものを食べてお忘れください」
「ふふ、そうね、そうするわ」
「むふー」
「マルチド、アヴリール、貴女たちも招待していいかしら」
「お嬢様のお気のままに」
小さい頃から一人のお茶会は嫌、皆で楽しもうと侍女は勿論、メイドに執事、騎士たちも誘うものだからいつの間にか私に誘われたら参加することとなっていた。勿論、強制ではないため、断られることもあるし、新人は誘わないようにと言われる。まぁ、忙しそうな人を誘うことはしないわよ。その人には後で差し入れはするけど。
お風呂から上がり、軽くドレスアップしてもらうと、化粧は軽めにして、マルチドたちを伴い準備してもらったお茶会の場に向かう。途中、入口に待機している執事に言付けを頼んだ。
即席のお茶会というのにしっかりと準備され、六人分の席が用意されていた。最初は四人分しか用意してなかったらしいのだが、ギーがあと二席と用意していったそう。ギー、貴方どこまで読んでるの??
「やはり、二席は余分だったのでは?」
「あぁ、いいのよ。おいといてちょうだい」
お茶会を始めても二席は埋まらない。それにロランスは首を傾げるも、大丈夫という言葉に言葉を飲み込んでくれる。
そうしていると「失礼します!」ととても元気の良い声。キュッと眉をひそめるロランス。現れた人物は後ろ手に何かを隠しつつ、緊張している様子だった。
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