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「それで、迷子になった挙げ句、上級生に絡まれたと」
「絡まれたというか、ただ迷ってるようだったから声をかけてくださったのだと思うわ」
「どうだか」
ひとまず本日の日程を終え、私は王宮にお邪魔している。勿論、その終えるまでにあったことは心配そうにエルキュール様がしていたので、説明したら、目が座った。
「アベイル・カントルーブ、ね」
「お知り合いですの?」
「知り合いというか、あー、従兄弟というか兄弟というか」
モゴモゴというエルキュール様から聞き出せば、カントルーブ様は第一王子でもあるらしい。だから、兄弟と言ったのね。
子供に恵まれなかった国王夫婦は王弟である公爵から養子に迎えたらしいんだけど、その迎えた年に懐妊がわかり、持て余したのだとか。一応、王子として席は残しつつ、公爵家で育てられることになったらしい。だから、エルキュール様と同じ姓を名乗らないらしい。
「あんまり好きじゃない」
「交流があまりなかったということでしょうか」
「いいや、違う。交流は親族ということもあって結構あった」
複雑そうなエルキュール様にイニャス様が紅茶を淹れてくれながら、教えてくれた。
「エルのやろうとすること、欲することを先にやってしまったり、欲したりしてたんです。物にしろ、人にしろ、さまざまな形で。ですから、エルは彼が苦手になったんですよ」
「……そこまでいうほどではない」
「全くローズモンド嬢の前だからといって意地をはってどうする。事実だろ」
私に対しては丁寧な言葉遣いを心がけているらしいイニャス様だけど、エルキュール様には砕けるようで、拗ねた彼の頭にコツンと拳を当てていた。そんな親しげな関係がなんとも羨ましい。いえ、微笑ましい。
とはいえ、苦手に思う理由もわかった気がする。けれど、カントルーブ様の方が年が上なのだから少しばかり先行してしまうのはしょうがない気がするのだけど。
「ちなみに俺も声をかけられました。まぁ、お断りをしたらあっさりとしたもんでしたけど。通り過ぎざまに哀れだなと言われましたが」
一体どういうことかしら。哀れって。いや、死にゆく運命であったと考えれば、哀れも意味がわかるけれど、未来余地でも持ってたのかしら。うーんと考える私の頬にエルキュール様の指が触れる。
「せっかく、俺と一緒にいるのだから、俺のことを考えて欲しいな」
「何をくだらないことをおっしゃるのです?」
「だってここ最近はずっとやれヒロインが、やれ攻略対象者がなどと話しかしてないじゃないか。覆すことができない契約までしたんだ、少しは仲を深めようとしてくれてもいいんじゃないか?」
覆すことができないとは、まぁ、その通りだろうけど、それでもやはりゲームの内容が気になってしまうのは転生者ゆえなのだろうと思う。その気にさせてごらんなさいといえば、にっこりと笑って攻め手を取るだろうし、うまい言葉が思いつかない。
「ま、ローズはそれどころじゃないんだと思うけど」
そう言って、イニャス様に合図をし、取り出したのは調査報告書。それに目を通せば、苦笑いしか浮かばなかった。
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