66 side:Heracle
父上に頼んでいた指輪も出来上がり、挑んだお茶会。
「ロジェ」
「……」
そう呼んだら、すごく不愉快とばかりに眉を顰められた。何か間違っただろうか。
「それはお忍びの時の呼び方では?」
「別にお忍びでなくともよくないか? それに君も俺のことをエレと呼べばいい」
「遠慮いたしますわ。公私の切り替えは必要ですもの」
キッパリと言い切ってくれるロジェ。心の中ぐらいはいいだろう。それにしても、公私の切り替えと言っているが小さな声で「私が恥ずかしいもの」と言っているのが聞こえた。耳に身体強化をかけておいてよかった。これは聞き逃したらもったいなかったな。
「では、ローズと呼ぶのは?」
「……まぁ、それくらいでしたら」
目元を赤らめ、顔をそらすロジェ。俺の婚約者が可愛すぎるんだが。
「エルキュール様、それは」
「あぁ、これか、判定器のようなものだと父上にもらった」
ちらりと目線が言ったのは俺の左親指。そこにはあの日から変わらず水晶のついた指輪が存在している。伴侶たる相手には伝えていいらしいので、ロジェに説明すれば、彼女はゲーム上ではそんなものをつけていなかったという。
「多分、そちらの俺は危機感を抱かなかったんだろう。王太子であることを絶対に思っていて、イニャスを失っていても守られるのが絶対だと」
もしかしたら、イニャスの残したギルメットの命令書を読んでいなかったのかもしれない。まぁ、父上などが確認して、あれ以上心の傷をつけないように配慮していたのかもしれないが。真相を知っていたら少しは違ったかもしれないだろうに。
「それでも不安なら、契約魔法はどうだろう」
トンと机の上に置いたのは二個の銀の指輪が台座に収まった箱。
「それは陛下の許可がいるものでしょう?」
「すでに許可はいただいている。書面の代わりにこの指輪が証となる」
婚約解消ならびに破棄をしないという契約。彼女の宝石のように美しい瞳が揺れる。
「破れば」
「破らないし、破ろうとすら思わない」
俺の本心を見極めようと俺の目を見るロジェ。俺は真っ直ぐとロジェを見つめる。
「……わかりました。受けましょう」
「ありがとう」
頷いてくれたことに手をとってお礼をいえば、大袈裟ですわと手を振り払われる。
「指輪はどこにつけよう?」
「……左手の薬指とか、でしょうか」
「じゃあ、そうしよう」
スッと彼女の細い指に指輪を通す。そもそも指のサイズを測っていなかったからぶかぶかになってしまうのは当然のこと。けれど、その対策として収縮魔法をかけてもらっている。ピッタリと嵌った指輪にロジェは疑問を口にする。
「これにいくらかけたのです?」
「さぁ、父上に要望だけ言ってお願いしただけだからな」
金額まで知らないと言えば、なんてことと頭を抱えた。普通、高位令嬢ともなれば金額を気にしないと思うんだけどな。まぁ、そういうところすらもいいと思ってしまうのだから、俺も大概重症だと言える。
そして、互いの左手を重ね合わせ、俺は契約魔法を発動した。手を中心に魔法陣が展開されたのを確認し、父上に教えられた文言を口にしていく。
契約魔法と言っても、先に受け入れられていれば魔法発動中に否と言われても契約を締結できる。婚姻などは最中に問答を行うが、あれは意思があろうがなかろうが強制的なものではないから関係ないからな。
『ーー解消、破棄なれば、互いの命を以って償う』
「ちょ、殿下!?」
『之を契約とする』
契約のペナルティにロジェが驚きを口にするけれど、俺はそのまま魔法を締め括った。次第に完了したの証として魔法陣は消え、指輪が光を放った。
「エルキュール様、互いの命を以って償うというのは」
「そうしておけば、絶対に破らないだろ。それに命という重きものをかけたんだ、神すらもこの契約を破棄することは難しいだろう」
「いえ、そうではなく、命をかけるのならば、私だけのをかけていただければ」
「むしろ、逆だろ。普通は俺の命だけをかけるものだ。そもそも、ローズは死にたくないという癖に思った以上に自分を犠牲にするよな」
まぁ、そういうところも好ましいのだけど、こういう時ばかりは腹立たしい。スッと彼女の指輪に口付ければ、ギョッとするロジェ。
「久しぶりに俺のこと殿下って呼んだからな」
「もう、その話忘れてくれよろしくてよ」
「嫌だ。君にキスするチャンスがあるのなら、ずっと継続しよう。王のなった暁には更新するつもりだけど」
くすくすと笑えば、顔を真っ赤に染め上げるロジェ。あぁ、本当に愛おしい。
「言っておくけど、君の命を巻き込んだのはただ単に俺が君を手放したくないだけだ。君が誰かのものになるなんて考えるだけでも恐ろしい」
「勝手ですわ」
「そうだよ。勝手さ。でも、君だって俺の気持ちを考えずにずっと解消をと勝手を言ってきただろ。お互い様さ」
それとこれは次元が違いますわとプイッと顔を背けたロジェ。そんなところも愛おしいというのを彼女はわかってないのだろうな。
でも、これで少しは彼女の不安を和らげることができてたのじゃないだろうか。この契約は契約者本人でも破棄することはできないのだから。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
明日からはローズ視点に戻ります。







