64 side:Heracle
デートから戻ると父上から呼び出しを受けた。この呼び出しはお願いしていた例の件であるはずだ。王都で問題は起こしてーーあれはないよな。子爵令嬢にしろ、商会にしろ、こちらの身としては加害者ではないし。そもそも、子爵令嬢は選民思考による横暴であるし、商会は詐欺だ。しかし、ああいう貴族や商会があることは頭が痛い問題にもなるだろうな。
どうにかしなければいけない問題と頭の中におきながら、父上の部屋へと向かった。
「エルキュールです」
「入れ」
「失礼します」
中に入れば、普段は宰相たちがいるのに今回はいなかった。父上ただ一人が机に向かい、書類をめくっていた。
「お呼びと伺いましたが」
「そこに箱が置いてあるだろう」
「はい、これが何か」
「まずは合格と言っておこう」
「はい?」
ローテーブルの上に置かれた小さな箱。それを指し示す父上。しかし、いまいち意味がわからない。さらに付け加えられた合格の言葉。一体、それは何を示しているのか。
「叙任式の後に申請を出したな」
「はい、来年より学園に入りますし、そうなると呪術や体をある程度慣らしているとはいえ毒に対して対策が必要だと思いまして」
「だから、合格、なのだ。その箱の中にお前が望んだものが入っている。それがどのような宝飾になるのかは知らん」
まさか、危機管理などの適性を見られていたのか? 申請したのはロジェと話していて魅了の危険性を感じたからだ。父上に手にとってみろと言われ、箱を手にとる。形がないものなのか、箱自体はそれほど重さを感じない。恐る恐る開けて見れば、そこには指輪が収まっていた。太めの銀の指輪には海のような美しい石が埋め込まれている。
「指輪か。判断しやすくてお前にはちょうど良いのだろうな」
いつの間にか書類の山から抜け出した父上が俺の手の中を覗いていた。
「この状態が平常の状態だ。これの色が変わった際、何か異常が起こっていると思っていい。気をつけなければいけないのは赤黒と紫だ」
「赤黒と紫。どういったものなので?」
「魅了と毒だ。呪いの場合は単純に赤だ」
魅了魔法自体は違法になっていない。ただ、それは軽度であればの話。重度ーー思考を書き換えるほどになると隷属させているとみなされ、重犯罪となる。
「軽いものは防げるが重いものを防ぐことはできない。そのため、できるだけジラルディエール嬢には傍にいてもらうことだ」
あぁ、そういえば、彼女は呪いを無効化することができるのだったか。今度、その効果範囲など聞いておこう。
俺はそんなことを考えながら、指輪を手に取るとなんとなく左の親指に差し込んでみた。
「それからーーうむ、遅かったな」
父上の言葉に首を傾げる。
「一度抜けば意味がわかる」
「……」
父上の言葉通り、指輪を抜こうと引っ張る。クッと力を入れても抜ける気配がしない。抜けぬほどぴっちり嵌ってるわけではないのに抜けない。
「……ふっ」
「諦めろ。それは一度身につけると離れることはない」
「呪いならば」
「呪いならばよかったが、これは世界と王族の契約に当たるものだ。死ぬまで消えん」
そういって、父上は自分の腕を見せる。そこには無傷の金の腕輪に無数の傷痕。父上はその腕輪欲しさに誘拐された。そして、腕輪を奪おうと腕を切り付けられた。発見が早かったため、回復魔法が間に合い死を免れることはできたものの傷痕は残ることになってしまったらしい。
「こういうことが起こるから、本人が危機を感じない限り渡さぬようになった」
父上の場合は幼い頃からジラルディエール公爵と親しかったこともあり、早い段階で申請してしまった結果だという。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
明日もエル視点が続きます。







