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お茶会の翌日、私はお出かけの準備をしていた。町娘風のワンピースに髪は大きめスカーフを使った三つ編みに。前世でちょっと挑戦したかったアレンジだったけど、髪が短かったのと夏は暑かったっていうのもあって挑戦できなかったのよね。今世では髪が長いのは当たり前だし、こういうアレンジがないとみんな似たり寄ったりの髪型になってしまう。そして、何より私の侍女たちは凄く優秀で私の説明で想像していたよりも可愛らしいものにしてくれた。むしろ、新しいアレンジだと喜んでくれたからもしかしたら使用人たちの中で流行るかもしれないわね。それにしてもやってもらってわかったけど、スカーフじゃなくてリボンでもありね。銀のスカーフはないだろうし、リボンだったら……何考えてるのかしら。彼とは解消はするのよ。えぇ、浮かれるんじゃない、私。ちなみにメイクはナチュラルに落ち着いたものにしてもらった。夜会や茶会に行くわけでもないからそんなに気合を入れてもしょうがないもの。むしろ、気合が入りすぎると逆に目立ちそうだし。
最後の仕上げに髪の色と目の色を魔法で一般的に多い茶色系統にしてしまえば、どこにでもいる小娘の完成よ。
「変装していくお嬢様のことを考えるとスカーフは赤色を使っても問題なかったですね。むしろ、今度から先に魔法で変えておいてもらった方がメイクや装飾を合わせやすくなるのでは??」
ぶつぶつとマルチドは思考する。えぇ、真面目すぎるわね。別にあってなかったらあってなかったで人間味があっていいじゃないの。それに合わせすぎて目立つもの勘弁だわ。
「お嬢様、王太子殿下がお見えです」
「えぇ、いくわ」
執事がエルキュール様の到着を告げる。それに私は頷くとアヴリールが用意してくれたバッグを受け取り、玄関ホールへと向かう。てっきり、玄関ホールの横にあるサロンで待っているのかと思えば、ホールで待っていた。ブーツ、ズボンと着崩したシャツにクラバット。ちょっとオシャレを気取った青年といったところかしら。髪や目の色は以前の変装と同じ色。えぇ、すぐにわかりましたとも。
「その格好も凄くいいな」
「言っておきますけど、エルキュール様のためにしたのではありませんからね。ただ、王都を歩くと言うことでそれに合わせただけですので」
「そうか。でも、いつかは俺のためって言わせてみせるよ」
「どうぞ、お好きになさればいいのでは」
言い訳がましく言ってしまったというのにエルキュール様は大して気にしてない様子で宣言される。えぇ、もうツンデレと言われても仕方ないレベルでツンを発揮してしまってる気がするわ。別にツンデレというわけではないのに。
「あぁ、街に行く前に注意なんだが」
「何か?」
「エルと呼んでほしい。様付けはなしな。それから、敬語も」
「無理です。様なしとか、敬語なしとか無理です」
「いつも使用人たちには普通に話してるだろ。そんな感じで話してくれたらいい。それに平民を装うんだからその辺も合わせておいた方がいいだろ」
確かにごもっともなのだけど。エルキュール様に素で話すとか、いらん事まで言ってしまいそうで怖いのよ。いや、でも、名前くらいなら別名にすれば、平気かしら。
「では、別の名で呼ぶのはどうでしょう? エラとかヘレでもいいですし」
「エラ? ヘレ?」
「以前、私の前世の話をしましたでしょう。前世でエルキュール様の名前はヘラクレスともエラクレスとも言い換えられまして。エラは言い換えの分から取りました。またヘレはヘラクレスという名が“女神の栄光”の意味があり、そのヘラの別読みといいましょうか」
面白いなと目を細めるエルキュール様。不快に思っている様子もないし、選択肢は間違ってないわよね。それに呼び捨て前提であれば、原型のある別名で呼ぶ方が気分が楽だもの。
「その女神は何かを司ってるのか? ほら、この世界の神も細かく色々と司ってるだろ?」
「確か、ヘラは結婚の女神だったかしら。よく聞く名ではありましたけど、私自身、あんまりそういうの詳しくないので」
「なるほど、結婚か。今の俺には得たいものだしぴったりだな。それに特別という感じがしていいな。じゃあ、ローズいやロジェ、俺も特別な呼び方をしよう」
そう言って、サイドに流していた髪に口付けをする。そっと思い出したのだけれど、ヘラって嫉妬がすごい女神だったわよね。本人が言うようにピッタリすぎて怖いのだけど。大丈夫よね、結局エラとヘレの間を取ってエレになったわけだし。いや、でもなんかすごく余計なことをした感が半端ないわ。コレからが本番だって言うのに……。
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明日もデートは続きます







