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何とか叙任式が無事に終わり、見た目的には平穏が訪れている。えぇ、見た目的には。
「ローズモンド嬢、エルからデートのお誘い、来てますよ」
「えぇ、そうね」
「一回でもいいんで行ってやってもらえません?」
お茶会以外にも便りがくるようになった。しかも、この便り、お出かけのお誘いと来たもんで。私は断りに断っている。けれど、さすがにエルが可哀想だと我がジラルディエール家で謹慎中のイニャス様が声を上げる。謹慎と言っても半分私の付き人なのよね。だから、エルキュール様からの手紙も確認しているし、お茶会の日には王都にくっついて来る。ただね、我が家で謹慎ということもあって名前呼びを許可してたのだけど、それを知った時のエルキュール様の顔が怖かった。イニャス様はその顔を見た瞬間、エルキュール様が見えない位置まで逃げてたのだけど。まぁ、それもあってからからイニャス様は私におでかけを薦めることが多くなった。えぇ、脅されたのかしらね。ほんと、仲がいいわ。
「何ならお茶会をデートに切り替えます?」
「わかった。行くわ。行くからそれはやめてちょうだい」
エルに言えば一発で変えてくれると思いますよと言う言葉には流石に負けた。だって、一度でもお茶会を外出に変更したならば、あの方だったら間違いなく味を占めるはず。えぇ、お茶会以上に近づかれ放題になってしまうもの。何より私の心臓がもたないわ。
「俺が言うのもアレですが、悪い男ではないですよ?」
「えぇ、知ってるわ。知ってるのだけどね」
性格も表向きは穏やかだし、貴族女子からしたら王子妃教育などめんどくさいものに対し目を瞑れば好物件なのでしょう。まあ、女性の頂点に立ちたいのであれば、なおのことでしょうけど。
「それはそうと私の前でも口調を崩してもいいのよ?」
「いいえ、養父に口調を崩さぬようにと言われておりますし、何よりまだ殺されたくありませんので」
誰にと聞きたかったけれど、わかったわ。エルキュール様ね。それにギーから教育を受けてるのだったわね。
「あぁ、それから、先日のことは内密にお願いいたします」
「えぇ、わかったわ」
先日は確かに口調が崩れてたものね。墓場まで持って行きたいわよね。
「それで、こちらの返信は了承で出しておきましょうか」
「……そうね」
「間はなかったことにしておきますね」
それだけいうとイニャス様は下がっていった。それにしても、イニャス様をそばに置いてわかったことがある。
「あの親からどうやったらイニャス様のような子が生まれるのかしら」
後々、お父様からイニャス様の元ご家族のことを聞いたけど、父親や後継者は学園にすら通っていなかったらしい。まぁ、貴族だと思っている平民だったわけだし、それも当然かもしれないけどおかしいと思わなかったのね。ただ、イニャス様はエルキュール様の侍従に選ばれたため、しっかりと教育をされ、在籍自体は一瞬だったらしいけど学園にも所属していた。もしかしたら、ここら辺で差ができてしまったのかもしれないわね。
「それにしても優秀だわ」
エルキュール様のそばにいるため必死こいて勉強したのか、少しばかり手伝ってもらった資料など綺麗に情報が整理されている。王宮に戻りたくなければ、うちで雇うのも本当に視野に入れていいわね。これだけの人材を逃すのは勿体無いし。今、思えば、グッジョブだったわ、私。優秀な人材を一人死なせてしまうところだったもの。今の所、彼が死にそうな様子もないし、強制力というかゲーム補正は少ないのかもしれないわね。まぁ、イニャス様が名前なしのモブだったからそうであるだけでネームドで攻略対象者であるエルキュール様は違うかもしれないから過度な期待はできないのだけど。
後日、お出かけの日程が届けられた。お茶会の次の日に設定されているそれ。私はそっとお母様にお出かけに来ていく服を相談するのだった。だって、エルキュール様とお出かけできるような服は持ってないもの。当然でしょ。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。







