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「意味はわからなくていいよ。俺がわかってれば、それで」
何かを含んでるような言い方にムッとなってしまうのは仕方ないこと。けれど、問うたところで、エルキュール様は答えてくれないだろう。
「そもそも、タイプじゃないんだよな、このヒロインとやら」
「え?」
「俺はどちらかというとローズモンドみたいな綺麗めの子が好みだ。理想はローズモンドだけど」
「そこは聞いておりませんので結構です」
私の手元にある紙の束からここだったかなとヒロインのことが書いてあるメモを取り出しながらそんなことをおっしゃるエルキュール様。けれど、私はそんなエルキュール様の好みの話をスパーッと切り捨てる。えぇ、自分が喜んでしまわないようにするために必要なことだもの。喜んでしまって裏切られるなんて真っ平ごめんだわ。酷いなぁと言って笑っておられるからそうも気にしていないでしょうに。
「ところでさ、ここに書いてある強制力って何?」
トントンとメモの隅に書いてある戯言。世界の強制力はあるのか否かと書かれた言葉がエルキュール様は気になったよう。強制力と単に言われてもわからないわよね。
「スキルで予知がこの世界にはありますよね」
「そうだね。細かいものから大雑把なものまで、差異はあるけど」
「その予知だと仮定してお話しします。ここが始まりとしまして」
エルキュール様の前を起点としてエルキュール様のカップをそっとずらし置く。そして、時間経過した場所に私のカップを置く。エルキュール様は紅茶を飲んでいないので目減りをしていない。私のは飲んでいるから減っている。これなら、わかりやすいだろう。
「カップの中身だけを気にしてくださいね。時間経過でカップの中身は減るとします」
予知では飲んで減らしたとします。けれど、予知で知り、飲まなかったとする。すると本来であれば、結果的に減らないことになるだろう。しかし、そこに強制力が働くとどうにかして時間経過した後にカップの中身が減るように予知になかったことが起こる。そして、結果的に中身が減る。
「つまり間の過程を変えたところで結果は変わらないと。変えられない未来、強制力と私は呼んでます」
「なるほど。つまり、君は強制力で死ぬ確率があると」
「えぇ、まあ、そういうことですわね」
死ぬとしても何十パターンもあるし、婚約破棄された後と決まっていても日時はバラバラだから、回避できるか自体不安ではあるのよね。
「ローズモンドが死んだ後は俺も死ぬ?」
「いいえ、ヒロインとくっつこうがくっつかまいがどの結末であってもそれはありませんわ」
「そう、わかった。それで婚約破棄は必ず?」
「えぇ、このシナリオにおいては醍醐味と言えるものですから」
「なるほどね」
何がなるほどなのかしら。それにしてもヒロインが好みじゃないだなんて、予想外だったわね。まぁ、攻略対象者だとしても人間だものね。そういうこともあるわよ。
「エルキュール様、魅了の分類って呪いでしょうか?」
「……呪い、かな。どうかした?」
「いえ、よく物語で、その、転生物がありまして」
「うん」
どう説明したらいいのだろう。前世の記憶があると彼に伝えたわけではないから、説明が難しい。いや、いっそのこと前世の記憶があることを伝えておこうか。そうね、うん、このメモもバレてることだし、そうするのが賢明かもしれないわね。
「私の前世でそういう物語があるのです」
「前世」
「はい、前世では転生物という物語がよくありまして、私のように悪役令嬢と呼ばれる者に生まれ変わってヒロインと対峙するだの、ヒロインに転生してシナリオをほっぽり出してのんびり暮らすなど様々なものがあったのですが」
「うん」
「悪役令嬢になった主人公の場合、多いのがヒロインが魅了持ちであるというパターンがありまして」
それを聞くとエルキュール様はなるほどそういうこともあるかと手で顔を覆う。
「魅了持ちか、めんどくさいな。そうなるとできるだけ早く父上に指輪を渡してもらわないといけないな。それに婚約破棄ができないように対策も立てないといけないか」
何やらぶつぶつと言い出したエルキュール様を尻目に私は紙の束を確認する。もうここ最近はシナリオのことを忘れかかってるもの。
「……あの、エルキュール様」
「ん? 何?」
「何やら、調査書とか挟まれてるのですが」
「あぁ、それ、イニャスに調べてもらったやつだな」
どうやら、真偽を確認するために調べられたらしい。この世界にいる攻略対象者についてつらつらと書かれている。王族に関しては流石に調べられなかったらしく簡素ね。
「今日も泊まってくれたら色々話ができるんだけど」
「いえ、帰ります。帰らせてください」
「まぁ、まだ時間は沢山あるしな。一緒に対策を考えよう」
「……別に一緒でなくとも」
「ローズモンド側だけで動くよりもいいと思わないか?」
君側だけで動いて、こちらも勝手に動いて予想出来なくなるよりはいいだろうとエルキュール様はおっしゃる。えぇ、確かにその通りなのだけど。悶々と考えてしまうけれど、結局はその提案に私は頷くことになった。前世があると教えてしまったわけだし、協力してる方が、なんていうことよりももう少しだけエルキュール様の隣にいたいと思ってしまったのが原因だったりする。
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