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現れたのはかつて私がメモ書きした紙。えぇ、ゴミになったのだろうと思っていた乙女ゲームについてメモ書きした紙だった。
「ーーッ!!!」
「早く言わないととは思ってたんだが」
「い、いつから」
「……デビュタントの日、からからな」
いっそのこと殺してくれと思うのは私だけかしら。いいえ、きっと皆私と同じ状況に陥ればそう思うに違いないわ。
ふと、夢の話が過ぎる。いや、現物がある上に彼自身が言っているわけだし、もはや夢ではないのだろうけども。
「私に話しかけた、なんてことはございませんよね」
にっこり。えぇ、もう、答えはわかりました。あれは夢ではなかったのですね。夢ではなかった。わかっていたことだけれど、こう胸にくるものがある。
「あー、もういっそのこと、殺していただけません?」
「死にたくなくて婚約解消に躍起になってたのに?」
「そりゃあ、今でも死にたくありませんとも。けれど、羞恥から殺してもらった方が楽になるのではと思うことだってあるのです」
というか、くすくすと笑わないでいただけます。何も面白いことは言ってないわ。
「……あの日から好ましくなったと?」
「いいや、もう少し前だな。ローズモンドの本音を聞けて嬉しくなったのは事実だけど」
「うっ、もう少し前? 何かありましたっけ?」
「『貴方、殿下みたいね』だったかな」
「……どこかにいい自殺の名所などございませんこと?」
覚えてるわ。えぇ、覚えてますとも。殿下にとてもよく似た方が孤児院にいらっしゃったこと。あぁ、今思えば、付添人の一人はイニャス様ですわね。どこかで見たことがあるなって思ったら、そこだったわけね。なんで今まで思い至らなかったのかしら。自分のバカさ加減に頭が痛いわ。
「あのぐらいからだったかな。君が気になってしょうがなくなったのは」
「いっそ、死んだことにして逃げればよかったかしら」
「それだと、無意識に俺は死んでただろうな」
「……はい?」
「今だって、そうだ。君が死ぬというのなら、俺も死ぬだろう」
言っている意味がわからない。今ならなんとなく理由はわかる。けれど、それ以前だと私は嫌われていたはずよ?
「俺が頑張ってる理由はローズモンド、君がいるからだ。それがいなくなったらどうなるかなんて簡単な問題だろ。頑張る理由を失って落ちぶれるだけだ」
「エルキュール様でしたら、そのようなことございませんでしょうに」
あるはずがないと首を振るけど、エルキュール様は笑みを携え、目を地面に落とす。
「俺の手を見て『頑張り屋さんの手ですね』そう言ってくれるのは君ぐらいだ。父上や母上、騎士や民衆はきっとそう思わない。俺が王子であるから、それが当然とみなす」
「そんなことは」
「ある。『殿下ならこのぐらいできて当然だ』そう言われることが多いんだからな」
その言葉に否定はできない。否定してはいけない。だって、すでにそれはエルキュール様が言われた言葉であるし、彼にとっては傷になってしまったものであるはずだから。
「君が死のうというのならば、俺も死のう」
「貴方は先程立太子し、王太子となったのですよ」
「そうだな。でも、代わりはいる」
王位継承者であれば誰だって代わりになれると簡単に告げる。
「ローズモンドのいない世界は想像したくない」
「それでもこれを読んだのならば、わかっているのでは?」
「わかってるからこそ、言ってるんだよ。それにそれを読んでイニャスなんかツッコミ放題だったし」
そう、イニャス様も読んでたの。いや、まぁ、侍従ですし、当然かもしれないけどね。
「ローズモンドは俺が守るから」
「貴方の手で死ぬ率が高いのですが?」
「気持ちはわからないまでもない」
「意味がわかりませんわ」
ここまで読んでいただきありがとうございます!







