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「それで、何があった」
別室に誘導され、そこで開口一番にそう尋ねられた。部屋には国王夫妻に我が両親、エルキュール様とイニャス様、そして私とお兄様。あとギー。キバチもいるけど、彼は影の中なのでノーカウントとしておきましょ。
「イニャスに邪魔されてた」
ケロリと簡潔にエルキュール様がいうと事情を知るもの以外の全員の目がイニャス様へと向く。イニャス様は居心地悪そうに体を揺する。
「僭越ながら、発言を宜しいでしょうか」
スッと私は手を挙げる。お兄様やギーにお願いしてもいいけど、一番最初に知ったのは私なのだから、私が説明するべきだと思った。
「構わん、言ってみよ」
一応、非公式とはいえ無礼講の時間と言うわけではないから陛下は王様モードのままだ。ちょっと座ってる位置がお父様に近寄って行ってるけど。
「イニャス様は半隷属ではございましたが、呪われておりました」
ビシッと空気が固まる。いや、その前にエルキュール様、びくりと何に反応されたのです? もしかして、イニャス様のお名前に反応したとか、そんなバカなことありませんよね。大丈夫ですよね。あとが少し怖いわね。
「ジラルディエール嬢、一体どういうことか。呪われた人間を採用してはいないつもりだが」
「採用された後に呪われたとしたら、いかがでしょう」
「ふむ、そうか、その手があるのか」
「なるほど、イニャスはエルを邪魔するように言われていたのか」
「いいえ、会場に来れないように邪魔するように頼んだのは私でございます」
陛下と妃殿下が首を傾げる。さすが、夫婦。いえ、そうではないわね。
「イニャス様が受けていた命令は恐らく『エルキュール様を殺せ』というもの。ですので、あのまますぐに会場に来られてしまうと次の作戦を取られる可能性がありました」
陛下はじっと私を見る。恐らくそれの真偽を確かめているのだろう。陛下のスキルは『審判』。嘘か真かを見ることができる。元々は常時発動型だったらしく、性格がああなったのもコレが原因だとか。おべっかを使わなかったことで好かれたのね、お父様。
「して、どこでそれを知った」
痛い質問だわ。えぇ、大変答えにくい。答えを間違えれば、私が黒幕とみなされてもおかしくはない。
「そうですね、頭に可能性が思い浮かんだとしか言いようがございません。可能性であったが故にお父様やお母様、ついては陛下たちに申し上げることができませんでした」
嘘は言っていない。事実であるとも言えないけれど。
「言いたくはございませんでしたが、私のスキルは『呪いの無効化』です。熟知が上がったことで呪いを可視し、どのようなものなのかを把握できるようになっております。これを合わせまして推察いたしました」
本当は言いたくないけれど、毒の分を言わなければ、利用価値は少ないはず。えぇ、毒よりは少ないはず。陛下や妃殿下が驚かれたところを見るとお父様は報告していなかったのね。嬉しい反面、裏切って申し訳ないわ。
あ、陛下が近づいてることに気づいたお父様がスッとお母様の反対隣に腰を下ろした。
「ヴィルジール」
「娘は嘘を言ってないだろ」
「確かに嘘は言っておらんが、なんで離れる」
「いや、だって、お前気持ち悪いし」
「ヴィルジール」
「ほら、話が進まんから、質問があるならさっさとしろ」
陛下、王様モードなのにすっかりしょぼくれてやる気を無くしてるわね。まぁ、嘘を言って煽ててもしょうがないから、いいのかしら。
「……はぁ、色々聞きたいことはあるのだがな。ソレも無事であったようだから、よしとしよう」
「お前」
「あぁ、もちろん、イニャスの元生家についてはじっくりと取り調べるつもりだ。そうだ、イニャス、あれらに対して何か証拠などはあるか?」
「一応、命令書などは保存しております。破棄の命令は受けておりませんでしたので」
「そうか。では、それを提出しろ。後、半年ほどジラルディエール領で謹慎な」
「は?」
「呪いにかかったことを伝えようと思えば、伝えられたであろう。命令書を破棄させぬなどと奴らはあまりにも抜けが多い。そう考えれば何もアクションを起こさなかったお前も悪い。故にお前の養父がいるジラルディエール領でしっかり絞られてくるといい。勿論、お前にエルに仕える気があるのならば、戻ってくれば良い」
はい、話終わり、さっさとどっかに行けとばかりにひらひらと手を振る陛下。いや、あっさりしすぎじゃない? 私、だいぶ緊張してたのだけど。
「それでな、ヴィルジール」
「さ、叙任式も終わったし、我々はお暇させていただこうか」
「待て待て待て、話は終わってないぞ」
「いや、終わっただろ。帰る」
「いーやーだー、帰るなー、ヴィルジールぅうう」
「さ、殿下方は向こうでお茶でもしていると宜しいかと。もう少々時間はかかりそうですので」
ギーはお父様や陛下に目を向けることなく私たちにそう告げる。用意もしていたのだろう、お母様は妃殿下に誘われ庭園に、私とお兄様、エルキュール様にイニャス様は廊下にポーンと放り出された。
「陛下の気が済むまで帰れそうにないな。イニャス殿、書庫を拝見することはできるだろうか」
「確認してまいります」
「いや、どうせ、ここにいてもしょうがないし、僕もついていこう」
「かしこまりました。では、こちらに」
サクサクと話を進めて、お兄様はイニャス様について行ってしまった。そして、場に残されたのは私とエルキュール様の二人となった。
「……私もお兄様についてーー」
「ローズモンドに見せたいものがあるから来てくれ」
お兄様のところへ逃げることはできなかった。えぇ、わかってることでしたけども。手を引かれ、連れて行かれたのはシンプルな部屋。あまり家具自体も最低限のその部屋は少し寂しい感じを受けた。
椅子に座らされ、目の前に紅茶やお菓子が用意される。最初からここに連れてくる予定でしたわね?
そう思いつつ、緊張のせいもあって喉も乾いていたため、ありがたく頂戴する。ゴソゴソと引き出しを漁っていたエルキュール様は大事なものなのか紙に包まれたものを私の目の前においた。
「叙任式、俺頑張って耐えたから、なでなでよしよししてくれていいよ」
私の隣に座ったエルキュール様はニコニコと笑いながらそう告げる。待って、なでなでよしよしって。嫌な予感がする。もしかしてと目の前に置かれたものに手を伸ばす。
「悪いとは思ってたんだよ?」
エルキュール様の言葉を聞きながら、包みを解く。そして、現れたものに私は固まった。
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小話
ジリジリとヴィルジールに近づく国王。その対面でローズモンドにちょこちょこと近づくエルキュール。それとなく逃げるジラルディエール父娘。
(((((親子ね/だな/すぎる/だわ/ですな)))))







