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「王太子はエルキュール・ヴェルディエとする」
宣言と共に王笏で床を叩く。王笏から光が溢れ、エルキュール様へと降り注いだ。それを受け入れるようにエルキュール様は跪き、頭を下げる。
「い、異議あり!!」
ほうと皆が幻想的な光景に息をついている中、そんな声が響いた。焦っているようなそんな声。まぁ、当然よね。計画が一気に瓦解したのだから。
「異議ありとな?」
陛下は片眉を上げる。この儀式に異議は求められてない。それは貴族であれば学んでいて当然のこと。家で学んでいなくとも学園で復習として教えられる。
「はは、はい! そ、そこの者は本当にエルキュール第二王子殿下でありましょうか」
「ふむ、なるほどな」
声を上げたのはギルメット家の人間ね。まぁ、普通はそう考えてしまうのは当然ね。そこは陛下もわかったらしい。ただ、彼は勉強不足ね。これも異議の件と同様、学園で復習してまで学ぶこと。
「其方の考えは最もである。されど、王笏はそれを本物と認めたのも事実」
「はえ? 王笏が、認めた??」
情けない声ね。まぁ、知らないのであれば、当然の反応かもしれないけど。王笏は健立当初から存在するとされる古のもの。そして、偽りを許さぬものでもある。つまり、王笏が光を降り注いだと言うことはそれは本物であるという証明。
「そ、その王笏は本物でありましょうか」
「…………」
片手で顔を覆った陛下は深く深く息を吐く。正直、場は白けてしまっている。当然も当然。王笏が本物か否か問うなど馬鹿げているのだ。まぁ、すり替えられることがないわけではないし、偽物であるという可能性もある。けれど、それができぬように何重もの防壁を組み、毎日防壁と現物を王や王妃が確認する。王に関しては確認のために魔力を込めその様を見るという。ちなみにその確認の様子は口伝。記録には一切残していない。理由は似たような効果のつけられた偽物を作らせないためとされている。
そんな王笏を偽物ではと言うのは陛下に対して管理が杜撰だったのではと言っているようなもの。ようは不敬にとられる言葉。
そもそもこれらの話も学園などに通っていれば聞く話の一つ。当主や後継者であれば、知っていて当然の話でもある。つまり、知らぬということはその教育を受けていないものということ。
距離を取られてもしょうがないことよね。
「あー、もうよいもうよい。これ以上は口を噤め。これ以上は其方の程度が知れるというもの」
「しかし、万が一偽物であるものを王太子としてしまーー」
「黙れと言ったのが聞こえなんだか」
雷のような声。空気が緊張に震える。
人って多面性あるわね。一面見ただけではその人の本質は知れない。よくわかるわ。今、王としている陛下と対お父様の陛下、同一人物とは信じられないもの。
それにしてもよく無知をひけらかして言い募れるものね。恐らく黒幕は沈黙を選択してるはずよ。だって、喋れば喋るほど何か企んでましたと言っているようなものだもの。
「王笏が認めた、異議は許さぬ。我が指名の王太子に相応しくないと言うなれば、確固たる証拠を持ってくるがよい」
陛下のいうことが正攻法なのよね。ここは可否を問う場所ではない。そもそも、古くには王太子が不適合であるということで数家の貴族が駆け巡って証拠を集め、提出したという話がある。勿論、その情報は精査され、結果的に廃太子され、別のものが立太子したというおまけつきで。だから、不服があるのであれば、なぜ不服なのか証拠や情報を後日提出すればいい。今、ここでやることではない。
「外に放り出しておけ、と言いたいが今は叙任式の途中である。口を塞いで後ろに転がしておけ」
叙任式の時は出入りができなくなる。その弊害がこれね。まぁ、エルキュール様が来た時のように外と繋げる方法があれば別だけど。近くにいた貴族たちが自分たちのクラバットや紐状のものを使い、ギルメット親子を拘束。列の後ろへと追い出した。
「では、司教」
「かしこまりました。続けましょう」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
跪いたままのエルキュールは早くローズモンドを目に映したくてプルプルしてます。ちらりと見たときはそんなにしっかり見れてなかったらしい。







