52
王城にある一番広い広間。そこが叙任式の会場になる。一番身分の低いものから入場し、扉の付近から人で埋まっていく。とてつもなく広い、というようなところでは無いから参加者は当主と夫人、後継者とその婚約者と限定されている。伯爵位までは複数室でまとめて控えさせられるのだけど、侯爵また公爵家になるとそれぞれ家族で一部屋控え室が用意されているため、順番が来ると呼びにくる。王族は王位継承者を除いてはまとめられるけど、王位継承者は個別にされる。直前の情報などが耳に入らないようにするためと言われてるわね。で、そこには使用人が呼びにいくことはない。個々に侍従がついているからだ。彼らが状況を把握して、誘導する。通常の式典であれば、そんなことはないんだけどね。今回は立太子の儀である叙任式。婚約者も王位継承者とは一緒にいられないのだ。私はそれでいいのよ。えぇ、いいの。式にならないとエルキュール様が見れないのは残念だけど。
ちなみに一番重要な情報を持ってる陛下は部屋に軟禁されるはずなのだけど、我が公爵家がいる部屋まで来ていた。えぇ、来てた。でも、すぐに騎士と妃殿下に取り押さえられて連行されて行ったわ。なぜ、来たのか。お父様が眼鏡をかけて来たから。いいな、ズルい、俺も欲しい、お揃いがいいと騒いでいた。初めて見たけど、引くわね、あれは。
「な、気持ち悪いだろう」
「えぇ、まあ」
式の前だというのに疲れ切ったお父様に私は頷くしかなかった。
それから入場を告げる鐘がなり、暫くすると入場をと使用人が告げてきた。お母様はお父様が、私はお兄様がエスコートする。本来であれば、私は会場に入れない立場。でも、エルキュール様の婚約者であるから参加できる。
そうして、お兄様にエスコートされて入場すると驚きの声が聞こえる。耳をすませば、お兄様の婚約者だとか声も聞こえて笑いそうになる。お兄様、プルプルしないで。私もそうなりそうだから。
「それじゃ、成功を祈るよ」
「えぇ、そうね」
お兄様は私をエルキュール様の婚約者が立つ場所までエスコートしてくれるとすぐ隣の自分の場所に向かった。私が婚約者の場所に立ったことにざわめきは大きくなる。そんなに驚くことないじゃない。お兄様と私は銀朱の髪が同じだし、顔立ちだって似てるのだから。
ちなみに今回の儀では王族であれど、他の貴族たちと同じ場に立つ。立太子されれば、陛下の座る最上段より一段下の上段へ婚約者と共に移動することになる。
ゴーンと鐘がなる。場は沈黙が制し、王族が入場してくる。しかし、そこにエルキュール様の姿はない。イニャス様、上手くやったのかしら。私にはわからないわね。陛下が最上段に座り、その横に妃殿下が腰を下ろす。二人ともちらりとエルキュール様の場所を見る。しかし、陛下、さっき見たのと全然雰囲気が違うわ。流石と言っていいのかしら。
ゴーンと鐘がなる。入場が終了の合図。そして、始まるの司教の長い説教。どうして、こういう式典では長々しく話す人がいるのかしら。全員立ちっぱなしなのだから、その辺考慮してくれてもいいんじゃない。流石にお年を召している方には後ろの方で椅子が用意されているようだけど。
ゴーンと鐘がなる。長々とした説教は終わると出入り口である荘厳な扉が閉じられ誰も入出が叶わなくなる。エルキュール様は入れなくなった。えぇ、普通の人であれば、そう考えるでしょう。ちらりとギーから教えてもらった特徴を持つ人たちーーギルメット家を見れば、下衆い笑みを浮かべている。自分たちの作戦が成功したと思ったのでしょう。バカね。私には切り札がいくつもあるのよ。それよりも貴族でもないのによく入場できたわね。彼らの影でギーが笑った気がする。そう、そういうことなのね。
ちらりと上段を見れば陛下がお父様を見ていた。いや、あの目はお父様に向ける目ではないわね。お父様がちょうど後ろにいるとはいえあれは私に向いているのね。エルキュールはどうしたと言っているような気がするのは間違い無いわね。ご安心ください、すぐに参りますわと気持ちを込めて目を瞬く。
貴族たちの視線が私の隣にくるのを感じる。それもそうね。最有力の候補者であるエルキュール様がいらっしゃらないのだもの。何かあったものだと思うでしょうね。けれど、現状、どうすることもできない。立太子されるのはその場にいる継承者からのみ。つまり、この場にいないエルキュール様は立太子されない。例え、陛下が頑なに求めても適わない。
「陛下」
「うむ、王太子はーー」
陛下の指名が下る。ちらりと私の隣をみる陛下。キバチ、信頼してるわよ。
心で念じた瞬間、隣にトンと降り立つ音。厳粛だった会場がざわりとざわめきが波打つ。ちらりと横を見れば、目を瞬かせるエルキュール様の姿。そこのどこにも血はついてない。よくやったわ、キバチ、イニャス様。
「静粛に静粛に」
司教の声が響く。静まっていく会場。その間に私は何が起こったかわかっていないエルキュール様の意識を戻すためにその脇腹を小突く。それに驚いたエルキュール様は私を見て、周りと陛下を見て、ここがどこだかわかったらしい、身を正した。流石エルキュール様。取り乱さないわね。
「王太子はエルキュール・ヴェルディエとする」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
エルキュールの登場、NGシーンになった場合、間違いなくローズのドレスの中に飛び出ることになったと思います。







