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「おい、お前、俺に何をした!!?」
そう言って私のいる客室に飛び込んできたのはギルメット様。目が覚めたままで来たのか髪はボサボサ、衣服も乱れている。私は何かしたかしらと首を傾げれば、ギルメット様は乱暴に自分の頭を掻く。それにしても簡易ドレスに着替えておいてよかったわ。
「しただろ、間違いなく!!」
これは呪いがなくなったことに気付いたってことね。被害者だから早いわね。まさか、飛び込んでくるとは思わなかったけれど。
「なんで知ってる、俺が呪われてるって」
「あぁ、そのこと。そうね、話してもいいけど、部屋に入ってもらえるかしら。時間も限られてるし、このまま話すのは醜聞になるもの」
ギルメット様はようやく自分の格好と現状に気付いたのだろう。出直しますと去っていった。それからすぐに綺麗に身なりを整えてやってきた。それから、部屋に入ってもらうとドアは閉めた。それにギルメット様はギョッとする。私はそんな彼の反応が気にはなったものの、叙任式の準備を始める。
「それでなんだったかしら。あぁ、呪いに関してだったわね」
アヴリールにメイクをしてもらいながら、ギルメット様に私のスキルを伝える。呪いが見え、無効化できると。嘘は言ってないわ。伝える情報が少ないだけだけど。
「……いつから」
「さあ、いつだったかしら。その辺は覚えてないわ。でも、エルキュール様の傍にいるのであれば、呪いがあってはならないでしょ」
メイクが終われば、ヘアセット。本来は数人がかりでやってもらうのだけど、今回はギルメット様との話もあるからアヴリール一人でやってもらうことになる。難しいと思うし自分の髪だしとちょいちょい私も手助けをする。
「あ、そうそう、そこの紙に名前を書いてくださる?」
「容易に名前を書いてはならないと言われたことないでしょうか」
動揺しているらしいギルメット様は必死に侍従モードを引っ張ってきてるらしい。最初の乱暴な喋りをしない。
「正論ね。でも、そこに名前を書かないと貴方の後ろ盾がなくなるわ」
「は?」
「今朝、優秀な部下から貴方が籍を抜かれたと報告があったの」
「な!」
私の言葉に驚きを隠せないギルメット様。当然よね。仕事が終われば、家に戻されると思っていたのね。
「これではっきりしたわ。貴方のご実家は貴方を捨て駒にしたの。エルキュール様を害した場合、貴方の独断であるとするために」
つまり、貴方が成功しようが失敗しようと関係がなかったのと伝えれば、驚きで目を見開いている。あぁ、よくよく見たの初めてだけど、綺麗なアクアマリンね。そんなアクアマリンに水が張っていく。そして、ギルメット様は嗚咽を漏らし、床に崩れ落ちた。
「私は貴方にこれまで通りエルキュール様の傍にいて欲しいの。だから、後ろ盾を用意したつもりよ」
用意したのはギーだけど。
「公爵家が周りを固めすぎると言われるのでは?」
「あぁ、それについては問題ございませんよ。我がギルメット家はどこにも組みしていないことになっておりますから」
「は?」
ギルメット様の疑問に答えたのは突如として現れたギーの言葉。勿論、突然現れた燕尾服の男にギルメット様が驚いている。いや、ギルメット家というのに驚いたのかしら。
「ご挨拶が遅れました。ギー・ギルメットと申します。貴方を息子として迎え入れたい。悪い話ではございませんよ?」
ギルメット様は混乱の真っ只中らしいのけど、ギーはわざとらしく自己紹介をする。
「私もギーから聞いて知ったのだけど、本来のギルメット家はギーらしいわ。ギルメット家と名乗る方は正式なギルメット家ではないらしいの」
「は、え、どういう、わけで」
「とりあえず、名前を書いてもらいましょうか。話はその後です」
「え、あ、え」
ギーに魔法ペンを持たされ、書類に線を引かされる。困惑してる中で、書類にはギルメット様の名前がしっかりと記される。
「これで、貴方は私の息子になりました。故にこれからはギルメットを名乗らぬように。あ、ついでにこれを渡しておきますね。次期伯爵の証です」
書類を掲げたギーはギルメット様ーーイニャス様にそう言って自身がつけてカフスを片方を握らせた。そして、スキップをしそうな勢いで書類を片手に部屋を出ていった。
「ジラルディエール嬢」
「ギーは伯爵らしいの。で、貴方はその後継になってしまったのよ。まぁ、後継となったのだから、話して問題ないわね」
ギルメット家は諜報を生業にする家であるということ。現在ギルメット家を名乗っている家はギーの給与で養われてるにすぎないことを伝える。
「で、これからのことなんだけど、いいかしら」
「なん、ですかね」
「予定通り、エルキュール様を暗殺するように動いて欲しいのよね。あ、当然ながらフリよ。で、なんとかして、ギリギリまでエルキュール様を叙任式に出させないで」
「…………」
「すぐに現れてしまったら、貴方の失敗を知られてしまうわ。次の動作をされてしまうと困るの。ただ、叙任式が始まってしまえば、彼らは動けないわ」
正直にいうなら、シナリオのためにそこだけでも辻褄を合わせておきたいのよね。ま、“血の叙任式”ではないし、イニャス様が生きてることでだいぶ変わるでしょうけど。
「ただ、貴方がエルキュール様のもとでは働けない、働きたくないというのなら、こちらで仕事を用意する手筈があるわ」
「……なんで」
「なんで? エルキュール様にとって貴方が唯一無二の侍従だからよ」
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