49 side:Ignace
最初っからわかってたことじゃないか。
エルを殺すのが俺の役割だ。そのために殺しの技を教え込まれたし、貴族の立ち振舞も教え込まれた。なにより、エルに取り込まれるようにアイツの傍に現れることのない人間を演じさせられた。長い間演じてたこともあって、今じゃそれが俺だ。
あの方が成り代わるために。あの方? 成り代わる? わからねぇ。でも、そう命令されてる。
最近、エルはなにか言いたげに俺の顔を見る。けど、結局は苦しそうな顔をして、何も言わない。きっと俺に見せなかった彼女のメモに書いてあったんだろう。
俺がエルを裏切ると。
あー、めんどくせー。アイツがそんな顔する義理はねぇんだよ。俺はただ命令で傍にいるだけなんだから。そう、命令でいるだけなんだから、気にする必要はねぇんだ。
「叙任式では間違いなくエルが選ばれるだろうな」
まぁ、その前に殺せと言われているが、俺にエルは殺せるだろう。いや、殺すしかないんだ。あぁ、俺の人生ってなんだろうな。最初からそうなるように決められているようにしか思えねぇ。逃げ出したいが、それは無理だ。心臓に絡みつく呪いがそれを阻止する。
『逃げれば、自死せよ』
逃げたら、自死しなくちゃいけない。そうなると、その周りを巻き込んだ呪いが拡散される。王族は間違いなくその呪いの範疇になるだろうな。あぁ、本当にままならねぇの。
「命令を忘れるな、か」
届けられた家族からの手紙。労わる言葉なんかなく、それだけ記されていた。ギルメット伯爵家の三男坊。三男坊というもののあの家じゃ、奴隷も同然だ。はぁ、と溜息が落ちる。
「ほら、さっさと寝ろよ。明日は大事な叙任式だろ」
「ローズモンドが城にいると思うと寝られない」
「寝ろって。ジラルディエール嬢ならとっくに就寝したって報告上がってきたぞ。第一に目の下に隈なんかつけててみろ、ジラルディエール嬢に心配されんじゃねぇか?」
「……それは、いいかもしれないな」
「よくねぇよ、バカ」
パシッとエルの頭を軽く叩く。冗談めかして不敬だぞというけれど、そんなことを思ってもねぇくせに。
「イニャスは」
「ん?」
「イニャスは俺が王太子になってもならなくても侍従でいてくれるよな」
「……あぁ、俺の気が変わらなきゃな」
「そうか」
ふにゃりと笑うとエルはおやすみと寝室に姿を消した。今なら、エルを苦しませず殺せるか。いや、今、死んだことがバレるのはダメだな。直前でないと。陛下に考える時間を与えてはいけない。あぁ、そうだ、考えさせてはいけない。
そっとメディスンバッグに隠したナイフから手を離す。そして、おやすみと小さく呟いて俺は暗くなった廊下を歩く。
「ごきげんよう」
カーテシーをして登場した銀朱の少女。いや、もう、十四にもなるのだから、少女はおかしいか。後ろには見覚えのない暗い髪の青年が立っている。
「なんで、ジラルディエール嬢がいらっしゃるのでしょう。就寝したと聞いておりましたが。それに警備のものが仕事をしてないのですかね」
「警備の方たちはしっかりと仕事をしてるわ。ただ、私が特別な手を使っただけ」
「ふーん、まぁ、いいですけど。それで、俺に何か用ですかね?」
「えぇ、私わかりましたの」
「……なにを? あぁ、俺がエルを裏切るって?」
「いいえ、貴方はエルキュール様を裏切らないわ。裏切れないの。だから、エルキュール様は貴方以外の侍従を決してつけなかった。つけたくなかった。貴方が死ねばシナリオ通りになるのでしょう。でも、私はシナリオ通りに動くつもりはないの」
私はエルキュール様のためにも貴方に生きていてほしいから、そう言いながら近づくジラルディエール嬢。何を考えているかわからず、後ろに下がる。けれど、次の瞬間、後ろからどんと衝撃。前へとジラルディエール嬢へと倒れかかった。
「貴方の胸に渦巻く醜い呪いとはバイバイしましょうね」
まるで子供に言い聞かせるように呟かれた言葉。何をと尋ねる前に体中を電撃が巡り、俺は気を失った。
「なあ、電撃までいったか?」
「あら、必要よ。手札というのは見せびらかすものじゃないもの。それにこれはどちらかというと時間稼ぎよ」
ピーーーッ、警笛が響く。
「さ、部屋に帰りましょう」
「コイツは放っておいてもいいのか?」
「ええ、大丈夫よ。すぐに警備のものが見つけてくれるはずだもの」
ローズモンドの言葉と空を飛ぶ友人の姿を見て、キバチはなるほどなと頷くと彼女と共に影へと沈んだ。
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明日はローズ視点になります。ようやく叙任式が近づいた
とある日の作戦会議
「ルティーシュ、悪いんだけどこの時間帯にこういう飛行ってできるかしら」
「可能です。しかし、王城の敷地内に侵入するというのは」
「あら、空中は空域ではあるけれど敷地ではないわ。着地しなければいいのよ」
「それは、そうなのでしょうか」
「えぇ、そうよ。大丈夫、貴方は具合が悪くなってふらついて王城の空域に入ってしまっただけだもの」
「そうですか、私は具合が悪くなってふらついただけですか」







