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「自己紹介しておりませんでしたかな? ギー・ギルメット。数十年ほど前より拙いながらも伯爵を務めております」
私、ギーはギーだとしか思ってなかったわよ。そもそも、そもそもね。
「なんで、伯爵が家の執事長を勤めてるのかしら!?」
「ほっほっほ」
「いや、ほっほっほじゃないのよ」
朗らかに笑ってるけど、こちらとしては笑い事ではない。思わず、頭を抱えれば、ギーは笑みを携えたまま、口を開く。
「正式なギルメット家はギルメットを名乗らぬのです。今回は伯爵として名乗らせていただきましたがね」
まるで、ギルメット様が正式ではないような口ぶりねとギーを見れば、一際笑みを深くする。
「えぇ、お嬢様の思われている通りでございます。ギルメット家は領地を持たぬ貴族である上に、諜報を生業としております」
「もしかして、ギルメット家と名乗ってるのは」
「左様でございます。何かあった時用の人員、罪を肩代わりする者」
そんな秘密を告げていいのかと尋ねれば、陛下から許可をもらっているのだとか。しかし、この公爵家は王家の信頼が厚すぎるわ。でも、許可をもらっているのであれば、聞いてて損はないのかしら。
「では、エルキュール様の侍従をしているイニャス・ギルメット様は」
「そちらの家系です。しかし、何故、お調べになっているので?」
そこはギーもわからなかったらしい。私はギーに今の所属を確認する。
現在は諜報が必要な事項はないため、普通に公爵家に勤めているのだとか。えぇ、普通にとは意味がわからないわ。とはいえ、お祖父様に諜報を生業にしていることを承知の上で雇わているみたいだから、無視することにしましょ。ただ、王家の命令があれば、諜報活動を今でもすることがあるらしい。
「公爵家に属するものであるという認識でいいわね。王家には報告しないわね?」
「えぇ、このギー・ギルメット、この名に報告しないことを誓いましょう」
「お父様にはすでにお話ししてることなのだけど、イニャス・ギルメット様は呪われています」
私の言葉にギーは笑みを仕舞い、眉を顰める。意味がわからないのでしょう。えぇ、そうよね。
「呪いは“半隷属”と“死の拡散”」
「それは……王族の傍にいる人間であるならば、あってはならぬものではありませぬか」
「えぇ、でしょうね」
「そうですか、そうですか。気付かぬうちにギルメット家はそこまで堕ちておりましたか」
ギー曰く一族であろうと仮ギルメット家に興味がなかったから給金として金を渡して放置していたらしい。一応、当主は己が仮初の伯爵家であることを語り継いでいるはずですがとは彼の言葉だ。
「もし、どこかでその語り継ぎが途切れてしまったのであれば、自分たちこそが伯爵家だと思うのじゃないかしら」
「えぇ、恐らく、それで間違いないでしょう。しかし、貴族界でギルメット家はあってないようなもの」
「そうね、全然情報がないわ」
「伯爵という餌だけで他の貴族を釣ってるにすぎません。情報がないのも当然、中身がない家なのですから」
はぁと大きな溜息を吐くギーに私はこれからのことを告げる。公爵家で信頼できる家族、キバチ、ギーには私がこことは違う世界の前世の記憶を持っていることは告げている。そして、それにここに類似した遊戯の存在も。だからこそ、私のしを回避するためにある程度は協力してくれてるのよね。ただ、最近、お兄様やお母様は私とエルキュール様をくっつけるような動きがあるのよね。どういうことなのかしらね、本当に。
「“血の叙任式”ですか、なるほど、そうですか。それでギルメット家がどうなったかまではわからないのですね」
「えぇ、そこまで情報は出てなかったわ。それにギルメット家自体、名前が出てないの」
侍従がいたという事実はあってもそれがどう言う人物であったのか、名前はどうであったのかはエルキュール様の口でも語られていない。ただ、叙任式の後に間違いなく侍従は存在を消す。
「お嬢様の言うとおり、イニャス・ギルメットは捨て駒でしょう。叙任式前には籍を抜き、そんな恐ろしいことを考えていたとはや伯爵家とは関係ないなどと言い張るつもりか」
「えぇ、間違いなくそうね」
だから、彼らとしたら成功しようが失敗しようがいいの。
「仮に呪いを解いたとしても、彼は後ろ盾をなくすことになりますね」
「えぇ、そこなのよね。可能なら、今まで通りエルキュール様の侍従を勤めて欲しいのだけど」
「後ろ盾があっても本人が望まなければ、意味がないのでは」
「まぁ、そうね。でも、望まないのならそれはそれで仕事などを提供する手はあるし、エルキュール様も彼が無事で生きていてくれることに安心できるでしょ」
「なるほど、お嬢様の考えは最終的にそこに行き着くのですな」
「?」
「いえいえ、なんでもございません。ひとまず、彼の命を確保することを考えましょう」
なんか、すごい微笑ましいものを見させてもらいましたという顔をしてるんだけど、ギー。え、どう言うことかしら。よくわからなかったけれど、私はひとまず簡単な作戦をギーへと伝えた。
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