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羞恥事件と語ってもいいかしら。何、あれ、ねぇ、なんなの。なんだったの。あんなに甘いエルキュール様も怒ったエルキュール様も見たの初めてだったんだけど。それにあの時、間違いなくエルキュール様、唇にしたわよね。
「あぁああああああ!!」
しかも、可愛いローズを見せたくないしその話を誰かに聞かせたくないからとか言って、緘口令を敷きやがりましたし。羞恥、もう羞恥しかないわ。
「ローズ、荒れてるますね」
「強行突破でもされたかしら」
「母様、それ、洒落にならないですよ」
「でも、まぁ、あのぐらいだから、そこまではされてなさそうね。とりあえず、落ち着くまで例の部屋に放り込んじゃいなさい」
「あー、わかりました」
お母様とお兄様の間にどんな会話がなされたのかわからないけど、私は小さな部屋に落ち着けという言葉と共に投げ入れられた。倒れ込めば、目の前にはエル様人形。あっちを向いても、こっちを向いてもエル様人形。ちょっと作りすぎね、私。いつこんなに作ったかしら。
徐にひときわ大きなエル様人形を手に取ると抱きしめる。そういえば、エルキュール様、逞しかったな。触れ合う事自体ないから今まで知らなかったけど。いや、そうじゃない。違うって。スーッと落ち着くために人形を吸う。いい匂いもしたわね。だから、違うって。人形を床に押し付け、フーフーと息をする。
「……ルフェールに香水を調合してもらいましょう。そうしましょう」
いや、それよりもエルキュール様、気になること言ってなかったかしら。なんだったかしら?? 忘れたわね。だって、あのエルキュール様の感触の衝撃たるやいなや。思えば、二人っきりの茶会ばかりでデートもした事ないのよね。デビュタントも社交もないから触れ合うことすらなかったわね。いつの間にか身長を抜かれてるし、男の人になってるしで、意識するなと言う方が無理でしょ。言葉を忘れるほどの衝撃よ。
「……はぁ、こんなことしてる場合じゃないわね」
兎にも角にも叙任式は近づくのだから、私一人が何を言ったところで無駄。だったら、私は私にできることをやるしかない。大丈夫。だって、エルキュール様だもの。あれだけ頑張っておられるのを陛下が認めないわけがない。もし、エルキュール様の努力を踏み躙ろうものなら、お父様や皆を連れて外国に逃げてやりましょう。そうね、それがいいわ。
そうと決まれば、仕事をしましょう。
仕事の傍ら、キバチにはギルメット様の動向調査を頼んだ。日々、どういう風に行動しているのか知る必要がある。チャンスは一度切り、下手に動いて失敗は許されない。
「ギルメット伯爵家の三男坊ってぐらいしか情報ないのよね。しかも、ギルメット家はこれと言った噂もない」
私の手で集められるだけの情報を集めてみたけど、どう見ても上澄みを掬っただけ。碌な情報がない。うーんと悩んでいるとノック。入ってきたのはお父様のお使いで王都に来てくれたギー。
「おや、ギルメット伯爵家についてお調べで?」
「えぇ、そうなの」
ちらりと私の資料を見たらしいギーがそう尋ねる。そう言えば、ギーは長生きよね。もしかしたら、知ってるかしら。
「ギー、ギルメット伯爵様知ってる?」
「ふむ、伯爵ですか。それならば、ほぼ毎日顔を合わせているではありませんか」
「え?」
「自己紹介しておりませんでしたかな? ギー・ギルメット。数十年ほど前より拙いながらも伯爵を務めております」
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