45
チャンスといえば、これはチャンスなのよね。日頃の行いが良かったのかしら。
「叙任式前日、ローズを磨き上げるから、城に泊まるといい。すでにエギィからは許可をもらっているからな」
突然、前振りもなく、お茶会に出現した妃殿下はそれだけ言うと去っていった。エルキュール様は俺の部屋の隣にしようとか言ってるけど、その隣の部屋はダメ。
「客室でお願いしますわ」
「どうせ、王子妃になるのだからいいだろ」
「どうせとはなんですか、どうせとは。私は諦めておりませんから」
「いいよ、諦めなくても。その間はずっと俺の事を考えてくれるもんな」
心底とばかりに楽しそうに笑うエルキュール様。えぇ、ほぼ間違ってないわ。間違ってないけど、それが悔しい。
「色んな表情も見せてくれるようになったし、今はそれでいいよ」
思わず、ぐぅと声が漏れてしまう。それすらも楽しいようでエルキュール様はにこにこにこ。
「でも、意外だったな」
「何がでしょう」
「泊まるの嫌がるかと思った」
「妃殿下に言われて、否と言えませんから」
受け入れることに対して不自然ではない答えだろう。そもそも提案がなければ、私の方から妃殿下にお伺いを立てるところだった。逆にその方がエルキュール様の目をより引いたかもしれない。危ないところだった。本当に渡りに船だったわ。
「ただ、お願いがあるのですが」
「何!?」
そんなに前のめりにならないでいただけます? 確かに私からお願いするのは珍しいですけれども。ですけれどもね。
「私の侍女も同行させて欲しいのです。城勤めの方は勿論優秀な方々ばかりなのでしょうが、普段傍にいてくれるものの方が安心できるので」
「うーん、確かにそれは一理あるか。わかった。母上には俺から申し入れしておこう」
「ありがとうございます」
「あー、でも、一応、名前や容姿、経歴や証明書だけは提出してもらうかもしれない」
「それは求められて当然でしょう。それでは次回のお茶会までには用意しておきます」
帰ったら作戦会議をしなきゃいけないわね。連れていくのは可能ならアヴリールがいいのだけど、無理そうなら二人にしてもらいましょ。そういえばとふと気になった。
「叙任式といことは王太子が決まると言う事ですよね」
「そうだな」
「エルキュール様に決定したという認識でよろしいのでしょうか」
「さぁ、どうだろ」
「え? どう言う事ですの?」
聞けば、王位継承権あるもの全て叙任式で王太子になる可能性があるらしい。だから、必ず皆その作法を学ぶ。いいの、それでと思わなくもないわ。だって、そうでしょう。練習してたのに選ばれなかった時の気持ちなんて最悪でしかないでしょ。第一にエルキュール様はすでに執務を行なっていると言うのに。
「ローズモンド、もしかして、怒ってる?」
「怒ってはおりませんわ。ただ、納得できかねるだけです」
「ふーん、そう。でも、正直俺はローズモンドが傍にいてくれるならどちらでもいい。あー、でも、王太子じゃない方がローズモンドと一緒にいられるかな」
のほほんとそんなことをおっしゃる。なんで、貴方は努力されてきたじゃない。勉学だけでなく、剣術にも魔術にも力を入れてると城の者たちから聞いたことがある。それなのにそれを私なんかのために捨てられると言う。一緒にいるために。なんで、なんでと思っていたら、それは叫ぶように口に出ていた。
「何故、そんなことをおっしゃるのです!! 私のことはどうでも良い! 私なんかのためにそんなことをおっしゃらないでくださいまし!!」
「ローズモンド、なんかじゃない」
「なんかですわ! 結局、私は殿下の邪魔ばかりするんだわ!! 殿下にはもっと相応しい方が、その方のためにーー」
「ローズ!!」
怒るように叫ぶように名を呼ばれたかと思えば、グッと体を引き寄せられ、唇に温かなものを触れていた。目の前には美しいエルキュール様の顔。
「君は俺の邪魔をしてない。俺は、俺が、ローズモンドを伴侶にしたいと願ってるんだ。だから、どちらでもいいんだ。それに例え、王太子になったとしても君を死なせたりなんかしない。しないから」
ギュッと力強く私を抱きしめ、誓うように何度も呟くエルキュール様。どういう、事、なの?? 考えがまとまらず、呆然とする私にエルキュール様は慰めるように口付けを落としていた。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。







