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翌朝、王都の公爵邸に戻ると商会から手紙が届いていた。
『レンズとやらができました』
内容を読んだ瞬間、私はその手紙を天に掲げた。そんな私の行動に使用人たちはビクリと驚かせてしまったよう。ごめんなさいね。
「お母様、ただ今戻りましたわ。これから、領に帰ります」
「おかえりなさい。あら、今帰ってきたばかりでしょう」
「はい、ですが、ようやっと願ったものができたそうなので」
「あらそう、しょうがないわね。でも、道中は仕事せずにゆっくり休むのよ。いい、仕事はしないのよ」
念押しとばかりに二回も仕事をしないように言われてしまった。私、そんなに仕事してるつもりはないのだけど?
「ちゃんとわかってる? 仕事しないのよ」
「はい、わかってますわ、お母様」
「本当かしら。心配だわ」
頬に手をあてこてりと首を傾げるお母様。そんなに私、信用ないのかしら。けれど、帰ることに関しては反対はないようで執事呼んで、馬車の用意をお願いしてくれた。手配するのを忘れてたとか、そんなことはないわよ。えぇ。
程なくして、馬車の用意が整うと私はお母様に挨拶をしてすぐに飛び乗った。中には仕事しないようにだろう裁縫道具が用意されていた。別にいいのだけど。
サスペンションも作ってもらい導入していることもあって、揺れも少ないから殿下の人形でも作ればいいわ。領に入れば道も整備されてるからなおのこと裁断もできるだろうし。できそうにないと判断すれば、宿ででも裁断しておけばいいわ。そうして、私は領へと帰る道中はずっと人形を製作し続けていた。
公爵領へと戻るとお父様に挨拶をし、すぐに商会に向かうことを告げる。
「あぁ、おかえり。もう出かけるのか? 今帰ってきたばかりだろう」
「えぇ、ですが、願ったものができたと知らせをいただいたので」
「そうか、それは仕方がないな。だが、あまり仕事仕事と言っているとエグランティーヌに心配されるぞ」
「承知しておりますわ」
お父様のおっしゃる通りお母様に何度も注意されましたもの。だから、道中はちゃんとそれを守ったのよ? お母様がつけてくださった護衛なんかは見張りでもあったでしょうから。
「そうか、まぁ、気をつけて行くんだよ」
「もちろんですわ」
お父様との会話を済ませ、出かける間際、馬車の前でギーがどういたしましょうと悩んでいた。そういえば、馬車いっぱいに殿下人形になってしまったんだっけ。まぁ、ギーに任せておいたら大丈夫ね。そんなギーの後ろを通り過ぎ、私は商会へと向かった。
「例のものができたと聞いて」
「ほらナ、手紙なンか出すからお嬢が飛んで帰ってきたダろ」
ルヴェールたちの工房に顔を出せば、やっぱりナとばかりにフォルジュが笑う。ちょっと、失礼ね。
「できてなかったの?」
そんなことはないだろうけどそう聞けば、いいヤと言ってレンズの入った箱をフォルジュが私の目の前に置く。クッションの上に置かれたレンズたちは大きさも均等に作られていた。
「お嬢の言っていた倍率っちゅーもんはわからンが、ルヴェールのやつと見え方が違うモンをいくつか作ってみタ」
「カーブ、どあい、なやんだ」
「えぇ、そうでしょうね、そうじゃなきゃ、これだけ多くのレンズは作れないわ」
一つ一つ、確認してみれば、確かに倍率が違うようでその程度によって並べられていた。なんで、ここまで仕事ができるのかしら。
「それから、お嬢の言ってた非球面タイプも作ってみたンだが、これに対してはどうだろうカ」
差し出された数枚のレンズはまさにメガネのレンズというような形になっていた。内側と外側に異なる倍率になるよう調整したのだとか。
「もしかして、これとこれを合わせたレンズも作れる?」
「ン? あァ、一度作っちまえば、なンとなしには作れるナ」
「職人技ね。となると、人間に作ってもらうのは厳しいかしら」
「いンや、そこら辺を測る魔導具でも作っときゃいけンだロ」
「その手があったわね」
フォルジュやルヴェールばかりに負担をかけてしまうと思ったけど、それもそうね。魔導具だってこの世界にはあるんだから、それを利用すればいいのよね。研磨だって、魔導具を使ったじゃない。すっかり、忘れてたわ。
「おじょー、はい」
「これは」
「メガネってやつを作るのに使うってお嬢が言ってたロ。こンな感じかと作ってみたンだがどうダ?」
フォルジュが取り出したのはよく視力検査でお世話になるメガネフレームだった。レンズをこう差し込んでと実演してくれる様はまさにそれだった。
「ほんと、私は恵まれてるわ」
ありがとう、二人とも最高だわといえば、フォルジュとルヴェールは顔を見合わせてやったなと笑う。
「販売経路に乗せるカ?」
「いえ、まだ早いわ。とりあえず、お父様用のメガネと数個双眼鏡を作ってみてからね」
「りょーかい」
「おう、そうカ、わかった」
特に双眼鏡はお父様の見解も聞かなきゃいけないし、それが終わってからね。これで殿下と離れても遠くから殿下を眺めることができるわ。解消を諦めるつもりはないもの。それに結構コロコロと殿下ってば態度が変わってるもの、すぐに心変わりするに決まってるわ。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ルヴェールやフォルジュは数値など感覚で作ってます。今後はナタンやローズを筆頭に計算式などが組まれて数値でレンズが作られることでしょう。ローズのぼんやりとした感覚を敏感に感じ取って作成してくれるルヴェールやフォルジュは今後も彼女にとってなくてはならない存在になるでしょうね。







